Nelly Caleb (バヌアツ障害者権利促進協会全国コーディネーター)
太平洋の島嶼国であるバヌアツは人口234,033人を有し、そのうち12%にあたる28,082人が障害をもつ(2008年の国勢調査)。2008年に障害者権利条約を批准して以降、バヌアツ政府は障害者に関する政策や計画をいくつか策定し、その実施をモニターする機能を法務省の中に新設した。民間においても障害者がリーダーシップをとるバヌアツ障害者権利促進協会(以下、DPAバヌアツ)を含めいくつもの非政府系組織がある。
DPAバヌアツは障害者の権利実現のためにさまざまな提言活動に取り組んでいる。例えば、建設や不動産業界に対して入口のスロープや車椅子で利用できるトイレの設置を求めてきた。障害者の雇用促進につながるトレーニングの提供に関する覚書を職業訓練学校と取り交わした。障害者が投票しやすいよう、すべての投票所に障害者のための設備をつけるよう求めてきた。インターネット利用人口はまだ限られているが、こうした提言活動をさらに広げるためにFacebookも始めた。
ユニセフの2015年レポートはバヌアツの障害者が直面している問題を次のように示している。
a. 教育:障害をもつ子どもの学校での成績は障害のない子どもの53%である。
b. 貧困:重度障害者の30パーセント近くは最低所得ライン以下の生活をしている。
c. 経済活動:障害をもつ人は自営や家族経営の事業に従事する傾向が高い。
d. 女性と子どもへのDV:障害をもつ子どもの親は体罰よりも口頭で説教する。障害をもつ女性の夫は何も言わないまま妻を殴る傾向にある。
災害時において障害者が直面する問題がある。2015年3月13日の大型台風サイクロン・パムでは、障害をもつ被災者は救援物資の配給場所に到達することや長い列に並ぶことができないため、置き去りにされた。
障害者に対する社会の態度が最大の障壁であり、さまざまな権利の行使や機会へのアクセスを阻んでいる。障害者に対する決めつけや蔑視は広く残っている。災害時に救援物資を提供する公務員にも、上記のような問題について認識のない人が多い。残念ながら、障害者から物資を受けることができなかったと訴える声は出ていない。今求められるのは、そうした公務員に対するインクルージョンのトレーニングである。そして災害対応の計画立案、開発そして実施のプロセスに障害者が参加することである。
Amy Riklon(内務省障害コーディネーター)
2012年、太平洋障害者フォーラムがマーシャル諸島の首都マジュロで1週間のワークショップを開催し、「障害者を包摂した開発」をテーマに障害者とステークホルダーが議論をした。2013年マーシャル諸島政府は障害者の状況について以下の報告を行った。
憲法は何人も差別的扱いを受けてはならないと規定しているが、差別禁止の根拠として障害を明示していない。そのため、障害をもつ人は就職、治療、公共サービス利用などにおいて大変困難な問題に直面する。建物、公共交通機関、教育、通信、情報などへの障害者のアクセスを保障する法律や政策はない。
太平洋地域の障害者団体は政府に障害者政策を策定するよう求めてきた。2013年には政策開発のワークショップが開催された。「障害者は対等なコミュニティのメンバーとして扱われるべきだ」、「障害者は社会に提供できるものをたくさん持っている。他者のことに関心を示さない社会の中に問題がある」、こうした意見が出た。
マーシャル諸島政府は、2009年に韓国の仁川で開催された「障害者の権利を現実にするためのアジア太平洋地域の戦略(2013-2022)」会議を基にした「2014-2018年 障害者を包摂した開発に関する国内政策」を採択した。この政策は、障害者の権利実現のための法整備や省庁間作業部会の設置、社会の意識啓発や障害者のポジティブなイメージの打ち出し、さらには雇用、住宅、医療における権利やニーズへの対応に関するものである。
2015年3月17日、マーシャル諸島政府は障害者権利条約を批准した。それと同時に、上記の政策が現在最終化されている。
マーシャル諸島の障害者支援の取り組みにおける主な課題は障害者に関するデータの不足である。また、国勢調査にもっと広い障害者の観点を取り入れるよう検討する必要がある。
