2001年ダーバン会議(反人種主義・差別撤廃世界会議)とその後の動向
人種主義、人種差別、外国人排斥およびあらゆる形態の差別
配布:一般
E/CN.4/2003/24
2003年1月30日
原文:英語/フランス語
国連人権委員会決議202/68によって提出された、ドゥドゥ・ディエヌ氏(現代的形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容に関する特別報告者)の報告書
要旨
本報告書は、特別報告者が2002年7月26日に任命されて以来遂行した活動に関する情報を記載したものである。特別報告者は同期間中に、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容と闘うための活動におけるコンセンサス構築のプロセスを開始する目的で、各国政府、いくつかの地域的政治グループ(アフリカ諸国グループ、アラブ諸国グループおよびグループ77)、政府間機関(欧州連合、米州機構およびイスラム会議機構)ならびに非政府組織との連絡を確立した。
本報告書では、とくにコートジボアールとガイアナに関連して、人種差別および外国人排斥に関する深刻な訴えの内容を記述している。また、ロマ/シンティ/トラベラーに対する人種差別、そのような差別に対抗するために欧州レベルでとられた措置、反ユダヤ主義の表出にも注意を促している。
2002年には、特別報告者はドイツ、スペイン、ロシア連邦、ギリシア、ガイアナおよび英国における人種差別と外国人排斥についての訴えを検討した。これらの訴え、およびそれに対する関係国の当局からの回答は、特別報告者のコメントとともに本報告書の添付文書に掲載されている。
結論として、特別報告者は以下のことを強調する。すなわち、特別報告者が各国政府、政府間機関および非政府組織と初めて接触を図った結果、ダーバン宣言および行動計画を緊急に実施する必要があることが明らかになった。両文書は、旧来の人種主義が警戒すべき形で復活しつつあること、また新たに陰湿な形態の差別と人種主義が台頭しつつあることに対抗していくために必要である。特別報告者はまた、この流れのなかで、人種、宗教および文化がゆっくりと混合・混成しつつあるために緊急かつ突っ込んだ対応が必要とされる諸状況が、とりわけ警戒すべき形で再発しつつあることも強調する。したがって特別報告者は、ダーバン会議の最終文書(A/CONF.189/12)に照らし、二重戦略を提案するものである。その戦略は、法的・政治的戦略(関連のあらゆる国際文書・協定を批准および実施する)であると同時に、知的・倫理的戦略(差別の文化および心性の過程としくみがいかに深く根づいたものであるかという点に関する知識と理解を深める)でもある。これは、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容と闘うための努力と、異なる文化・文明・宗教間の対話を緊急に促進していくこととの間に、省察と行動を通じて緊密なつながりを確立していくという問題なのである。この目的のため、人権委員会に対して以下の勧告を提案する。
人種主義、人種差別、外国人排斥および不寛容と闘うためのあらゆる機構、とくにダーバン会議の最終文書の実施に関わる機構の間、人種差別撤廃委員会と当特別報告者との間、およびさまざまなテーマに関する特別報告者の間の相補性および協力を促進すること。
市民権を有しない者、移住者および難民に対する差別的な状況および慣行にいっそう注意を向けること。
委員会の審議において、人種主義と差別の文化および心性の知的・倫理的根源についていっそうの時間をかけて検討すること。
あらゆる形態の差別、排除および不寛容を打破するための産婆術的な〔ソクラテスのように対話を通じて真理に到達するのを援助する〕戦略として、異なる文明・文化・宗教間の対話が有力な役割を果たせるようにすること。
あらゆる側面の教育(とくに歴史、倫理、普遍的な倫理綱領としての人権、諸文化、およびすべての宗教・精神的伝統に共通な諸価値についての指導)ならびに広報および文化横断的コミュニケーションを促進すること。
多様性の承認、受容、促進および尊重として理解される多元主義の創造的価値を促進すること。その流れのなかで、アイデンティティという概念――固有性を正当に確認するものでもあれば、他者の否定につながることもある両義的な観念――を促進すること。
目次
序
- 特別報告者の活動
- 国連人権高等弁務官事務所との協議
- ダーバン行動計画の実施に関するアフリカ地域専門家セミナーへの参加
- 第57会期国連総会の活動への参加
- 「人種主義に反対するアフリカ人およびアフリカ人子孫の世界会議」への参加
- ブラジル・黒人問題啓発週間への参加
- 「アフリカ人子孫に関する第1回専門家作業部会」への参加
- 人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容の現代的表れ方
- 政治における人種主義、人種差別および外国人排斥
- コートジボアールの状況
- ガイアナの状況
- ロマ/ジプシー/シンティ/トラベラーに対する人種差別
- 反ユダヤ主義
- 特別報告者が検討した訴え
- 結論および勧告
添付文書
