2011年に国連人権理事会が承認した「ビジネスと人権に関する指導原則 」を国内で取り組もうという政府の動きがでてきました。指導原則は、企業の人権を尊重する責任とともに、国家の義務を定めています。この義務を履行するため、各国政府は、指導原則を国内のCSR政策に反映したり、指導原則を実施するための国別行動計画を策定したりしています。例えば、欧州ではEUが先導する形で加盟国が国別行動計画を策定しており、2013年9月には英国が、12月にはオランダが自国の行動計画を発表しました。
今回紹介するのは、米国政府の取組みです。国務省の民主主義・人権・労働局が2013年5月に「ビジネスと人権に関するアメリカ政府アプローチ 」という政策文書を発表しました。既に施行されている法律や規制、政策の事例を示しながら、米国政府がどのように「ビジネスと人権」に取り組んでいるのかを記載しています。その目的は、米国企業の利益をサポートすることを前提に、国際的な制度を強化し、世界の人々の人権保障をより促進することとしています。
そのアプローチは具体的に三つあり、1,企業活動の支援、2,プロジェクトにおける企業との協働、そして3,人権の尊重と公正な市場競争の促進です。1,企業活動の支援の一例である「ダイレクト・ライン・プログラム」では、米国企業が在外米国大使と直接電話会議をし、現地の人権状況等を把握する機会を提供しています。また2、では国務省が企業と政府系専門家の参加する定期会合を開催し、ビジネスと人権のテーマを取り上げてきました。3、には紛争鉱物を規制する金融規制改革法第1502条(ドッド・フランク法とも呼ばれ、コンゴ民主共和国および周辺国産の紛争鉱物を規制するため、紛争鉱物を使用して製造・委託製造する米国上場企業に対し、米証券取引委員会への報告義務および自社HPでの情報開示義務を課すもの)、対ミャンマー新規投資規制(人権デュー・ディリジェンス等に関して米国企業に対し国務省への情報開示を求めるもの)などを事例に挙げています。
菅原絵美(大阪大学大学院国際公共政策研究科特任研究員)
(2014年02月28日 掲載)