2011.10.06 up
上野 万里子
ヒューライツ大阪の韓国スタディツアーの参加は今回で3回目です。2年前の済州島のスタディツアーには参加できませんでしたので、次は必ず参加したいと考えていました。
昨今の韓国ブーム(韓流)で韓国へは気軽に誰でもいつでも行くことができますし、私も2010年は友人と二人で東海岸のDMZライン最北端の統一展望台まで行ってきました。しかしヒューライツ大阪のツアーは、個人ではなかなかいけない韓国を見ることができます。今回もその期待を裏切らないツアーでした。また、食事も毎回、その土地ならではのメニューを堪能しましたが、まだまだ食べ切れていないという思いもあります。
今回のツアーは私たちのように何回か参加していておなじみという方々もたくさんいましたが、ヒューライツ大阪の朴さんから自己紹介のときに参加者同士の異文化交流も深めてくださいという提案もありました。しかし、日程が朝から晩まで詰まっていていたせいもあって、参加者同士の交流がどこまで深められたか心残りです。
ツアー前の私の知識では、プサンの造船所で行われた整理解雇に抗議するため今年の初め頃から造船所のクレーンで空中篭城で抗議している労働組合員がおり、その支援のため韓国の各地からバスで大勢の人たちがプサンに集まり集会やデモを行ったようです。いったいどんなところで集会が開かれ、造船所の中には入れないまでもせめて外から見てみたいと夕食後の自由時間にタクシーに乗って工場付近までいきました。夜でもあり空中篭城しているクレーンはどこにあるのかわかりませんでしたが、ライトに照らされた大型の船の製造現場を対岸から見ることができました。
ソウルに移動後は、市内観光中にタクシーが渋滞、警官もたくさん出ていたので、運転手さんに尋ねるとデモの影響ということでしたが、何のためのデモかは詳しくはわかりませんでした。後で聞くところによるとプサンの造船所の整理解雇問題のためのデモだったようです。整理解雇に対して国会で社長が説明するという事態になっていたので、デモの場所はプサンからソウルに移っていたようです。
事前準備では、充分にわかりにくいことも、現地で実際にみて確かめることがやはり重要だなあと感じさせられました。
「今後は個別の課題で交流を深めたい」と、ツアー最後のプログラムの聖公会大学院での締めくくりでもあったように、このツアーでの出会いを契機として参加者それぞれの活動の場での交流が深まっていけばいいと思います。
次回、また韓国へのスタディツアーがあればぜひ参加したいと思っています。
植田 真紀
韓国には何度か足を運んだことがあるが、プサンに行くのは初めてだった。私は、今回のスタディツアーでは、とりわけ、プサンでのプログラムを楽しみにしていた。施設などの訪問についても、このツアーでないと訪れることができない、また、出会うことができない人々に出会え、貴重な経験をすることができた。
私は、大きく印象に残っている2つの施設訪問から、私たちの社会が学ぶことを報告させていただきたいと思う。
一つは、「プサン女性の電話(ホットライン)」である。私が驚いたのは、活動の内容もさることながら、若い女性スタッフが多く働いていることであった。彼女たちからは、バリバリの女性活動家というイメージはまったく感じられず、女性たちがエンパワーメントする必要性を自分たちのことばで発信し、女性に対する暴力防止や性教育、地域の女性たちの活動支援など、多くの事業を行っている。
もう一つは、「釜山ヘバラギ女性・児童センター」である。この施設は、性暴力・売春・家庭内暴力による被害女性と児童を保護して支援する専門のセンターであるが、国(女性家族部)・自治体(釜山広域市)・警察(釜山地方警察庁)・医療(東亜大学校病院)の4者が連携して運営している。国や自治体が運営費を支援し、医療支援、捜査支援、相談事業などを行う一連の機関が設置されている。
両方の活動に共通しているのは、DV防止や被害者支援、さらには女性問題などに関する分野について、今の日本では取り組めていない課題を韓国では実践しているという点だ。プサン女性の電話の若い女性スタッフが、いきいきと活動の紹介をしてくれたのが印象的だが、活動をきちんと次の世代につないでいる。私は、同じ世代の女性として、彼女たちの活動から学び、さらには元気をもらった。また、釜山ヘバラギ女性・児童センターにおいては、日本で言われている官民連携が、この分野で実践されていることは、今後の日本での取り組みにおいて、非常に参考になった。