特別報告者が各国政府に転送した訴えへの回答
- ドイツ
- 拷問の問題に関する特別報告者および移住者の人権に関する特別報告者から送付された2002年9月12日付の共同通報
- ドイツ政府の回答
- 特別報告者の所見
- スペイン
- 拷問の問題に関する特別報告者および移住者の人権に関する特別報告者から送付された2002年9月4日付の共同通報
- スペイン政府からの回答
- 特別報告者の所見
- ロシア連邦
- 2002年8月28日付の通報
- 2002年8月20日付のロシア連邦政府の回答
- 特別報告者の所見
- ギリシア
- 拷問の問題に関する特別報告者とともに送付した2002年9月13日付の共同通報
- 2002年11月28日付のギリシア政府の回答
- 特別報告者の所見
- ガイアナ
- 2002年10月31日付の通報
- ガイアナ政府の回答
- 特別報告者の所見
- 英国
- 拷問の問題に関する特別報告者とともに送付した2002年9月13日付の通報
- 英国政府の回答
- 特別報告者の所見
序
1.現代的形態の人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容に関する特別報告者への委任事項は、2002年7月26日に経済社会理事会によって確認された。
2.本報告書は、人権委員会が第58会期に採択した決議2002/68の第4部にしたがって提出されるものである。
3.特別報告者は本報告書において、任命以来の特別報告者の活動(第1章)、特別報告者が気づいた人種主義および人種差別の主要な表れ方(第2章)、各国政府に通告された人種差別の訴え(第3章)の概要を提示する。特別報告者の結論と勧告は第4章に掲げる。当別報告者が検討した訴えと、それに対する各国政府の回答は本報告書の添付文書に掲載されている。
I.特別報告者の活動
A.国連人権高等弁務官事務所との協議
4.2002年8月7日~9日、特別報告者は人権保護のためのさまざまなプログラムおよび機構の活動をよく知る目的で、ジュネーブの国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)を訪問した。特別報告者は、充分な居住に関する特別報告者と、移住者、人権擁護者および意見・表現の自由に関する特別手続の支援を任務とする職員との会合を活用し、自らの職務との調整が必要かもしれない行動領域の特定に努めた。特別報告者はまた、人種差別撤廃委員会および先住民族に関わる諸プログラムの支援を任務とする職員とも、同様の会合を持った。
5.以上の協議をもとに特別報告者は、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容と戦うための行動が、OHCHRが担当している諸プログラムおよび機構の、すべてではないにせよ大多数を補強するものであるという確信を抱くに至った。ダーバン宣言および行動計画がさまざまな実際的措置に確実に移行されるようにするための作業が、OHCHRによって進められつつある。それは、地域戦略、条約監視機関の活動――たとえば人種差別撤廃委員会はすでにこの点に関する一般的勧告を採択した――、特別手続などさまざまな形をとったものである。したがって特別報告者は、人種差別撤廃委員会との調整と協力、チームワーク、他の特別報告者との相補性ならびに人権高等弁務官事務所、とくに反差別ユニットとの対話の向上を通じて、またダーバン会議のフォローアップに関わっているさまざまな機構を通じて、コンセンサスにもとづくこのプロセスに貢献していく所存である。
B.ダーバン行動計画の実施に関するアフリカ地域専門家セミナーへの参加
6.人権高等弁務官事務所の招きにより、特別報告者は、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容に反対する世界会議のフォローアップに関するアフリカ地域専門家セミナー(ナイロビ、9月16日~18日)に参加した。同セミナーにおける特別報告者の発言内容は、市民権を有しない者、移住者および難民に対する差別と闘うためにとりうる措置に焦点を当てたものである。市民権を有しない者が受入れ国の住民によって被害を受けることの多い排除の問題と闘うため、特別報告者はとくに、各国の権限ある公的機関が市民と市民権を有しない者との間の親しい交流を促進し、また異なる文化・文明・精神的伝統間の交流を促進するべきであると提案した。このことは、とりわけ教育、広報、多元主義の承認および文化横断的対話の促進を通じて達成することができる。これはつまるところ、多様性のなかで統一性を保つことと固有性を承認することの価値を、それぞれの国が置かれた文脈のなかで表現する一方で、固有性を超越した共通の価値を促進するということである。それが、「ダーバン行動計画の実施:前進する方法に関するアイデアの交流」という同セミナーのテーマにも沿うことになる。
7.同セミナーを通じて、アフリカ諸国はダーバン行動計画(A/CONF.189/12)のパラグラフ157および158の実施をとりわけ重視していることが明らかになった。両パラグラフは、数世紀に及ぶ抑圧、搾取、不公正および貧困の循環を打破し、よい統治への道を切り開くうえで鍵を握っていると見なされている。人権委員会は、ダーバン会議の効果的フォローアップを確保するため、ナイロビ・セミナーで行なわれた勧告のなかでもっとも重要なポイントであるこの点に、緊急に注意を向けるべきである。
