A/HRC/RES/16/1
配布:一般
2011年4月8日
原文: 英語
人権理事会
第16会期
議題項目3
開発への権利を含む、あらゆる人権、市民的政治的、経済的、社会的、および文化的権利の促進と擁護
人権理事会により採択された決議*
16/1
人権教育および研修に関する国連宣言
人権理事会は、
2007年9月28日の人権理事会決議6/10の求めにより、人権教育および研修に関する国連宣言案の作成を行った人権理事会諮問委員会の作業を確認し、
諮問委員会の提出した案を基に、人権教育と研修に関する国連宣言案について協議し、最終案をとりまとめ、人権理事会に提出することを任務とするオープンエンド方式の政府間作業部会を設立した2010年3月25日の人権理事会決議13/15を想起し、
オープンエンド方式の政府間作業部会による、人権教育と研修に関する国連宣言案についての報告(A/HRC/WG.91/3)と、この宣言案を人権理事会での検討に付すとの決定を歓迎し、
1. 本決議に付属する人権教育と研修に関する国連宣言案を採択し、
2. 2006年3月15日の国連総会決議60/251パラグラフ5(C)に則り、国連総会に対して次の決議案を採択することを勧告する。
“国連総会は、
2011年3月23日の決議16/1によって、国連理事会が人権教育と研修に関する国連宣言案を採択したことを歓迎し、
1. 本決議に付属する、人権教育と研修に関する国連宣言案を採択し、
2. 政府、国連の機関と組織、政府間組織と非政府組織に対して、本宣言を広め、その普遍的な尊重と理解を促進するための取り組みを強化することを呼びかけ、事務総長に対しては、本宣言をHuman Rights : a Compilation of International Instruments[i]の次期改訂版に含めることを要請する。”
第44回会合
2011年3月23日
[無投票での採択]
Annex 付属文書
人権教育と研修に関する国連宣言
国連総会は、
人種、性別、言語、宗教に関わらず、すべての人の、すべての人権と基本的自由を尊重することを促進し、奨励するという、国連憲章の目的と原則をあらためて確認し、
すべての個人、社会のあらゆる機関が、人権と基本的自由の尊重を促進するための教育と学習に、努力しなければならないことをあらためて確認し、
さらに、すべての人は教育への権利を有し、教育とは人格とその尊厳の自覚の十全な発達を目的とし、すべての人が自由な社会に効果的に参加することを可能に し、すべての国および人種的、民族的、宗教的集団相互の理解、寛容及び友好関係を促進し、国連による平和と安全の維持、開発と人権の促進のための活動を奨 励するものであることをあらためて確認し、
世界人権宣言、経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約、及びその他の人権文書に明記されたとおり、人権及び基本的自由の尊重の強化のための教育の確保が、各国の義務であることをあらためて確認し、
人権の促進、擁護、効果的な実現に貢献する、人権教育と研修の基本的重要性を確認し、
1993年にウイーンで開催された世界人権会議において、すべての国家と機関に対して、人権、人道法、民主主義および法の支配をすべての教育機関のカリ キュラムに含めることが求められ、人権への普遍的なコミットメントを強化する目的で、共通の理解及び意識を達成するため、国際的及び地域的 (regional)人権文書に明記された平和、民主主義、発展及び社会正義を人権教育に含めるべきと明言されたこと[ii]をあらためて確認し、
各国元首が、人権教育のための世界プログラムの実施を含めて、あらゆる段階において人権教育と学習を促進することを支持し、すべての国家がこれに関わる取り組みに着手することを奨励した、2005年の世界サミット成果文書[iii]を想起し、
すべてのステークホルダーによる、協同の取り組みを通じて、人権教育と研修に対するあらゆる取り組み強化すべきであるとの強力なメッセージを国際社会に対して送りたいという望みに動機付けられ、
以下を宣言する。
第1条