小倉祐輔(大学生)
韓国「女性のエンパワメント」スタディツアーを終えて。
活動家でも研究者でもない立場で参加した者として、見学させて頂いた数々の取り組みは、とても新鮮かつ大胆なものに見えてしまった。もちろん、日本においても私が知らない所で、懸命にそして草の根的に活動を行う団体や個人があるのかもしれない。しかし、やはり官民が協力しての韓国での事業は、とてもインパクトがあり、かつ学ぶべき要素が多々存在していたように思う。
だが、その中でも最も印象的だったことは、活動家に占める若手の存在だ。日本では、どのような分野でも叫ばれる人材不足の問題が、少なくとも今回の見学先では見てとれなかった。つまり、活動家・研究者間における世代間交流が成功していたのだ。
もちろん、日韓では社会の歩みも、国家としての成長の歴史も異なるため、この問題を単純に比較検証する事はできないが、こと世代間での連携が取れていない日本が学ぶべき点には変わりはない。
ただ、そのような韓国でも日本と同じような課題が存在する。それは「性」の間での連携と行動だ。確かに、DV被害や性暴力の問題において、加害者側の性に属するものが、そのエンパワメント政策に携わることは、被害者の心情を察すれば難しいのだろう。
だが、実際の現場では私たちは漠然とした「男性性・女性性」の問題としてではなく、そこに現れる人格を持つ「個人」の問題として、それを解決しなければならないのでなはいか。そうであるならば、支援者にも、参加を「性」によって拒むことなく、一個人として受け入れる事にも寛容でなければならないと感じる。
金平 泰英
今回のスタディツアーのタイトルは「女性のエンパワメントのためのプサン&ソウルへの旅」であり、案内には「男性の参加者も歓迎します。」と記載があったものの、高い確率で男性参加者は私一人ではないかなと予想していました。実際申し込みの問い合わせをした際は私以外の男性の申込者はいないということで、相変わらず自分は変わっているなと思いつつ、一方で、だからこそ参加する意義もあるのではないかという思いもあり、少し「よいしょ!」と思い切った気持ちで参加申し込みを行いました。(結果私を含めて三名の男性の参加者がありました。)
今回韓国では女性を支援するいくつかの団体や施設を訪問しました。「女性」への支援が必要な状況が生まれる背景には、例えばDVや性暴力というものを考えた際、多くの場合、残念ながら「男性」が加害的な立場で関係することになります。ですので当然のことながら、今回訪問させて頂いた、例えばシェルターのような場所は、普段は男性が足を踏み入れることはできない場所ということになります。被害女性を支援するチームは、医師など特別な場合を除き、基本的には女性のみで組まれることになります。
では、医師など特別な知識がなければ男性には出る幕がないのかと言うと、決してそういうことではないと、少なくとも私は思います。まだまだ社会の中では重要なポストを男性が占めている割合が多い状況下において、このような問題が生じていること及び被害者を支援する場所があるということを伝えていくこと(もしくは伝えられる状況を整備すること)であったり、新たな加害者や、そしてもちろん新たな被害者を生み出さないために、男性に対する教育(例えばストレスコーピングの研修:自分が抱えた「痛み」を、自分より弱い立場に向けること以外で解消する方法を習得すること)を行うことなど、間接的ではありますが、できることはたくさんあるように思います。
そして私がずっと感じていることは、女性に対するエンパワメントが必要であるのと同じくらいに、男性に対するエンパワメントが必要であるということです。ここで言うエンパワメントの意味は、女性に対するものとは少し異なります。エンパワメントとは直訳すると「力を与えること」という意味です。しかし、男性に対するエンパワメントは、例えば経済力や文字通り腕力を身につけることではなくて、(もちろんそれらを否定するわけではないですが、それ以上に)例えば柔軟性や表現力を身につけることではないかと思います。言葉を代えると、「自分の身近な他者を追い込めないための、自分を追い込めない技術」と言えるのではないかと思います。それが結果的に、自分をエンパワメントすることになり、自分の周囲にいる女性及び男性をエンパワメントすることにつながるのではないかと思います。