C.第57会期国連総会の活動への参加
8.2002年10月21日~25日、特別報告者は第57会期国連総会の活動に参加し、第3委員会に対して、自らの委任事項へのアプローチを説明した。特別報告者が強調したのは以下の点である。すなわち、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容と闘うためには、ダーバン宣言および行動計画の精神と文言にしたがって、法的・政治的対応だけではなく、イデオロギー的・文化的・心理的な基盤、過程およびしくみのあり方も追求し、それに対応していくことが必要とされる。後者のような要因が、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容の永続と再発を助長してきたのである。このような要因への対応が、これらの災厄の根源に到達するような解決策を見出すために求められる。
9.グローバル化が進んでいく形態は以下のようなものである。文化的アイデンティティや各国の固有性を無視し、それに対する反動として中核的アイデンティティに引きこもる傾向を引き起こすグローバル市場の論理は、文化の均質化を生じさせる。消費と競争という物質主義的価値が支配的になる。そして、文化的・精神的価値は衰退していくのである。差別は、このような環境において育まれ、増長し、広がっていき、当たり前なことにすらなっていく。他者に対する誤解や否定的イメージが構築され、正当化され、もっとも深いところで表出するようになるのは、文化的領域である。自民族中心主義――差別と支配の正当化を狙った、本質的にイデオロギー的な構築概念――に付随して生ずる文化的偏見は、差別、人種主義、外国人排斥および不寛容の心性を育み、実践するための主たる根拠を、あからさまに、または暗に提供する。均質化への防御的反応としてアイデンティティの要素を誇張することは、民族国家、コミュニティ、集団、民族的区分、宗教および生活のあり方の固守に回帰し、「われわれの価値」と「彼らの価値」を対置させる傾向の悪化につながる。今日新たに生じている大規模な紛争のうち、もっとも激越かつ暴力的で手に負えないものは、本質的に文化的敵対主義に根ざしたものである。いずれの場合も、かつての隣人であったことも多い他者が、脅威として、敵として、どうしようもなく根本的に異なる何者かとして、「完全なよそ者」として立ち現れてくることが共通の特徴となっている。
10.グローバル化へと向かうこの不吉な趨勢は、独自の理論、すなわちこのような趨勢を観念的・歴史的に正当化・合理化する知的構築概念まで与えられるに至った。サミュエル・ハンチントンの著書『文明の衝突と世界秩序の再編』はその好例である(
注1)。この流れにおいては、現実、思い違い、思いこみ、戦略、巧妙な統制と支配がまざりあい、問題の客観的把握と、差別に対する持続可能な対応の立案がゆがめられてしまう。
11.したがって、人種主義と差別の問題をいっそうグローバルな文脈のなかに位置づけたダーバン宣言および行動計画の精神を踏まえて新たなアプローチを見出すことが必要である。そのアプローチにおいては、人種主義と人種差別の根源的な原因、しくみ、過程、表れ方およびあり方を深く考えることにより、どのような行動をとるかが定められなければならない。換言すれば、政治的・社会的・経済的民主主義を求める闘いのなかで、差別の文化的根源を攻撃しようとする知的戦略にもとづいた法制度が立案されなければならない。差別の文化的根源こそが、最終的に態度と行動のあり方を形づくるのである。したがって特別報告者は、差別的な文化と慣行の核心には、今日の文化的衝突の大多数を助長・形成している、とりわけ微妙な2つの概念があると考える。多様性の操作的利用と、アイデンティティへの誇張されたこだわりである。
12.現在支配的になっている考え方によれば、グローバル化による文化的均質化の危険に対する、また文化的・宗教的・民族的・コミュニティ中心的アイデンティティへの誇張されたこだわりに対する反応として、多様性という概念がますます登場するようになっている。この概念は隠れたイデオロギー的・歴史的意味をともなうものであり、文脈ならびに政治的・哲学的・イデオロギー的要因による影響を過剰なまでに受けている。多様性そのものは、言葉の倫理的な意味で価値ではない。哲学的視点から述べると、多様性という観念には18~19世紀の哲学的・科学的言説において強力な含意がつきまとっていた。生物の種や人種の多様性に関する科学・哲学論文は、自然のヒエラルキーについての理論を生み出したのである。これらの理論は、人種的・民族的・社会的・宗教的差別を基盤とした諸理論の構築のイデオロギー的・哲学的支柱となったばかりか、ダーバン会議の最終文書でもとくに言及されている奴隷貿易や植民地主義のような、搾取と支配の慣行を正当化する知的枠組みともなった。自民族中心主義の核心にあるのは、まさにこの多様性の操作的利用である。自民族中心主義のあらゆる表れは、根本的な差異、不平等および他者への差別として解釈された多様性の概念を中心として、歴史的・イデオロギー的・文化的に構築されてきた。したがって、人種主義と差別に対抗する新たな知的・倫理的戦略を枠組みとして、アイデンティティの概念をあらためて検討してみることが有益であろう。
