人種差別撤廃条約をモニターする人種差別撤廃委員会の第83会期が8月12日から30日まで開催され、ベラルーシ、ブルキナ・ファソ、チャド、チリ、キプロス、ジャマイカ、スウェーデンとベネズエラの報告が審議されたほか、人種主義的ヘイトスピーチ(憎悪発言)に関する一般的勧告35が採択されました。
人種差別撤廃委員会など条約委員会は、それぞれの条約の条文の解釈について、一般的意見や一般的勧告を採択することができます。人種差別撤廃委員会は、これまで条約の第1条の「世系」、刑事司法における人種差別、先住民族についてなどの一般的勧告を採択してきました。
一般的勧告において委員会は、条約に「ヘイトスピーチ」という用語自体がないものの、4条に該当するあらゆる発言、反イスラム主義や反ユダヤ主義など民族宗教的集団に対する憎悪の表明、集団殺害やテロリズムを呼びかけるような極端な憎悪の表明などをヘイトスピーチとしてこれまで懸念や勧告の対象としてきたとして、ヘイトスピーチへの取組が条約の趣旨の実現に欠くことのできないものであるとしています。
この一般的勧告は条約の第4、5、7条を中心に述べています。第4条は、特定の人種の優越性、皮膚の色、民族の集団の優越性の思想や理論に基づくあらゆる宣伝、団体または人種的憎悪及び人種差別を正当化し、または助長しようとするあらゆる宣伝、団体を非難し、また、このような差別のあらゆる扇動や行為を根絶することを目的とする迅速で積極的な措置をとることを締約国に求めています。委員会は、起草過程においてこの条文が人種差別との闘いの中心を占めると考えられており、差別の防止、抑止の機能を持つと指摘しています。
同条のa項では、人種的優越・憎悪、差別の扇動、暴力行為やそれに対する資金提供、援助の犯罪化と処罰を求め、b項では、差別の助長・扇動の団体の宣伝や活動の犯罪化と処罰を求めています。委員会は、人種または民族的優越性・憎悪に基づく思想の表明、人種、皮膚の色、世系などに基づく集団あるいはその構成員に対する憎悪・差別の扇動、そのような集団あるいはその構成員に対する暴力の威嚇・扇動、特定の集団や構成員に対する侮辱や憎悪、差別の正当化、人種差別を助長・扇動する団体や活動への参加を違法とすることを求めています。一方、人種主義などの発言の犯罪化は最も深刻なものにとどめるべきであり、それに至らない発言などについては他の手段をとるよう勧告しています。さらに、集団殺害や人道に対する罪を公けに否定したり正当化することも違法とするよう、ただし、歴史的事実に関する意見の表明は禁止すべきではないとしています。
一定の表現や行為を違法とするにあたって、委員会は、表現の内容と形態、表現が行われた経済的、社会的および政治的状況、表現者の地位や立場、表現の及ぶ範囲、表現の趣旨などの要素が考慮されるべきであるとしています。また、表現を広範で曖昧な規制で制限することは条約で保護されるべき集団に不利になり得ることから、制限は十分に精緻でなければならないことも指摘しています。
日本はa項とb項に留保していますが、留保を付している国について、留保が必要な理由、留保のその国の法制度や政策への影響、留保の制限や撤回の予定などの情報提供を要請しています。(9月10日)
出所:
General Recommendation No. 35- Combatting racist hate speech (人種差別撤廃委員会の一般的勧告 - OHCHR)
http://tbinternet.ohchr.org/_layouts/treatybodyexternal/TBSearch.aspx?Lang=en&TreatyID=6&DocTypeID=11
一般的勧告35(仮訳版)一般的勧告35.pdf
(2013年09月11日 掲載)