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2.国内人権機関Q&A

(1)日本に国内人権機関ができたら、どういう人権侵害事件を扱うのですか?

 国内人権機関は、国内法上、違法行為ではないとしても、基本的人権を踏みにじられている状態をなくしていくために機能することが期待されています。その意味で、国内人権機関が第一に扱うべきは、現在の法律や制度では解決することも救済することもできない人権侵害事件です。

 人権侵害を受けた人が利用できる救済手段としては、NGOやNPOなどの市民団体に相談すること、法務局におかれている人権擁護局に相談すること、裁判に訴えること、の3つが考えられます。ですが、実際のところ、市民団体や人権擁護局が、公権力や公人による人権侵害を解決することは非常に困難です。そうした公権力による行為が違法行為でなければ、裁判で勝つことも難しいでしょう。そうした状況では、人権侵害を受けた人は泣き寝入りをするしかありませんが、それでは、個人の尊厳を大事にするという民主主義の価値観がないがしろにされてしまいます。だからこそ、こうした事件を国内人権機関が扱うべきなのです。

 そのなかでもとくに、(1)政府や地方自治体、警察、学校といった公的組織による人権侵害、(2)政治家や首長、公務員などの公人による人権侵害を積極的に取り扱うべきです。それは、人権侵害は公権力によってなされる場合に被害が最も深刻になり、救済も難しくなるからです。また、公権力による人権侵害は法律上の根拠があってなされた行為による人権侵害なので、国際人権条約で保障された権利を尊重させることが一層難しくなるからです。

 一方で、法律違反ではない行為を取り扱うことそのものが法律違反だ、国家組織が権力を行使すると権力乱用が起きるのではないか、それによって新たな人権侵害が起きるのではないか、という意見もあります。しかし、法律上「してはならない行為」ではなくても、人権侵害行為となる場合があることを知っておく必要があります。

 例えば、国際人権条約上は、法律婚か否かにかかわらず、生まれた子どもの扱いに差をつけることは差別であり、人権侵害です。ところが日本では、法律婚をしている男女の子(嫡出子)と、していない男女の子(婚外子)を区別して登録することは違法ではありません。日本の例では、最高裁判所が2013年9月26日、出生届に「嫡出子」区別記載を義務付けた戸籍法の規定は「必要不可欠とはいえない」と判断したことを受け、兵庫県明石市は10月1日から嫡出子か婚外子かをたずねる欄をなくした出生届を使い始めました。ところが法務省は、これを戸籍法施行規則に違反するとし、明石市にその様式を使わないように指導したのです。

 このように、国内法上は違法でなくても、国際基準に照らせば人権侵害となってしまう、このような矛盾が起きるのは、日本の法律と国際人権条約とが一致していない場合があるからです。本来『世界人権宣言』がいうように、人権は人間に生まれながらにして平等に備わっているもので、世界共通の基準で保障されるべきものですが、日本の法律は、個人の権利の保障よりも、公共の利益の実現や公共の秩序の維持といった国家的な利益を優先しているため、その結果として、国際条約で認められている人権を侵害する場合があるのです。

 とはいえ、一つの人権侵害行為を解決するために、別の人の人権を侵害することがあってはなりません。どのような人権侵害事件を扱うのかは、権力の乱用にならないように、他の人権を侵害しないように、慎重にバランスを取って決められる必要があります。

『世界人権宣言』にあるように、人権は人間に生まれながらにして平等に備わっています。日本国憲法でも「基本的人権の尊重」は大事な理念の一つです。この世界は不平等や差別に満ちており、すべての人に基本的人権が認められているとはいえませんが、現実がそうであるからといって、不平等や差別を仕方のないものとしてよいということではありません。たとえ違法ではないとしても、不平等や差別は憲法上も、国際基準に照らしても、人間としても許してはならない人権侵害だからです。その意味で、国内人権機関が、現行法や既存の制度では対応できない人権侵害事件に対応することが求められています。