何事ももちろん口で言うほどに簡単なことではありません。ただ、私は今回このツアーに参加させてもらい、非常に内容が濃くて頭が一杯になり、緊張もしたし、疲れた面も多々あったのですが、一緒に参加された方々との出会いも含めて、多くの力を得て帰ってきたと感じています。そして、とりあえず今の自分にできることは学んだことや感じたことを伝えることではないかと思い、言葉にしたつもりです。一人一人にできることはささやかなことですが、その積重ねたものを韓国では垣間見たように感じます。私なりにできることをこれからも積重ねて行きたいと思います。
最後に、参加された皆さんありがとうございました。
熊安貴美江
大阪府立大学 女性学研究センター
プサンからソウルへと、女性の権利の保護と向上のための活動組織を駆け足で訪問しましたが、官民のそれぞれ特色のある具体的な活動や、それらがどのように連携したり補ったりしているのか、その一端を知ることができました。
加えて今回のスタディツアーでは、韓国の女性たち、とりわけ若い皆さんの活動と情熱に圧倒されました。
プサンで訪問したNGO「プサン女性の電話」は、約400人の会員からの寄付金と政府からの支援金、諸教育事業収入を元手に活動しているそうです。ホットラインによる相談事業を通して、性暴力などの被害者としてというより女性同士の連帯をつくり、一緒に女性運動をやっていくのだ、という事務局長のチョン・オッキさんの明快な姿勢が印象に残っています。ホットラインの相談事業のほかに、夫婦対象のカップルカウンセリングや、全国25箇所で5歳の幼稚園児からの性教育を、ぬいぐるみのお人形を用いておこなっているのにも感心させられました。韓国内で性暴力が問題化した結果、施策として全国的に取り組まれていることを知り、バックラッシュでもみくちゃにされた日本との方向性の違いに愕然とする思いでした。
またソウルの聖公会大学の実践女性学コースも印象的でした。大学院生はほとんどが市民団体のメンバーというユニークなコースで、お話をうかがっていると、活動家であることが韓国市民のひとつの確固としたステイタスというか確立されたアイデンティティでもあるかのような印象を受け、韓国市民社会の意思の底力を見たような気がしました。
この2月に、「韓国体育市民連帯」という活動グループのリーダーにお話をうかがう機会があったのですが、その際、「自分たちはこの国で民主化への劇的な変革を経験しているので、市民運動のもつ肯定的・実際的な価値を信じているのだ」と言われたことを思い出しました。今後の女性運動と変革の動向について、悲観的な見方をする韓国内の研究者にもお会いしたことがありますが、若い活動家のみなさんに変革への強い信念が受け継がれていることを肌で感じた熱いツアーでした。
Jun
○濃縮した時間と空間を体験
事前学習会、プサンでのワンストップセンター(公的機関)とDVシェルター、プサン女性のホットライン(民間機関)、ソウル市女性プラザ、ソウル聖公会大学でのワークショップ、と活動紹介、施設見学、質疑、交流の時間が持たれました。それに加えてツアーメンバーで感想を共有する時間もあり、プログラムが組まれていたと思います。その中で体験したことが、深く残っていて、わくわくするような感じとなっています。
○自分のイメージを塗りかえる プサンでの体験
私は民間DV被害者支援団体のメンバーなのですが、実際に施設見学して、シェルターの規模や相談電話の規模が、自分の想像をはるかに上回る大きな組織だと気づかされました。また、民間の「プサン女性のホットライン」が公的な機関であるワンストップセンターを「100%公的機関からお金が出るということは、自分たちが言いたいことが言えなくなる」という危険をはらんでいるという指摘をされ、自分たちのミッションについて「私たちは前進します。どんなに小さなことでも実現します」と語られたことに胸が熱くなりました。
○もてなす心やアート
訪問先では、ウェルカムボードや横断幕、お茶、お菓子まで用意されていました。階段や廊下の空間までも絵や作品などが飾ってあり、そういうセンスや、豊かさやゆとりのようなものを感じました。プサン女性のホットラインでは、メッセージ性のある作品が面談室に飾られていたことも印象的でした。
