12月3~4日、国連人権理事会は、2回目となる「ビジネスと人権」フォーラムを国連欧州本部(ジュネーブ)で開催しました。このフォーラムは、2011年6月の国連「ビジネスと人権に関する指導原則」を承認する決議によって創設されたもので、国連加盟国、ビジネス、市民社会、そして国連が対話・議論を通じて指導原則の普及と実施の促進をめざす2日間の年次会合です。
第2回のフォーラム議長にはASEAN基金(ASEAN Foundation)常務理事で元インドネシア国連大使のマカリム・ウィビソノ(Makarim Wibisono)さんが任命されました。前日2日には政府、ビジネス、国内人権機関、先住民族、市民社会に分かれてのステークホルダー・セッションが開催されるなど、本会議に加えて、分科会20セッション、サイドイベント25セッションが行われました。3日間で参加者数は約1,700人で、内訳は主要なところで、加盟国政府から11%、ビジネス(個別の企業および法律事務所など)から17%、市民社会・先住民族グループから33%などとなっています。筆者は、市民社会(研究者)としてフォーラムに参加しました(注1)が、日本からの参加者は10数名ほどで残念ながら少数でした。
フォーラムは指導原則の三つの柱である「保護、尊重、救済」を反映したテーマ設定で、登壇者や質疑について国家、ビジネス、市民社会それぞれに発言の機会を平等に設けるなど、マルチステークホルダーアプローチに配慮した運営が行われました。また、指導原則を普及し実施するためのステークホルダーのリソース不足を支援するため、国連事務総長の提案(A/HRC/21/21)に基づき、「キャパシティ・ビルディング基金」の創設が決定されました。特に、議論のなかで強調されていたのは、「地域」「国別行動計画」「現場での実効性」でした。
1、地域レベルの取り組みの広がり
本会議では欧州審議会、欧州連合、米州人権委員会、アフリカ人権委員会、ASEAN政府間人権委員会など地域的機関の代表者が取り組みを話し、また2日のプレ・イベントでは地域別セッションが開催されるなど、指導原則の普及・実施が国連レベルから地域レベルへと拡大していることが示されました。なお、初のビジネスと人権に関する地域フォーラム(ラテンアメリカおよびカリブ地域)が2013年8月にコロンビアで開催され、今後も各地で行われる予定です。
2、指導原則を普及・実施する国別行動計画の策定
9月に英国が指導原則を国内で普及・実施するための国別行動計画を発表したことを受けて、欧州やラテンアメリカの各国から国別行動計画の策定に向けた積極的な発言が続きました。会場では、ビジネス側からその取り組みを支援するような内容を期待する声があがる一方、市民社会や先住民族グループからは、策定プロセスに先住民族など人権侵害の被害者の参画を求めるとともに、企業による侵害行為の規制・制裁を盛り込んだ内容であることを期待する声があがりました。
3、指導原則の現場での実効性
参加者の3分の1を占める市民社会の存在感は大きく、企業の事業が行われている現場での指導原則の実効性に疑問を示し、法的拘束力ある条約や侵害企業を規制・制裁する国際的なメカニズムの必要性を訴える発言が続きました。これに対し、ステークホルダー間での情報、好事例、経験の共有の重要性を確認するとともに、指導原則というコンセンサスを覆して、「ビジネスと人権」の問題について国際社会が再び対立するような事態(注2)を懸念する国連、政府、ビジネスからの発言がありました。
菅原絵美(大阪大学大学院国際公共政策研究科特任研究員)
(注1)国連に協議資格を持つ反差別国際運動(IMADR)から支援を得てフォーラムに参加しました。
(注2)2003年に旧国連人権小委員会が採択した「人権に関する多国籍企業およびその他の企業の責任規範」を巡り、企業に対し法的義務を課すことに賛同する市民社会側と、懸念する加盟国・企業側との間に深刻な対立が生じました。この対立を乗り越えて、加盟国、企業、市民社会のコンセンサスとして承認されたのが指導原則です。
出所:
2013 United Nations Forum on Business and Human Rights (Web),
www.ohchr.org/EN/Issues/Business/Forum/Pages/2013ForumonBusinessandHumanRights.aspx
Final Programme Outline, http://www.ohchr.org/Documents/Issues/Business/ForumSession2/ProgrammeOutline.pdf
参考:
「英国政府、国連指導原則を実施するための行動計画(アクションプラン)を発表(9月4日)」ヒューライツ大阪ニュースインブリーフ、
(2014年01月16日 掲載)