ヒューライツ大阪は12年11月から12月にかけて大阪で開かれた民主主義フェスタ「大阪ええじゃないか」の企画のひとつとして「桂七福の『人権高座』と笑いながら学ぼう『人権ええやんか!』」を開催した(p13に詳細)。この企画の「大喜利」を通じて人権を考えるプログラムに登壇したうちの二人に寄稿いただいた。(編集部)
愛と勇気とおばちゃんが世界を救う!
自民党の総裁選挙と民主党の代表選挙が繰り広げられていた2012年9月中旬、私は本当にうんざりしていた。日本全国津々浦々、どこを見渡しても日本を代表する顔になるのは「オッサン」しかおらんのか、と。スズメ(茶)にカラス(黒)にハト(グレー)。冴えない色で並び立つオッサンたち。すごく雑だけれど、人口の半分は女性ではなかったのか?そうであるにもかかわらず、どうしてあの場に「おばちゃん」はいないのか?日本で女性が参政権を得て、既に65年が経過しているのに、なぜ「おばちゃん」が政治政党の顔としてほとんど出てこないのか?
そんなことを、やや反射的にインターネット上のSNS(ソーシャルネットワーク)サイトであるFacebook(フェイスブック:以下、「FB」)に書き込んだ。「オッサン政治劇場に嫌気がさした。全日本おばちゃん党でも立ち上げたろか(笑)」と。そうしたところ、何十人もの友人が賛同してくれ、結果としてその日のうちにFB内のグループとして「全日本おばちゃん党(All Japan Obachan Party:AJOP(エージョップ))」が立ち上がった。シャレと勢いだけで始めたところ、12年12月中旬現在、1,300名を超す全国の「おばちゃん」が「党員」として名を連ねるまでに至った。
全日本おばちゃん党のスローガンは「愛と勇気とおばちゃんが世界を救う!」である。例えば、国連総会の各国代表をみても女性は半分もいない。世界の首脳にしても、12月に韓国で初の女性大統領の誕生が決まったが、半分が女性という割合には程遠い。やや短絡的ではあるが、世界を「オッサン」が動かしてきた結果がいまの社会なのではないかと考える。そうなると、世界中の「おばちゃん」が手をとれば、これまでとは違った社会がくるかもしれない、と本気で考えている。
現時点での「党員資格」は、FBのグループであるのでFBアカウントがあること、性自認が女性であること、それから、「全日本おばちゃん党」のグループに入る申請をすることが求められる。全日本おばちゃん党を始めてよくわかったのであるが、おばちゃんが政治談議をする場はほとんどない。とりわけ地方のおばちゃんからの「初めて自分の政治的な意見を言ったら、こんなに沢山の『いいね!』がついて嬉しい」といった書き込みも目立つ。「おなごは黙っておれ」と言われるとも聞く。そんなおばちゃんたちが、まるで水を得た魚のように政治のことから子どものおねしょ、更年期のことまで話題にする。また、おばちゃん限定には違う意味もある。おばちゃんはとかく、政治や経済のことを話すと「難しいことはよくわからん」、「何やわからんけどついていかれへん」という。現在の政治の状況は、多くのおばちゃん達の「よくわからん」「ついていかれへん」という責任を何もとりたくないポーズが元凶になっている部分も多い。そんなことから、おばちゃんが「暮らしのことは政治のこと」として捉え、おばちゃん全体の底上げ(ボトムアップ)をはかりたいと考えている。
FBでは専門職のおばちゃんも多いが、「普通」のおばちゃんもいっぱいいる。これまで、女性の政治参画の運動はいくつもあったが失敗した要因の一つは、一部エリート・キャリア女性のための運動であって、一般的には浸透しなかったことだ。「おばちゃん」という言葉は、この壁をすぐさま取り除いてしまう。あなたと私には、「おばちゃん」というつながりがあるではないか、ということだ。専門職のおばちゃんはいかに平易な言葉でより多くのおばちゃんに伝わるように書き込むか、「普通」のおばちゃんはできるだけ意見を表明するというように、どちらにとっても全日本おばちゃん党は、日々が訓練の場なのである。
「全世界おばちゃんサミット」の 大阪開催をめざして
そんななか、12年11月23日に「大阪ええじゃないか」の企画として「全日本おばちゃん党始動式」を大阪にて開催した。テーマを『おばちゃん生トーク!愛と勇気でオッサン政治を語る』と称し、司会に社会活動家の湯浅誠さんを迎え、福祉、人権、政治など生活目線から政治を考えるイベントを開催した。事前に各政党へのアンケートを取っていたのだが、全日本おばちゃん党としてはどこの政党にも肩入れせずに批判をしていたところ、伝統的左派政党の政治の仕方も古臭いと突っ込んだら会場から強烈にヤジられた。ヤジっていたのは、中年男性である。そんなことするから、市民運動が嫌われるっていうことが全くわかってないのがいかにも「オッサン的」であった。
イベントでは、「大阪ええじゃないか」事務局から「今日からできる10のこと」を主催者は発表するようにとの要請があったので、「おばちゃんが政治に参加するため、今日からできる10のこと」を発表した。
「全日本おばちゃん党」の始動式を終えて。
最前列向かって左から3人目が筆者(提供:全日本おばちゃん党)
【おばちゃんが政治に参加するため、 今日からできる10のこと】
1.ながら仕事大切
2.いらっときたら共有
3.うちの子もよその子も戦争に出さん!