1. すべての人は、人権と基本的自由について知り、情報を求め、手に入れる権利を有し、また人権教育と研修へのアクセスを有するべきである。
2. 人権教育と研修は、人権の普遍的、不可分、相互依存性の原則に則り、すべての人のあらゆる人権および基本的自由の普遍的尊重と遵守を促進するための基礎である。
3. すべての人権、とくに教育への権利と情報へのアクセスを実効的に享受することが、人権教育と研修へのアクセスを可能にするものである。
第2条
1. 人権教育と研修とは、人権および基本的自由の普遍的尊重と遵守を目的に、人権の普遍的な文化を築き発展させることに人びとが貢献できるよう、エンパワーするための、あらゆる教育、研修、情報および啓発・学習活動から成る。それゆえ、人権教育は知識とスキルと理解を与え、態度と行動を育むことによって、とりわけ人権の侵害と乱用の防止に貢献する。
2. 人権教育と研修は、次のものを含む:
(a) 人権の規範と原則、それらを裏付ける価値、それらを擁護するためのメカニズムについての知識と理解を含む、人権についての教育
(b)教育者、学習者双方の権利が尊重されるようなやり方で行われる学習と教育を含む、人権を通じての教育
(c) 自分の権利を享受し、行使し、そして他者の権利を尊重し守ることができるよう人びとをエンパワーすることを含む、人権のための教育
第3条
1. 人権教育と研修はあらゆる年齢の人びとに関わる、生涯にわたるプロセスである。
2. 人 権教育と研修は社会のあらゆる部分、学問の自由が適用されるところではこれに留意しつつも、就学前教育、初等、中等、高等教育を含むあらゆるレベルにかか わり、また、公立か私立か、フォーマル、ノンフォーマル、インフォーマル教育のいずれかに関わらず、あらゆる形態の教育、研修、学習を含む。人権教育に は、特に職業に関わる研修、とりわけ研修担当者、教師、国家公務員の研修、継続教育、民衆教育、広報と啓発活動が含まれる。
3. 人権教育と研修は、対象となる集団の特定のニーズや条件を考慮し、その集団にあった言語や方法によって行われるべきである。
第4条
人権教育と研修は、世界人権宣言と関連する条約や文書に基づき、次の目的のために行われなければならない。
(a)普遍的な人権の基準と原則に対する意識、理解、受容を高め、国際、地域(region)、国内のレベルで人権と基本的自由を保障すること
(b)誰もが他者の権利を尊重し、自分自身の権利と責任についても認識しているような、人権の普遍的な文化を築くとともに、自由で平和、多元的で誰も排除されない社会の責任ある一員として、人が成長するよう支援すること。
(c) 人権の効果的な実現を追求し、寛容、非差別、平等を促進すること
(d)質の高い教育と研修へのアクセスを通じて、すべての人が差別なく、平等な機会を保障されるようにすること
(e) 人権の侵害と乱用の防止、およびあらゆる形態の差別、人種主義、固定観念化や憎悪の扇動、それらの背景にある有害な態度や偏見との戦いに貢献すること
第5条
1. 人権教育と研修は、それを提供したのが公的な主体か私的な主体かに関わらず、平等、人間の尊厳、包摂と非差別の原則、とりわけ少女と少年、女性と男性の間の平等に基づかなければならない。
2. 人 権教育と研修は、誰もがアクセスすることができ、受けることができるものでなければならない。また、障がい者も含め、傷つきやすく不利益をこうむっている 人や集団の直面している特定の課題、障壁、ニーズ、期待を考慮し、誰もが自分自身の有するすべての権利を行使することができるよう、エンパワメントと人間 としての成長を助長し、排除や周縁化の原因を取り除くことに貢献するものでなければならない。
3. 異なる国々の文明、宗教、文化、伝統の多様性は人権の普遍性の中に反映されており、人権教育と研修はこれらを受け入れて豊かになると同時に、そこからインスピレーションを得るべきである。
4. 人権教育と研修は、すべての人のあらゆる人権を実現するという共通の目標に対するオーナーシップを高めるために、ローカルな取り組みを促進する一方で、異なる経済的、社会的、文化的環境を考慮しなければならない。
第6条