「2014-2018年障害者を包摂する開発に関する国内政策」は次のように述べている。障害者に対する一般社会の態度は、からかいやあざけりの言葉、スティグマやステレオタイプの固定化などに示されており、非常に否定的である。これは、障害者が社会的差別を受けており、とくに雇用や社会参加において不利益を被っていることを示している。政府は国内政策実施の調整を内務省に任せているが、障害者の権利とニーズに真正面から答えるつもりであれば、他の省庁、市民社会、教会そしてPTAなどとの強いパートナーシップを築き、政策の完全実施を推進していかなくてはならない。
Amrith Subba (教育省青年・スポーツ局カウンセラー)
2011年9月、バングラデシュのダッカで開かれた南アジア障害者フォーラムにブータン障害者協会を代表して参加し、ブータンの障害者の現状について発表をした。そこで私は、「ブータンの障害者は平等と公正を満喫している」、「非障害者と同等の能力さえあれば政府が提供する雇用や奨学金を存分に使える」、「仏教思想を背景にブータンの社会は結束が固く、障害者には同情的でやさしい。だから目立った社会的差別はない」と述べた。その上で、私は「障害者にとってブータンの地形やインフラストラクチャーは利便性に欠ける」、「障害者の権利やニーズに関して一般社会は正しく理解していない」、「障害者がメインストリームに出ていくのを助ける便宜や施設がない」と報告した。そして、「伝統的な家族のつながりは障害者にとってクッションのような働きをしていて、社会から守ってくれる。家族や友人の愛情と思いやりに囲まれて、ブータンの障害者は何と幸福であろう」と結んだ。
そのあと自由討議の時間になり、インドの代表の質問で私ははじめて自分の発言に矛盾があることに気づいた。彼女はまず、障害者へのアクセスを保障するインフラ整備がなく、障害者が容易に外出できないのに、どうして社会的差別がないと言えるのか?政府や公的部門がインフラを整えないことも一つの社会的差別ではないのかと質問をした。そして、同情や思いやりは時には社会的差別になると挑戦してきた。「一体どれほどの障害児の親たちが、いじめや不便さから子どもを守るために家に閉じ込めていることか?」「同情や哀れみは、その人(子)が社会に出て、他者と交わり、一人で生きていけるようになる機会を奪っているのではないか?」。私は彼女のこうした問いに返す言葉がなかった。
その時以来、私は、ブータンの障害者はあからさまな差別には直面していないが、沈黙の差別の中におかれていると考えるようになった。建築法のもと、公共の建物はあらゆるタイプの障害者にアクセスを保障するよう建てられていなくてはいけない。しかし現実には、非障害者でも安心して歩けるような歩道さえ少ない。公共サービスを提供する施設に車椅子やスロープは備わっていないし、さらには、政府も民間企業も適切な資格をもっている障害者の採用を躊躇している。ブータンには障害者年金はないし、全従業員の10%の障害者雇用ルールもない。平等の機会の方針により、非障害者と競争できる能力のある障害者は自立と権利を満喫しているが、競争する力のない障害者は家族の慈愛にまかされたままである。ブータンは2009年に障害者権利条約に署名したが、その間、政府は沈黙を守ったままであった。ここにきてようやく議会が障害の問題について議論を始め、近いうちに条約を批准することを決めた。
また、同情や哀れみは一つの社会的差別であるという指摘にどきっとした。思い起こせば、私自身、これまで買い物に出かけたいと言うたびに、代わりに買ってきてあげるとどれだけ制止されたことか。それは同情と思いやりかもしれないが、別の見方をすれば、友人は私と一緒に外を歩くのが面倒なのかもしれない。このようにして、幕の後ろに隠されたままの障害者がたくさんいるのではなかろうか。障害児の親たちは子どもを大事に思うばかり、学校に行かせて他の子たちと交わらせないようにし、結局子どもたちが社会に関わっていく機会を奪っている。
私たちが求めるのは同情ではない、共感だ。私たちも同じ人間だという理解だ。共感は相手の立場になって考えることだけではなく、その人のニーズと尊厳を認めることである。ブータンであまり多くの障害者を見ることがないからといって、ブータンには障害者が少ないと誤解しないでほしい。その多くはまだ閉ざされた扉の向こうにいる。
藤原久美子(DPI女性障害者ネットワーク)