13.特別報告者は、アイデンティティに関わる誤解が諸人民間の関係の歴史全体を通じて決定的なものであり続けていることを指摘してきた。アイデンティティは両義的な概念であり、自己の確認にも他者の否定ともなりうる。歴史から得られた教訓に照らし、またとりわけすべての文明・文化を形成してきた諸人民間の移動/収斂/相互作用の弁証法に照らし、特別報告者は、アイデンティティが対話の障壁となるのではなく対話を可能にする要因になるようにするために、(民族的・文化的・精神的)アイデンティティに関する新しい理解が促進されるべきであると提案してきた。この新しい理解にもとづけば、アイデンティティはもはやゲットーや蟄居先とはとらえられず、プロセスとして、集合として、ダイナミックに生成されるものとして理解・受容・実践されるようになる。現代のほとんどの紛争がいみじくも示しているように、中核的アイデンティティへの引きこもりによって昨日の隣人が今日の敵となり、新旧の形態の人種主義、差別および外国人排斥が台頭しつつある状況においては、アイデンティティとは相互関係であり、結びつきであり、変動であることを、誰の目にも明確にすることが必要である。アイデンティティは神秘的な錬金術の結果にほかならない。それは、それぞれの特質を有する人々が、与えたり受け取ったりの弁証法を通じて、また行き当たりばったりであることも多い複雑なプロセスを通じて、どこかからの影響を受け取り、変容させ、吸収することによって形成されるのである。
14.つまるところこれは、アイデンティティが倫理規範を築き、他者が身近な存在であることを再発見し、そして対話を進めていくことの基盤になりうるという考え方を、どのように促進していくかという問題である。
15.この精神にのっとって差別的な文化とイデオロギーの撤廃のための持続的戦略を策定するにあたっては、生物多様性という重要な教訓から示唆を得ることが可能である。この概念は私たちに、異なる種の存在と相互作用は生命の源および存在条件であり、いずれの種の消滅も生態系全体にとって致命的であることを教えてくれる。生物多様性の概念から得た教訓をもとに諸人民の調和のとれた共存に到達するためには、私たちは社会の新しいビジョンを構築しなければならない。そのビジョンが基盤とするのは、ひとつには統一性と多様性の弁証法である。もうひとつは、社会全体の活力の、ひいては存続の必須要件である、異なる文化、人民、民族的アイデンティティおよび宗教の交雑という価値を理解・促進していくことである。このようにすれば、異なる文化・文明間の対話はある種の「生命文化」の表れとなろう。
16.差別を撤廃するということは、隠れた歴史的・イデオロギー的意味がつきまとう多様性という概念を、その多面性をいっさい失うことがないようにしつつ、弁証法的プロセスのなかで統一性と多様性を結合させる価値へと変えていく必要があるということである。ここで問題になっている価値とは、多元主義にほかならない。
17.倫理的・文化的・社会的・精神的多元主義は、とくにグローバル化を背景としてあらゆる形態の差別と闘っていくうえで基本的な価値のひとつである。多元主義は、多様性の承認、保護、促進および尊重として定義できる。もっとも深い意味では、多元主義とは、倫理的・文化的・精神的固有性を承認・保護すると同時に、これらの固有性を超越した諸価値をある特定の社会で受け入れるということである。多元主義はこのような意味で、統一性/多様性の弁証法をうまく機能させていく価値として位置づけられる。統一性/多様性の弁証法は、多文化社会で均衡と調和を達成するためのもっとも堅固な基盤である。したがって、多元主義を促進していくことは、あらゆる形態の差別撤廃のための戦略を構築するうえで鍵となる中心的価値にほかならない。グローバルな戦略とはすなわち、多元主義(特別報告者が、多様性の承認、保護、促進および尊重として定義するよう提案する概念)を具体的措置に転換し、法律、教育、広報およびコミュニケーションの領域で機能させるとともに、差別が生じている社会的分野(雇用、居住および保健)のなかに位置づけるということである。
18.このような新しい戦略においては、人種主義、外国人排斥および差別と闘うための知的手段は歴史、教育および貿易を中心として構築することができよう。
歴史は、異なる文化、文明および人民が自分自身のアイデンティティや他者との関係を構築する舞台であり、囲い地である。あらゆる誤解と敵対主義、友情と敵意は歴史を土台として生み出されるのであり、異なる文化・文明間の対話の流れにおいてはそこに注意が集中されなければならない。そこは記憶の、歴史のはるかなる記憶の領域であり、対話または衝突の過程、しくみおよび表れの真の源にまでさかのぼることを可能にしてくれる。すなわち、対話のための基本的な要素として、個々の人民が、そしてあらゆる人民が共同して、歴史の著作物、内容および教育のあり方を緊急に見直さなければならないということである。