1. 人権教育と研修は、人権と基本的自由の促進のために、メディアと同様、新たな情報とコミュニケーションの技術を取り込み、これを活用すべきである。
2. 人権の領域での研修や啓発の手段として、芸術が奨励されるべきである。
第7条
1. 国と、場合によっては政府の関連機関は、参加、包摂、責任の理念に基づき開発され、実施されてきた人権教育と研修を促進し、保障する第一義的責任がある。
2. 国は、市民社会、民間セクター、その他関連のあるステークホルダーが、人権教育と研修に取り組むことのできる安全な環境をつくらなければならない。それは、そのプロセスに関わっている人びとを含む、すべての人の人権と基本的自由が完全に守られている環境である。
3. 国は、単独で、あるいは国際協力を得て、入手可能なリソースを最大限に活かしながら、法的・行政的手段を含む適切な方策によって、人権教育と研修が漸進的に実施されていくように手段を講じなければならない。
4. 国 と、場合によっては政府の関連機関は、国家公務員、公務員、裁判官、法執行官、軍関係者に対して人権と、場合によっては国際人道法と国際刑事法についての 適切な研修を保障しなければならないと同時に、教師、研修担当者、国の委託を受けて働く私人に対する適切な人権研修を促進しなければならない。
第8条
1. 国 は適切な段階で、人権教育と研修を実施するための戦略と政策、また、例えば学校や研修のカリキュラムへの統合を行うなど、適切な場合には行動計画やプログ ラムを策定するか、策定を奨励しなければならない。その際、人権教育のための世界プログラムと、国およびローカルなレベルでのニーズや優先事項を考慮しな ければならない。
2. そのような戦略、行動計画、政策、プログラムの計画、実施とフォローアップは、民間セクター、市民社会、国内人権機関を含む、関連するすべてのステークホルダーの参加を得て、場合によっては、多様なステークホルダーの関わりを奨励して、行われなければならない。
第9条
国 内人権機関は人権教育と研修において、とりわけ意識の向上と、関連する公的・私的な主体を結集させる調整役を必要に応じて果たすことを含め、重要な役割を 果たしうる。このことを認め、国はパリ原則に則り、実効性のある独立した国内人権機関の設置、発展、強化を促進しなければならない。
第10条
1. 社会の中の多様な主体、とりわけ教育機関、メディア、家族、地域コミュニティ、NGOを含む市民社会組織、人権活動家、民間セクターは人権教育と研修を促進し、実施する重要な役割を担っている。
2. 市民社会組織、民間セクター、他の関連するステークホルダーは、自らの職員や社員に対して、適切な人権教育と研修を確保することが奨励される。
第11条
国際連合、国際機関、地域的(regional)機関は人権教育と研修を、職員およびそれらの機関の下で任務につく軍人、警察官に対して実施しなければならない。
第12条
1. あらゆるレベルの国際協力は、場合によってはローカルなレベルでの取り組みを含めて、人権教育と研修を実施するための各国の取り組みを支援し、強化しなければならない。
2. 国際社会、地域(region)、国、ローカルなレベルで、相互補完的に、協調して行われる取り組みは、人権教育と研修のより効果的な実施に貢献することができる。
3. 人権教育と研修の領域におけるプロジェクトや取り組みに対する、任意拠出が奨励されなければならない。
第13条
1. 国際的、および地域的人権メカニズムは、その権限の範囲内で、活動の中で人権教育と研修を考慮しなければならない。
2. 国は、それが適切な場合、人権教育と研修に関してどのような方策をとったのかということについての情報を、関連のある人権メカニズムに対する報告の中に、含めることが奨励される。
第14条
国は、本宣言の効果的な実施とフォローアップを確保するために、適切な方策を講じ、これに関して必要とな財源と人材を確保しなければならない。
[i]訳者注:『人権:国際文書集』。人権関係の主要な宣言・規約・議定書・条約の本文を収録したもの。
[ii] A/CONF.157/24(Part I)1, Chap. II, para.79
[iii] 総会決議60/1
(訳:阿久澤 麻理子)