4.息子をおっさんにしない
5.後進を大切に
6.「おばちゃん」を増やす
7.自分を下げてもひとをバカにしない
8.マダムを「おばちゃん」と呼ぶのだ
9.おせっかいは大切に
10.私のことは政治のこと…だから考える!
いずれも、おばちゃん達には大うけであった。しかし、よそ様を批判してばっかりでおばちゃん達は何も考えられない、と思われるのもシャクに触るので、12月2日の「大阪ええじゃないか」のフィナーレの際に全身ヒョウ柄を身に包んだ私が、特設リングの上で「おばちゃんはっさく」を公表した。これが大変好評で、あちらこちらで取り上げられている。いわば、全日本おばちゃん党の憲法のようなものだ。簡単に書いてはいるが戦争放棄、生存権、納税の義務、福祉、統治機構などを盛り込んでいる。
【おばちゃんはっさく】
前文 おばちゃんは、政治のことを自分たちのこととしてとらえ、日本の未来を真剣に考えています。おばちゃんは、自分だけが幸せ、自分だけが安全、自分だけがよい生活は、いやです。おばちゃんは、全世界の幸せな未来を考えています。ゆくゆくは、全世界おばちゃん党を目指します!
その1: うちの子もよその子も戦争には出さん!
その2: 税金はあるとこから取ってや。
けど、ちゃんと使うなら、ケチらへんわ。
その3: 地震や津波で大変な人には、生活立て直すために
予算使ってな。ほかのことに使ったら許さへんで!
その4: 将来にわたって始末できない核のごみはいらん。
放射能を子どもに浴びさせたくないからや。
その5: 子育てや介護をみんなで助け合っていきたいねん。
そんな仕組み、しっかり作ってや。
その6: 働くもんを大切にしいや!
働きたい人にはあんじょうしてやって。
その7: 力の弱いもん、声が小さいもんが大切にされる社
会がええねん。
その8: だからおばちゃんの目を政治に生かしてや!
おばちゃんの政治参加が世界を救う!
誰でも見ることができるFBページに「それぞれのお国ことばで言い換えてください」と添えて公表したところ、シェア(自分のページに取り込む)が1,000件を超えた。それだけ、いまの政治家が見ているところ、やろうとしていることが、生きた言葉として私たちに伝わってきていないからだろう。
さて、ここまで書いておいて何だが「おばちゃん」という表現に抵抗があるという女性も多くいる。世間では蔑称みたいに思われている節がある。それは「女は若くなければ値打ちがない」という日本的なロリコン発想の既成概念が生んだものではないのだろうか。「おばちゃん」が「おばちゃん」を謳歌することは、それ自体が解放なのだ。
なお、私のいう「オッサン」とは、やたら支配的で、自分中心に世の中が回っていると思っていて、傲慢でエラそう、他人の意見を聞かない人たちをさし、生物学的性別は関係ない。「おっちゃん」は、おばちゃんにも寄り添える素敵な男性のことをさす。
4年後には、「全世界おばちゃんサミット」を大阪で開催したいと目下計画中であるが、これが実現したら世界も違う方向に動くのではないだろうか。
(*全日本おばちゃん党は、政治政党ではありません。あくまで、政治談議を交わす井戸端会議をその目的としています。誰でも見れる広報のページ:http://www.facebook.com/obachanparty 公式ページ:http://www.facebook.com/groups/379466035459360)