長期的には教育こそが、心性と、知識、ノウハウおよび価値を構築するための手段のあり方を変えていくための王道である。他者に対するイメージや見方は教育を通じても伝達されていくのであり、問題の根はそこにある。となればここでも、多元主義と対話の倫理が深く刻印されなければならない。文化横断的教育とは、異なる人民や文化が自分自身を批判的に見つめ、当たり前だと思っていることをとらえ直し、自分たちが閉じこもっている防壁を開け放つことを余儀なくさせる、解除反応のプロセスである。自分たちや他者へのイメージが形成・伝達される手段であるコミュニケーションも、ショーン・マクブライドの美しいテーゼ、「たくさんの声、ひとつの世界」という意味における交流と対話の必要性を具体的な形で表現できるよう、文化横断的なものでなければならない。
貿易も対話の主要な手段のひとつである。どんなときも、どの大陸においても、貿易は出会いと、普及と、文化的・芸術的・精神的相互交流の媒介となってきた。文化と交易は敵対しあうものであるという、魅惑的ではあるが誤った理論を乗り越えて、貿易の核心である交流に対話の価値が刻みつけられなければならない。この流れにおいては、陰湿な形で台頭しつつある新たな差別の言説を緊急に暴露する必要がある。そこでは、低開発を、「近代」に逆行する古めかしくて遅れた価値観や心性が当該社会に存在し、重視されていることで説明しようとする理論が、露骨にまたは暗黙のうちに用いられているのである。
したがって、成長と発展はもはや一部の市場論理や市場モデルとはあいいれず、逆に生き方やあり方を多面的に表現するものととらえられなければならない。つまるところ、異なる文化・文明間の対話の問題は、世界貿易・世界経済に関する交渉に欠かせない要素である。したがって、市場の力の否定的側面を緩和する力が文化的倫理に与えられなければならない。
この戦略を進めていくにあたっては、観光、移住、スポーツといった、出会いと相互交流の創造的領域にとくに注意が向けられることになろう。こうした領域は、人種主義、差別および外国人排斥を助長することも阻むこともできるし、異なる文化間の対話を奨励することもできるのである。
19.したがって、当別報告者は以下の点を自らの優先順位とする所存である。
ダーバン会議の最終文書、宣言および行動計画を全面的かつ精力的に実施すること。これは、人権委員会および総会に提出する年次報告書の調査研究対象地域・国を選択するさいの、基準および指針となろう。
人種主義、差別および外国人排斥との闘いと、異なる文明・文化・宗教間の対話の促進を関連づけること。
国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)を含む権限ある機関と緊密に協力しながら、スポーツにおける人主義という、ふたたび頭をもたげつつある警戒すべき問題を詳細に調査すること。
差別的状況および慣行が深刻なために緊急の行動が必要とされる地域の国々を優先的に言質訪問すること。
人権委員会決議2002/9にしたがって提出された、2001年9月11日の事件以降の世界の各所におけるイスラム教徒およびアラブ人民の状況に関する報告書(E/CN.4/2003/24)。
20.総会会期と並行して、特別報告者は各国政府、政府間機関および非政府組織の代表とも協議を持った。ワシントンでは米州機構の関係者と会談し、ダーバン会議のフォローアップに関わる米州機構との協力を、とくに人種主義を禁止する米州機構条約の作成が提案されていることとの関係で向上させることを目指した。この提案は、深く複雑な多文化的プロセスが生じつつある地域においてはとりわけ重要なものである。人権団体と接触したさいには、国際人権法グループからとりわけ効果的な支援を得て、特別報告者の委任事項の実施およびダーバン会議のフォローアップに関する意見・情報・提案を幅広く交換した。
D.「人種主義に反対するアフリカ人およびアフリカ人子孫の世界会議」への参加
21.2002年9月2日、特別報告者は「人種主義に反対するアフリカ人およびアフリカ人子孫の世界会議」中央実行委員会から、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容に反対する世界会議のフォローアップである同会議(2002年10月2日~6日、ブリッジタウン)に招待された。主催者が述べているように、「人種主義に反対するアフリカ人およびアフリカ人子孫の世界会議」の目的は、ダーバン行動計画の実施戦略を策定すること、効果的なプログラムやプロジェクトについて情報交換すること、世界に散らばるアフリカ人子孫が今後も協力しあっていけるように全アフリカ規模のグローバルな非政府組織を結成することであった。
22.会議の開会時、特別報告者を愕然とさせる事態が起こった。あるNGOグループが動議を提出し、正式に招待・登録された参加者を、明らかに人種主義的な基準にもとづいて排除するよう求めたのである。全体会において、特別報告者は誰よりも早く当該動議に対する根本的な反対を表明した。この動議は、特別報告者に言わせれば、人種、国籍または民族的出身による差別の禁止という国連の根本原則に逆行しており、したがって、この会議がフォローアップしようとしたはずの人種主義に反対する世界会議の趣旨・精神そのものを台無しにするものであった。特別報告者は、この動議が支持されるようなことになれば会議を退出するという決意を正式に表明した。動議は会議の参加者の投票にかけられ、その結果、この提案は支持されて通訳、ジャーナリスト、NGO代表を含む参加者が全体会から排除された。そのため、異なる人種から構成されていた代表団は人種に沿って分断されることになった。
