MENU

ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします

  1. TOP
  2. 資料館
  3. 国内人権機関
  4. 第3回アジア・太平洋地域国内人権機関ワークショップ

第3回アジア・太平洋地域国内人権機関ワークショップ

1.はじめに

 1996年7月にはオーストラリアのダーウィン、1997年9月にはインドのニューデリーで開催された「アジア・太平洋地域国内人権機関フォーラム(The Asia Pacific Forum of National Human Rights Institutions)」のワークショップが、1998年9月には、インドネシアのジャカルタで開かれた。 

 周知のように、1998年はそれまで高度成長を誇っていた韓国、タイ、インドネシアなどアジア諸国の経済が危機に陥り、危機からの脱出は世界の関心事となった。とりわけインドネシアは、30年もの間君臨したスハルト政権が学生を中心とする市民の抗議運動によって崩壊し、経済的危機に加えて政治的混乱の最中にあった。アジア・太平洋地域内諸国の国内人権機関をそのメンバーとする「アジア・太平洋地域国内人権機関フォーラム」は、インドネシアが政治・経済的に最も困難な時機に開かれた。ただ、権威主義的独裁体制であったスハルト政権に代わって登場したハビビ(B. J. Habibi)政権は、人権尊重と民主主義を基本とする改革(Reformasi)を政治課題として掲げていた。そのため、この国内人権機関フォーラム会議は、ハビビ政権にとっては「渡りに船」になり、人権政策の推進を内外に明示する好機であったばかりでなく、民主主義と人権確立を願う国内の人権NGOにとっても、ハビビ政権に人権政策を促す場になった。

 会議は、国内人権機関フォーラムの正式メンバーであるオーストラリア、インド、インドネシア、ニュージランド、フィリピンそしてスリランカ各国の人権機関に加えて、アジア・太平洋地域内の15カ国と域外3カ国の政府代表のほかに、人権関連の国内機関と人権NGOが多数参加して開催された。初日の開会式は大統領官邸で行われ、ハビビ大統領のスピーチによって始まり、その後は、会議場を本会議場であるホテルに移し、予定した議題に従って会議は進行した。 

2.会議の概要

 まず、会議が予定した議題は、①アジア・太平洋地域の経済危機と人権尊重、②ニューデリー会議において決定されたフォーラム活動の総括、③地域内の問題、そして④フォーラムの組織上の問題であった。 

 まず、アジア諸国の経済危機と人権に関するテーマについては、インドネシアの前財務相と人権委員会の委員長による報告の後討論を行ったが、食糧不足と失業者増加など経済的社会的権利の保障がきわめて困難な状況にあり、その具体的改善が最重要課題であるとともに、経済的危機が自由権侵害の口実となってならないことと、人権侵害の防止と救済のために国内人権機関が果たすべき役割についても確認を行った。次に、ニューデリー会議で決定されたフォーラム活動との関連では、域内諸国の人権機関の活動を国際人権法の側面から支援するために設けることになった「法律家諮問会議(Advisory Council of Jurists)」の構成と権限もしくは機能と手続に関する議論を行い、その具体的実現に向けて一歩前進した。また、国内人権機関に寄せられる人権救済の苦情申立ての受理と対応に関する手続について事務局から提出された文書を検討し、実状に適した有効な手続を次回の会議において検討することになった。 

 そして次に、地域内の問題との関連では、域内の人権機関間の協力と人権機関とNGOとの協力、女性差別の撤廃における国内人権機関の役割そして新しい国内人権機関の設立などの問題が議論された。議論のなかで注目されたのは、タイと韓国の政府代表から、国内人権機関の設立に関する具体的内容の紹介が行われたことである。韓国の場合は金大中大統領の公約の1つでもあったが、その具体的構想が明らかになったのはこのジャカルタ会議が最初であったため、金政権樹立の意義を新たにした。また、バングラデシュ、フィジー、モンゴル、ネパール、パプア・ニューギニアなどの諸国においても、国内人権機関の設立に向けて努力していることが報告され、'99年フィリピンのマニラで開かれる第4回会議には、国内人権フォーラムのメンバーが大幅に増える可能性も出てきた。そして、最後に、フォーラム事務局の運営と財政、国内人権機関職員の交流と研修そして協力、国内人権機関に関する国際調整会議と地域代表の参加などの問題について報告と議論が行われた。

 なお、アジア・太平洋地域のNGOは、今回の会議に備えて、会議の前日から準備会合を行い、会議の議題と討論に参加するためにNGO側の発言内容と役割分担を話し合って会議に臨んだ。そして、国内人権フォーラムとNGOとパートナーシップというテーマの下でワークショップを開催することをフォーラムに約束させたことは、今後の具体的協力をすすめる契機になるものと期待できる。さらに、会議に参加したNGOのなかには、地域内の人権NGOのほかに、インドネシア国内の人権NGOの参加、とりわけ東ティモールの独立に向けて活動しているグループの積極的な参加が目立った。

3.おわりに

 以上、'98年9月インドネシアのジャカルタで開かれた「第3回アジア・太平洋地域国内人権機関ワークショップ」をかいつまんで紹介したが、会議は、最後に、議論と合意の再確認と、域内諸国の国内人権機関の役割と課題そしてまだ設立が実現していない国家の人権機関の設立促進の必要についての言及、さらには国連人権高等弁務官事務所の協力と支援の要望などを盛り込んだ「ワークショップ結論」を採択して終わった(詳しくは資料2参照)。なお、第4フォーラム会議は、フィリピンのマニラで開催されることになった。

(文/金 東勲/龍谷大学法学部教授)