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マレーシアの人身売買禁止法の改定に重大な懸念-ヒューマン・ライツ・ウオッチ
マレーシアの人身売買禁止法の改定に重大な懸念-ヒューマン・ライツ・ウオッチ
アメリカに本部を持つ国際人権NGO「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」(Human Rights Watch)は10年9月8日、10月から施行されようとしているマレーシアの改定人身売買禁止法(ATIP Act)に対して重大な懸念を表明しています。同国の人身売買禁止法は07年に制定されていましたが、議会で10年8月に一部改定されたものです。
「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」によると、改定法では人身売買の重大な人権侵害と、人の密入国という入国管理法違反とを混同してしまっていると指摘しており、法執行担当者は、人身売買の被害者を退去強制の対象にあたる非正規移住者とみなしてしまい、人身売買を取り締まろうとする政府の取り組みを弱体化させるとともに、人身売買された人、また虐待された移住者、難民などがさらなる人権侵害にさらされるリスクが高まるとみています。
国際法では、「人びとの密入国」と人身売買は同じものではなく、それぞれ異なった法執行戦略を要するものであるにもかかわらず、改定人身売買禁止法は、マレーシアが09年に批准した「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約を補足する人(特に女性及び児童)の取引を防止し、抑止し及び処罰するための議定書(国際組織犯罪防止条約人身取引議定書)のもとでの義務に反した密入国に関する条文を盛り込んでいます。「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は、人の密入国に対する取り締まりを強化しようとするならば、国境管理に関わる入管法などを改定すべきで、人身売買禁止法制に統合すべきではない、と主張しています。
以上のように、改定人身売買禁止法では、人身売買の定義が著しく狭められ、もはや国際法に準じておらず、人が「脅迫」という手段によって搾取される状況に置かれる犯罪に限定されています。この「脅迫」は、肉体的な危害を加える、あるいはそうすると脅すこと、および「法的プロセスの濫用」と定義されています。「人身取引議定書」は、人身売買は脅迫だけでなく、誘拐、詐欺、欺もう、権力の濫用もしくはぜい弱な立場に乗ずること、または他の者を支配下に置く者の同意を得る目的で行われる金銭もしくは利益の授受の手段を用いること、と規定しています。したがって、法律がそのような人身売買の定義を除外してしまえば多くの被害者が保護の対象から排除されてしまうのです。
「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」は、人身売買禁止法の改定は、「人身取引議定書」に則った内容であるべきであるだと提言しています。また、人身売買禁止法から人の密入国を除外することに加えて、非正規移住者の権利の保護を目的に密入国に関わる法律を改定することなどをマレーシアのアブドゥラ首相や政府に対して求めています。
一方、アメリカ国務省は、世界各国の人身売買対策に関する国別年次報告書を発表していますが、6月に発表した「2010年報告書」では、マレーシアは3段階分類のうち、第2段階のなかでも下位に位置する「要監視」(Watch List)にランクされています。シンガポール、タイ、フィリピン、ベトナム、ラオスなどの東南アジア諸国も「要監視」にあげられています。ビルマ(ミャンマー)は第3段階でした。
・ Malaysia: Revised Law Threatens Anti-Trafficking Efforts
・ Malaysia: Letter to the Prime Minister regarding amendments to the Anti-Trafficking in Persons Act