23.その結果、同会議開催のための便宜を図ったことからもわかるようにダーバン会議で非常に積極的な役割を果たしたバルバドス政府は、その役割と、多人種社会を構築するという政策にもとづいて2003年10月3日に報道声明を発表し、同会議による決定を強く非難した。国連バルバドス駐在調整官と特別報告者は、2002年10月4日付で同会議中央実行委員会委員長に送付した公式通告により、同会議への参加と、以前に表明した同会議への支持をいずれも撤回した。
E.ブラジル・黒人問題啓発週間への参加
24.2002年11月21日、ブラジル政府の招きにより、特別報告者は「国立アフリカ系ブラジル人情報文献センター」(ブラジリア)の開所式に、フェルナンド・エンリケ・カルドソ大統領、ブラジルを訪問中だったジョン・ウォルフェンソン世界銀行総裁とともに参加した。特別報告者は、この招待を、奴隷制度の根本原則である人種差別が刻みこまれた歴史の伝統に立ち向かい、根本的かつ持続可能な解決策を見出そうと決意した同国の、活目すべき象徴的メッセージであると考える。アフリカ系ブラジル人コミュニティの代表も、そしてとくに特別報告者も会ったパルマレス財団の代表も、このような評価に同意した。ブラジルは、基本的には教育と公職(とくに外交職)へのアクセスの分野で、アフリカ系住民のためのアファーマティブ・アクションや是正措置を実施する大規模なプログラムを開始している。連邦レベルで最近採択されたいくつかの法律や政令(2002年11月13日の法律第10,558号、2002年8月22日の文化省令第484号など)では、大学就学枠と公職採用枠の2割をアフリカ系ブラジル人に割り当てるクオータ制が確立された。政府は、この矯正措置政策の実施に努める企業を契約上優遇することにより、公共部門の企業にも影響を与えようとしている。課題は数多く残っており、特別報告者は、このような努力を注意深く見守り、その継続を奨励していく所存である。
F.「アフリカ人子孫に関する第1回専門家作業部会」への参加
25.特別報告者は、2002年11月25日~29日、「アフリカ人子孫に関する第1回専門家作業部会」に参加するよう招待を受けた。特別報告者が作業部会に対してとくに説明したのは、アフリカ人子孫の人々への補償がいかに重要で複雑な問題であるかということである。特別報告者は、数多くの先例に照らして補償の原則を排除すべきではないと指摘した。このような先例としては、奴隷制廃止後の元奴隷への賠償の合意、フランスが長年に渡ってハイチに課していた金融制裁、第2次世界大戦後にユダヤ人に支払われた賠償などをとくに挙げることができる。ただし、優先されるべきは道徳的補償である。ダーバン会議は、奴隷制と奴隷貿易が人類に対する犯罪であることを認めることで第1歩を踏み出した。2つめは歴史的補償であり、フランス人歴史家のジャン・ミッシェル・ドゥヴォーが「規模と継続期間の点で人類史上最大の悲劇」と呼んだこれらの現象の基本的原因と物質的・人間的状態の歴史を余すところなく評価・広報・教育するため、資料館を開設して世界中からアクセスできるようにすることである。そうすることにより、奴隷制とアフリカ・カリブ海・南アメリカの低開発(その原因は、奴隷制が数百万人の人々に人口動態上の影響を及ぼしたことと、アフリカ大陸の生産システムが4世紀に渡って全面的・根本的に不安定化したことにある)が直接結びついていることを実証し、開発、とくに債務問題に関する交渉とこの重要な事実を関連づけることが可能になろう。最後に、3つめの補償は記憶の補償でなければならない。それは、奴隷制および奴隷貿易の記憶を伝えるあらゆる場所(砦、城砦、船舶、墓地、奴隷市場)と、その無形の遺産(奴隷の地位におとしめられた個人が抵抗・生存するために築き上げた文化システム)を特定・回復・振興することを通じて進められる。
26.このように3重のアプローチをとることにより、ヨーロッパ、南北アメリカおよびカリブ海で奴隷制を計画・奨励し、そこから利益を得たすべての者の責任と、アフリカにおいて奴隷制を援助・幇助した封建制の役割を確かめることが可能になるはずである。
27.特別報告者はまた、アフリカ系子孫の定義についての立場もはっきりさせ、そこには南北アメリカ、ヨーロッパおよびアジアに散らばるすべてのアフリカ系子孫が含まれるべきであると述べた。
II.人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容の現代的表れ方
A.政治における人種主義、人種差別および外国人排斥
1.コートジボアールの状況
28.2002年10月19日以来、コートジボアールは複雑な紛争に直面している。この紛争は、特別報告者が受け取った訴えによれば、民族間の緊張の悪化および外国人排斥の表出によっていっそう悪化してきた。