DPI女性障害者ネットワークは、障害のある女性をめぐる国内外のさまざまな課題への施策提言に取り組んでいる。私は、自分の生きづらさが、障害があり女性であるという複合性にあることを、DPI女性障害者ネットワークを通じて気づいた。そして、2012年に関西女性障害者ネットワークを立ち上げた。2013年に日本が批准した障害者権利条約の第6条は、障害のある女性および少女の複合差別を認識し、その尊厳を守るためにあらゆる措置をとるよう明記している。日本の批准運動の中で進められた法制度改革をチャンスと捉え、私たちは「複合差別」について積極的なロビー活動をした。それにより、障害者基本法には、障害者の自立および社会参加の支援のための施策は、性別や年齢などに留意して策定および実施されなければならない、という文言が入った。2013年の第三次障害者基本計画の基本方針に、「女性である障害者は障害に加えて女性であることによりさらに複合的に困難な状況に置かれている場合があることに留意する」と付け加えられた。
2016年2月の審査に向けて政府が女性差別撤廃委員会に提出した第7・8次政府報告も障害者基本法や基本計画を引用して、障害女性の複合的な困難について言及している。過去の報告では、目次に“障害のある女性”という見出しがあるものの、障害のある女性についての記述は一切なかった。大きな進展である。
しかし、何よりも重要なのは計画を実行に移すことだ。現在も障害者に関わる公的調査では、ほとんど性別集計が行われていない。女性たちが置かれている困難な状況が把握されていないため、必要な施策もない。こうした中、DPI女性障害者ネットワークは、2011年独自で「障害のある女性の生きにくさに関する調査」を行った。一番多かったのは性的被害であった。女性障害者は女性としては扱われない一方で、その性を搾取されている現実が浮き彫りになった。
こうした調査から言えるのは、障害者にかかわるジェンダー統計を整備し実態を明らかにすることの必要性と、障害女性の参画のもとで計画を策定し、障害女性の複合差別の解消のために具体的な施策を進めることの必要性である。
私自身は9年前に妊娠した時、障害児が生まれるのではないか、障害があって育てられるのかといった理由で、医者と親族から堕胎を勧められた。いくら法律が変わっても基本的なところは変わっていない。未だに、障害児の多くは、親の悲嘆や戸惑い、周囲の同情や憐れみの中で生を受けている。
私たちはどんなに重い障害があっても、その性を尊重され、一人の人間として当たり前に生きていける社会、誰もが排除されることのない社会を目指してこれからも活動していく。
注:本稿はIMADR-JC通信181号(2015年3月)の記事の抄訳です。
ヒューライツ大阪
2015年5月20日、韓国の仁川で世界教育フォーラム2015が開催され、政府高官、国際NGO代表、学術研究者など130人が集まった。会議ではダカール行動フレームワークと、ミレニアム開発目標の教育関連部分における成果と不足、ポスト2015開発目標における教育の目標とゴールの合意、今後の教育課題の実施を推進する包括的な行動フレームワークの合意について議論された。その結果、「すべての人のためにインクルーシブで平等な質の教育を保障し、生涯学習の機会を促進する」ために努力することが誓われた。
会議の文書録「教育2030:すべての人のためのインクルーシブで平等な質の教育と生涯学習に向けて(仁川宣言)」は、教育の権利について、そして教育の権利と他の権利との相互関係性について規定している国際・地域人権諸条約が示すビジョンと政治的意思を再確認している。また、「教育は公共財であり、基本的権利であり、その他の権利の実現を保障する基礎である。教育は平和、寛容、自己実現そして持続可能な開発にとって欠かせない。」と述べている。
仁川宣言は2030年までに国が達成すべきコミットメントも多数示した。その一部は:
a. 生涯学習のアプローチにおいて、アクセス、平等、インクルージョン、質および学習結果に向けて努力を傾注する。
b. 学校に通っていない子どもや青少年に意味のある教育と研修の機会を提供する。
c. 教育政策に必要な変化をもたらし、私たちの努力を障害者を含み最も不利益を受けている人たちに向け、誰も取り残されることがないようにする。
d. ジェンダーに敏感な政策、計画そして学習環境を支持し、ジェンダーの問題を教員トレーニングやカリキュラムのメインに置き、学校におけるジェンダーに基づく差別や暴力をなくす。
e. 2014年名古屋のESD(持続発展計画)ユネスコ世界会議で開始されたESDに関するアクションプログラムを強く支持して実施する。
f. ポスト2015持続可能な開発アジェンダを達成させるため人権教育とトレーニングの重要性を強調する。
これらステートメントは今後、教育に関する世界的な計画を立てる際に、人権教育を推進する基礎となる。潘基文国連事務総長も、会議において、人権の実現のために教育は重要であると強調した。