2016年2月25日、参議院議員会館にて「人種差別撤廃施策推進法の成立をめざす2・25院内集会」が、人種差別撤廃基本法を求める議員連盟の主催で開催され、一般市民を含め220人が参加しました。日本ではヘイトスピーチを含む深刻な人種差別が続くなか、それに対処する有効な法律や制度がありません。集会では、国会議員に加え、4人のNGO関係者や研究者がスピーカーとして招かれ、差別の現状やその背景について報告をしました。その中で、国際人権コーディネーターである白根大輔さんが、国際人権法から見た人種差別禁止法の必要性と題して、外から見た日本の人権状況について報告をしました。その概要を以下にまとめます。
外から見た日本の人権状況: あるアジアとない日本
人種差別撤廃条約を含む国際人権条約および国際人権システムの批准や実施について、アジアの枠組みからお話しします。アジアの人種差別撤廃条約批准国のなかで人種差別禁止法がある国として、まずモンゴルを見てみます。モンゴルでは憲法2条で人種差別はあるべきではないと規定しています。そして、刑法、民法、家族法、逮捕・拘留に関する法律などにおいて、人種、国家的あるいは民族的出身、言語、宗教などに基づく差別を禁止しています。これは「世系」を除き人種差別撤廃条約が定義として挙げている差別の理由をほぼ網羅しています。韓国は憲法11条で差別全般を禁止しており、法律では教育基本法、労働関係法、通信法、児童福祉法、放送法、兵役法などで禁止しています。また労働基準法では、人種、皮膚の色、国籍、国家的あるいは民族的出身に基づく差別を禁止しています。
次に中央アジアのウズベキスタン、カザフスタンそしてキルギスタンを見てみます。これらの国は国連の人権の表舞台にはあまり登場しませんが、国際人権基準の実施のためにさまざまな取り組みをしています。ウズベキスタンでは人種差別撤廃委員会の審査で出された勧告を履行するために行動計画を立て、省庁横断的に計画実施のためのモニタリング制度を作っています。また多民族国家であることを全面的に打ち出し、国内における民族関係の調査を行っています。カザフスタンでは、憲法、労働法、民法、刑法、行政訴訟法などで人種差別を明確に禁止しています。キルギスタンは憲法16条で人種差別を禁止し、31条で民族的、人種的あるいは宗教的嫌悪を正当化することを禁止しています。これはヘイトスピーチの禁止にあてはまります。さらに刑法で民族的嫌悪や民族的優劣、そしてジェノサイドの扇動を禁止しています。これら3カ国の取り組みは大変進んでいます。もちろん実施が重要ですが、法的枠組みがあることは大きな意味があります。人種差別撤廃委員会によるこれらの国の審査を通して、差別撤廃のための段階的な進歩がはっきりと見てとれます。委員会の勧告を助言として受けいれ、法律を作り、さらには行動計画を作っています。委員会との対話が建設的に発展しています。
法律の中で、文字として人種差別禁止を示すことはとても重要です。それは国内の人びとに人種差別はいけないというメッセージを伝えます。また人種差別の定義があることで何が差別か、何をしてはいけないのかが明確になります。差別が起きたら定義をもとに調査できます。差別があったかどうかは、被害者あるいは加害 者の主観によるところが大きいです。しかし法律があることで客観的に判断できます。また、法律は処罰だけではなく、差別についての理解を定着させ、ひいては差別が起きないような予防効果をもたらします。そのための法律の役割は大きなものがあります。
主要な国際人権条約9つのうち、8つの条約に個人通報制度があります。個人通報制度は自国がその制度を受け入れていれば使えますが、国内でのすべての法律と法制度を使い切ったケースだけに限定されます。8つの条約のうち、ここでは人種差別撤廃条約と市民的及び政治的権利の国際規約(自由権規約)、そして女性差別撤廃条約について見てみます。アジア地域の国連加盟国29カ国のうち16カ国が何らかの個人通報制度を受けいれています。なお、アジアは広く、ここでは中東と太平洋諸島を除きます。その中で、これら3つの条約すべての個人通報制度を受けいれているのは、カザフスタンと韓国です。自由権規約と女性差別撤廃条約の2つの条約でこの制度を受けいれているのは、キルギスタン、モルジブ、モンゴル、ネパール、フィリピン、スリランカ、タジキスタン、トルクメニスタンです。1つの条約だけは、自由権規約だけがウズベキスタン、そして女性差別撤廃条約だけがバングラデシュ、カンボジア、タイ、東チモールです。たとえ1つの条約の個人通報制度であれ、その国の人にとって国際人権機関へのアクセスがあることになり、日本のように何も受けいれていない国とは大きな違いがあります。
次に、差別や人権侵害の申し立てを個人から受け、調査をして介入をするという機能をもつ国内人権機関について見てみます。国からの独立性など、あるべき国内人権機関の機能を定めたパリ原則のもと、国際調整委員会が各国の国内人権機関について評価をしてステータスをつけています。ステータスAはパリ原則をすべて満たしている、Bは部分的、Cはまったく満たしていないことを示します。2015年11月現在、アジアでステータスAと評価されているのは、アフガニスタン、インド、インドネシア、ヨルダン、マレーシア、モンゴル、ネパール、フィリピン、カタール、韓国、東チモールです。Bはバングラデシュ、スリランカ、モルジブ、オマーン、カザフスタン、キルギスタン、イラクです。Cはイランそして(香港)です。
最後にアジア地域で個人通報制度がなく、なおかつ国内人権機関もない国は、ブータン、ブルネイ、中国、北朝鮮、日本、ラオス、パキスタン、シンガポール、そしてベトナムの9カ国です。日本は国連人権理事国であり経済大国であるにもかかわらず、人権水準はアジアにおいてそして世界において非常に低いことが分かります。
以上が白根さんの報告でした。その他、大阪市反ヘイトスピーチ条例の意義とヘイトスピーチ被害実態調査について、川崎市でのヘイトスピーチを許さない「オールかわさき市民集会」について、そして人種差別実態調査研究会の調査について、それぞれスピーカーが報告をしました。司会は有田芳生参議院議員が務めました。
<参照>
2月20日、大阪市内で開催した「ヘイトスピーチはいらない!今こそ、人種差別撤廃基本法の成立を求む」の集会報告はこちら ⇒
https://www.hurights.or.jp/japan/news/2016/02/post-56.html
2月7日、白根大輔さんをスピーカーに招いたセミナー「来て、見て、感じる人権-知ってるアジアと知らない日本」の報告はこちら ⇒
https://www.hurights.or.jp/japan/news/2016/02/267.html
(2016年03月01日 掲載)