29.一部住民は、民族的嫌悪、北部住民に対する暴力行為および外国人排斥を煽動してきたとされる。2002年10月24日、特別報告者は、意見および表現の自由への権利に関する特別報告者とともにコートジボアールの状況に関するプレスリリースを発表し、民族紛争の危険に対して同国の当局が警戒を新たにすること、特定の皮膚の色または民族的出身の者からなるある集団の優越性にもとづいた考え方や理論から生ずる活動をなくすために緊急に必要な措置をとることを求めた。それ以降、アフリカ内外の人権団体(たとえばアフリカ人権擁護会議、ヒューマンライツ・ウォッチ)の調査により、大量虐殺や暗殺の証拠が発見されている。これは、被害者の人数や出身民族・コミュニティに照らし、国際社会による緊急の介入を必要とするものである。
30.2002年12月2日、特別報告者はコートジボアール当局に書簡を送り、現地訪問を要請した。この現地訪問は、特別報告者の委任事項にもとづき、差別、外国人排斥および関連の不寛容に関わる実情を確かめ、国際社会の報告することを目的としたものである。
2.ガイアナの状況
31.特別報告者はさまざまな情報源から、2001年3月の大統領選・議会選挙以来ガイアナの政治状況が悪化しているという情報を受け取った。選挙で勝利したのは人民進歩党・市民(PPP/C)であり、その指導者であるバラット・ジャグデオ氏が5年の任期でガイアナ大統領に三選された。選挙後は、イデズモンド・ホイト氏を指導者とする野党第1党、人民国民会議・改革(PNC/R)が選挙手続は憲法違反であったと主張し、社会不安と散発的暴力が生じた。実のところ、ガイアナの政治的雰囲気は同国の独立以来、奴隷制と植民地化から生じた遺産である、2つの主要な民族集団間の緊張に彩られ続けている。70万人の住民が、インド系ガイアナ人住民(およそ49%)とアフリカ系ガイアナ人住民(およそ35%)に大きく分かれているのである。2つの政党も民族集団によって分かれている部分がきわめて大きく、PPP/Cの支持層は主にインド系ガイアナ人、PNC/Rの支持層は主にアフリカ系ガイアナ人という状況になっている。
32.ガイアナの現状は同国が植民地であった過去に由来するものである。大英帝国がアフリカ人・インド人を労働力として強制連行して以来ガイアナに住み着いた人々は、権力支配をめぐるつばぜりあいを打破し、同国の資源を平和的かつ公正に管理することができなかったと思われる。特別報告者は、ガイアナにおける民族間紛争が悪化する危険性を深刻に懸念し、ガイアナ当局に対し、特別報告者がそのような事態を恐れていること、同国を現地訪問したいと考えていることを通知した。また、ガイアナ政府に対し、特別報告者が受け取った訴えを記載した通報も送付した。
B.ロマ/ジプシー/シンティ/トラベラーに対する人種差別
33.ロマの人々は、公的生活のほとんどあらゆる分野、教育、雇用、居住、公共の場所へのアクセスおよび市民権に関わる人種差別の被害者である。多くの居住地で警察による暴行の被害を受けるとともに、裁判手続でも差別されている。多くの社会でロマはスティグマ(社会的烙印)の対象となっているため、平等な市民として基本的権利を享受する能力に影響が及んでいる。ロマの文化や慣習が寛容をもって受けとめられていないため、ロマの人々は社会の周縁に追いやられざるをえない。
34.ヨーロッパでは、ロマの人々はレストラン、ディスコ、競技場その他の公共の場所に入場することを当たり前のように否定されているとのことである。欧州ロマ権利センターは、ロマが司法制度で差別に直面していること、とくにロマに対する暴力行為が充分な制裁の対象とされない国が多いことを報告してきた。加えて、ロマの状況に関する数多くの報告によれば、ロマは犯罪に対していっそう厳しい刑を言い渡され、審理前拘禁の期間も長くなり、弁護人選任権の実現にも困難をともなうことが多い。人権グループによれば、ロマの人々は教育機関でも差別される傾向にあるほか、居住との関連では、自宅から強制退去させられることが多く、居住場所も隔離されている。
35.2002年10月1日、欧州評議会は「欧州ロマ・フォーラム」に関する最終報告書を発表し、全欧州レベルのロマ諮問委員会の設置について検討してきた非公式な研究グループの勧告などを明らかにした。このイニシアチブは、ロマの生活に影響を及ぼす意思決定過程にロマ自身の充分な参加を保障する方法を模索するため、ロマを全欧州レベルで代表するある種の諮問議会を創設しようというものである。同報告書は、「欧州ロマ・フォーラム」の規模、構成および選出手続、同フォーラムと欧州評議会との間の制度的連携のほか、全欧安保協力機構や国際連合のような国際機関との協力分野についても取り上げている。
36.国際レベルでは、人種差別撤廃委員会(CERD)、自由権規約委員会その他のさまざまな条約機関が、締約国報告書に関する多くの総括所見のなかでロマに対する差別の問題を取り上げている(
注2)。さらに、CERDは第57会期、ロマに対する差別の問題をとくに扱った一般的勧告16号(2000年8月16日)を採択した。そのなかでCERDは、ロマの人々に対する差別と闘い、ロマの保護を保障するために各国がとりうる多くの措置を掲げている。具体的には、人種主義的暴力に対する措置、生活条件を向上させるための措置、メディアの分野における措置、公的生活へのアクセスに関する措置などである。また、締約国に対し、その管轄内にあるロマ・コミュニティに関するデータを定期報告書に記載するよう要請している。
