アジア人権憲章(Asian Human Rights Charter)は、アジア諸国の政府間において準備され採択された文書ではなく、 中国のホンコンを活動拠点とする人権NGO「アジア人権委員会 (Asian Human Rights Commission)」が提唱し、 200を超えるアジアの人権NGOと多数の専門家の参加と議論を重ねて作定した市民レベルの人権憲章である。 そして、世界人権宣言採択50周年を記念する行事の一環として、1998年5月18日、韓国の光州(クワンジュ)において公表された。
この憲章は、ヨーロッパ人権条約、光州人権条約そしてアフリカの「バンジュール憲章」などの地域的人権条約とは異なり、人権と基本的自由を保障するための法的人権基準ではなく、アジア諸国とその人民が、人権尊重を達成するために、当面している課題を維持すべき基本的問題意識を明確にしている文書である。つまり、アジア人権憲章は、人権に関する議論を深め、人権はアジアと無縁のものと主張するアジアの政治指導者の考えに反対する人民の考えを表明し、さらに、この地域諸国において、人権の確保に必要な政治的、社会的および法的改革を促進することを意図するものである。憲章は、さらに、この地域の文化的源泉を基礎にして作成されているが、偏見、差別、不平等そして暴力の世紀によって汚れた文化の源泉の浄化が必要であることも指摘している。
このように「アジア人権憲章」は、人権保障の法的基準ではなく、アジア諸国の文化的多様性と政治的経済的困難の中にあって、人権尊重の普遍的達成のために、政府、NGOそして市民が依拠すべき視座を提示している。そのため、アジアの人権確立を心から願い行動するための議論にとって重要な文書であり、日本の人々の理解と活用に供することは大変意義あると認識し、日本語に直すことにした。
(金 東勲 ヒューライツ大阪所長)