○ワークショップ 聖公会NGO大学院で
「女性障害者の性暴力相談の経験」(女性障害者性暴力相談所 チョン・ウンジャさん)の報告で、障害をもつ人が性被害を受ける率が高いことが実数を挙げて発表されました。実数把握は、法に基づき女性家族部で毎年報告書作成がされ義務付けられていることを知ったことが特に印象的でした。
韓国と日本のフェミニズム運動について ホウソウウンさんが日韓の女性運動と政府の関係について言及され、伊田久美子さんが日本では韓国の女性家族部のような専門的なシンクタンクとしての機関がない点を示唆されたことで、日韓の女性運動の背景にある問題が鮮明に見えてきました。ドーンセンターや、大阪府立大学女性学研究センターのことも、あまり知らなかったことに気づき、新鮮な思いで聞きました。
○視点を広げること
訪問先だけでなく、参加者同士でも是非交流を・・・との主催者からのお話がありましたが、参加された方のお話を伺うことができ、それも大きな収穫となりました。私自身、近視眼的になっていて、活動分野が違ったり、活動分野が似ていてもちょっと離れた所にいる人やその活動が見えていない?ということに気づきました。今後は少しは目線を変えたり、遠くを見ようとしてみたりして、近視?が改善されるとよいのだが・・と思っています。みなさんありがとうございました。
大阪府立大学人間社会学研究科博士後期課程
伊藤良子(いとうりょうこ)
私は、現在大学院で性暴力被害についての研究をしています。
性暴力を受けた人たちの生きづらさが少しでも楽になるよう、また性暴力被害にあう人が一人でも減るよう、社会を変えていくために自分にできることを模索している最中です。
韓国は、女性に対する暴力の問題への取り組みが日本よりも進んでいるため、いつか研修に行きたいと思っていました。そのため、大学院の指導教員からこのツアーの企画を伺った時に、何て有意義で素敵な企画なんだろうと思い、参加することを即決しました。
ツアーでは、「プサン女性の電話」や「セギル共同体」「プサン・ヘバラギ女性児童ワンステップ支援センター」などの施設を訪問し、私と同年代(恐らく20~30歳代)の若い女性たちがアクティビストとしていきいきと、そして、しなやかに活動しておられる姿を見て、大変感銘を受けました。
さらに、韓国の聖公会大学のNGO大学院実践女性学コースでは、アクティビストの方たちが理論と活動を融合させる取り組みをされており、この実践こそ生きた学問の活用方法であると思いました。私が在籍している大阪府立大学大学院においても、多くの女性たち(男性もいます)が、自身の問題関心から社会の構造に目を向け、研究によって得られた視点を社会に還元すべく課題に取り組んでいます。
日韓両国でこのような取り組みをしている大阪府立大学女性学研究センターと聖公会大学のNGO大学院実践女性学コースが共催で、韓国と日本の草の根的な活動を報告するワークショップが開催されました。
このワークショップにおいて、私も『日本の性暴力被害電話相談の現状とその課題』というテーマで報告する機会をいただきました。このような報告の機会をいただけたことは、「私にも性暴力の問題について何かできることがあるのだ」という自己肯定感につながり、私自身がエンパワメントされました。
そして、今回ツアーに参加して、性暴力の問題について、一人ひとりが「当事者性」をもつことの重要性について改めて考えました。
女性のエンパワメントにとって、性暴力に関する社会状況や自身の置かれている境遇を自明のものとせず、疑問をもって問題を見つめること、そして自分の課題としてこの問題に取り組むことが重要であると思いました。つまり、性暴力をジェンダーや性差別の問題として、すなわち社会の問題として認識することによって、その問題は決して避けられない問題などではなく、自分たちで変革していける問題なのだと思えること、そしてどんな小さいことでも良いので一つひとつ行動に移していくことが、一人ひとりのエンパワメントにつながるのではないかと実感したツアーでした。
最後に、ツアーに参加されたみなさんと有意義な出会いの機会をいただけたことを大変うれしく思います。どうもありがとうございました。