37.特別報告者は、多くのヨーロッパ諸国でロマ住民の状況への関心が圧倒的に高まっていることに、評価の意とともに留意する。こうした関心の高まりに焦点を当てるうえでは、特別報告者の委任事項も役に立ってきた。意思決定過程へのロマの参加を増進するために地域レベルで生じつつある重要な進展、またロマの権利の保護に関して国際レベルで行なわれてきた勧告はいずれも前向きな傾向であって、特別報告者も支持したいと考えるものである。したがって特別報告者は、ロマの状況を引き続きモニターし、人権委員会に報告していく所存である。
C.反ユダヤ主義
38.特別報告者は、イスラエル政府およびいくつかのユダヤ人NGOから、『シオン長老会議議定書』
(Protocols
of the Elders of Zion)が中東やヨーロッパで大規模に頒布されているという訴えを受け取った。この悪名高い反ユダヤ主義の書物は20世紀初頭の偽書であり、キリスト教を破壊して世界を乗っ取ろうという策略を、ユダヤ人たちがシオニストの会議で採択したとするものである。この文書は1905年にロシアで最初に登場したと思われ、20世紀を通じて海外に頒布されることにより反ユダヤ主義を助長した。中東のある国では、ある民間テレビチャンネルが『シオン長老会議議定書』の番組(41話)を制作・放送したとされる。特別報告者は、この反ユダヤ主義宣伝に関係している国々の当局にこの問題を通知した。
III.特別報告者が検討した訴え
39.2002年、特別報告者は自らの委任事項との関連で、以下の国々に関わる訴えを検討した。ドイツ、ギリシア、ガイアナ、ロシア連邦、スペインおよび英国である。これらの訴えおよび当該国政府から受け取った回答の要旨は、その提出言語のまま、本報告書の添付文書に掲載されている。
IV.結論および勧告
40.結論として、特別報告者は以下のことを強調する。すなわち、特別報告者が各国政府、政府間機関および非政府組織と初めて接触を図った結果、ダーバン宣言および行動計画を緊急に実施する必要があることが明らかになった。両文書は、旧来の人種主義が警戒すべき形で復活しつつあること、また新たに陰湿な形態の差別と人種主義が台頭しつつあることに対抗していくために必要である。特別報告者はまた、この流れのなかで、人種、宗教および文化がゆっくりと混合・混成しつつあるために緊急かつ突っ込んだ対応が必要とされる諸状況が、とりわけ警戒すべき形で再発しつつあることも強調する。したがって特別報告者は、ダーバン会議の最終文書に照らし、二重戦略を提案するものである。その戦略は、法的・政治的戦略(関連のあらゆる国際文書・協定を批准および実施する)であると同時に、知的・倫理的戦略(差別の文化および心性の過程としくみがいかに深く根づいたものであるかという点に関する知識と理解を深める)でもある。これは、人種主義、人種差別、外国人排斥および関連の不寛容と闘うための努力と、異なる文化・文明・宗教間の対話を緊急に促進していくこととの間に、省察と行動を通じて緊密なつながりを確立していくという問題なのである。この目的のため、人権委員会に対して以下の勧告を提案する。
人種主義、人種差別、外国人排斥および不寛容と闘うためのあらゆる機構、とくにダーバン会議の最終文書の実施に関わる機構の間、人種差別撤廃委員会と当特別報告者との間、およびさまざまなテーマに関する特別報告者の間の相補性および協力を促進すること。
市民権を有しない者、移住者および難民に対する差別的な状況および慣行にいっそう注意を向けること。
委員会の審議において、人種主義と差別の文化および心性の知的・倫理的根源についていっそうの時間をかけて検討すること。
あらゆる形態の差別、排除および不寛容を打破するための産婆術的な〔ソクラテスのように対話を通じて真理に到達するのを援助する〕戦略として、異なる文明・文化・宗教間の対話が有力な役割を果たせるようにすること。
あらゆる側面の教育(とくに歴史、倫理、普遍的な倫理綱領としての人権、諸文化、およびすべての宗教・精神的伝統に共通な諸価値についての指導)ならびに広報および文化横断的コミュニケーションを促進すること。
多様性の承認、受容、促進および尊重として理解される多元主義の創造的価値を促進すること。その流れのなかで、アイデンティティという概念――固有性を正当に確認するものでもあれば、他者の否定につながることもある両義的な観念――を促進すること。
注1 Samuel Hantington,
The Clash of Civilization and the Remaking of World
Order, Odile Jacob, Paris, 1997.〔邦題『文明の衝突』鈴木主税訳・集英社・1998年〕
注2 たとえば、自由権規約委員会の総括所見・チェコスロバキア(2001年、CCPR/CO/72CZE)、同・ハンガリー(2002年、CCPR/CO/74/HUN)、社会権規約委員会の総括所見・クロアチア(2001年、E/CN.12/1/Add.73)参照。
→添付文書
→添付文書2