国連人権理事会第21回は9月10日から開催され、貧困問題、伝統的価値と人権、高齢者の人権、人権教育などについて決議を採択されました。理事会は28日に特別手続などの選出を待つために中断されました。
人権理事会は2010年の第15会期に極度の貧困と人権の問題に関する独立専門家にその問題に関する指針原則を作成するよう要請していましたが、その最終案が今会期に提出されていました。指針原則は、基本的な原則として、人の尊厳、権利の普遍性、不可分性、相互関連性、平等などのほか、極度の貧困状態にある人が自分自身について自分で決定を下す権利、参加とエンパワメント、情報へのアクセスの権利などがあげています。またそのような状況にある人の権利の保障のために、各国が貧困削減、社会的排除の解消のための包括的な計画、極度の貧困にある人に重点をおいた政策の策定や労働、教育、社会保障、食糧、医療など個別の権利の保障に向けた措置があげられています。また、企業を含む非政府組織や個人の役割や人権を尊重する義務についても言及されています。人権理事会は、指針原則を各国の貧困削減・撲滅政策の策定に有用なツールとして採択しました。
伝統的価値と人権について、人権理事会は2011年の第16会期に諮問委員会に尊厳、自由や責任などの伝統的価値の理解がどのように人権の保護促進に貢献できるかに関する調査を要請し、今会期にはその予備報告が提出されていました。報告には、諮問委員会は伝統的な価値と人権の関係に関する議論では意見が分かれ、肯定的な側面、否定的な側面の両方があるとして、国際人権法における国家の人権を尊重し、ステレオタイプや否定的な伝統的価値を修正し、撤廃する義務があることを確認しています。一方、自由、尊厳や他の世界人権宣言にあげられる価値を支えるような伝統的価値もあり、そのような価値を通した人権教育は人権の促進につながるとしています。また理解を深めるためにはそれぞれの文化や宗教に対して、国際人権基準と一致する限り尊重されなければならないとしていました。理事会においても、伝統的価値と人権の関連について、伝統的価値が濫用されるおそれがあるなど否定的な側面について言及する国もありました。
今会期に提出されたのは予備報告であり、報告の説明を行った諮問委員会の代表は、最終の報告が22会期に提出されると述べたにもかかわらず、ロシアは、伝統的価値の理解が人権の保護促進に貢献すること、家族、共同体や教育機関などが伝統的価値を支え、伝える重要な役割があることを確認し、各国政府にその役割を強化する措置をとることを求める決議を提出しました。諮問委員会の検討作業が続いていること、報告に含まれていた伝統的価値の否定的な側面について、まったく触れていないことなどについて、この決議案に対しては反論がいくつも出されましたが、賛成25、反対15、棄権7で採択されました。
高齢者の人権について、高齢者の人口の割合が大きく、かつ拡大しつつあるなか、高齢者のなかの貧困、特に高齢女性や障害のある高齢者、マイノリティの高齢者などの貧困が多いことに懸念を表明し、各国に高齢者の人権の保障を実現するよう、特に差別、虐待や暴力に取り組むよう求め、関係者の参加する協議をもとに制作を作成し、法制度を整備するよう呼びかける決議が採択されました。決議は、条約機関などに対して、それぞれの権限の範囲のなかで高齢者の人権を取りあげるよう求めています。また、23会期までに各国、関係機関や団体などと高齢者の人権の保護と促進に関して協議を行い、その結果を報告するよう人権高等弁務官事務所に要請しています。
人権教育について、国連総会は2004年の決議で「人権教育のための世界プログラム」を実施することを決め、第1段階として2005年から初等教育と中等教育の人権教育に焦点を当てて促進が図られました。続いて2010年から2014年末まで高等教育、並びにあらゆるレベルにおける教員、教育者、公務員、法執行官、軍関係者の人権研修に重点を置く第2段階が行われており、この会期には、その進捗状況に関する人権高等弁務官報告が提出されています。理事会は、各国、機関や団体、個人が行った取り組みを歓迎し、さらなる努力を促すほか、人権高等弁務官事務所に第24会期までに、第3段階の重点分野やテーマについて各国政府、人権機関や関係するステークホルダーの意見を聴き、報告するよう要請しました。
そのほか、ジャーナリストや報道関係者に対する攻撃や殺害の増加に対する懸念を表明し、暴力を非難する決議、人権の侵害が悪化するマリについて、人権高等弁務官に次会期までに報告書を養成する決議、次会期の閣僚などが発言するハイ・レベル・セグメントの初日にウィーン宣言・行動計画の20周年を記念するハイレベル会合を開催する決議などを採択しました。(10月4日)
出所:
「Human Rights Council suspends twenty-first session」国連人権高等弁務官事務所9月28日付プレスリリース http://www.ohchr.org/en/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=12609&LangID=E
第21回人権理事会採択の決議 (OHCHR)http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/RegularSessions/Session21/Pages/ResDecStat.aspx
参考:
「ヒューライツ大阪、『人権教育世界プログラム』の推進を求めて国連人権理事会で共同声明(9月14日)」(ヒューライツ大阪お知らせ)https://www.hurights.or.jp/japan/news/2012/09/914.html
(2012年10月09日 掲載)