「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(社会権規約)」の実施をモニターする条約機関である社会権規約委員会は、2017年5月29日から開催されていた第61会期の最終日の6月23日に、「ビジネス活動における社会権規約締約国の義務に関する一般的意見第24号」を公表しました。
社会権規約委員会などの人権諸条約の条約機関は、それぞれの条約の規定の解釈や締約国の提出する報告に含める情報などについて、指針となる一般的意見を公表しています。この一般的意見を起草するにあたり、社会権規約委員会は2月に開催された第60会期において、意見の草案をもとに一般的討議を行なっていました(既報)。
権利の享受に関する差別禁止
今回採択された一般的意見では、まず全般的な義務として、社会権規約にあげられる権利の享受に関する差別禁止をあげ、特にビジネス活動によって不利益を被る女性、子ども、先住民族、民族・宗教的マイノリティ、障害のある人などに言及しています。そして、経済的・社会的権利を侵害し得るビジネス活動を規制するあらゆる措置に、ビジネスと人権に関する国別行動計画のためのガイダンスを参照するなどして、ジェンダーに基づく複合差別の視点を取り入れるよう締約国に勧告しています。
貿易・投資条約をめぐって
一般的意見はさらに、規約のそれぞれの権利を尊重、保護、充足する義務について説明しています。尊重する義務の下では、締約国が正当な根拠なしに規約の権利よりもビジネスの利益を優先したり、またはそのような権利に負の影響を及ぼす政策を遂行することは、規約の違反となると述べています。
貿易・投資条約の締結の際には、それに先立って人権影響評価を行い、締結後も定期的に評価し、必要に応じて修正措置を取るよう求めています。締約国は貿易・投資条約によって規約の権利から逸脱することは認められず、今後締結するそのような条約には人権に関する義務について明示的に言及することや、投資家対国家の紛争解決制度において人権を考慮するよう確保することが奨励されています。
ビジネス活動による権利侵害の防止
保護する義務の下では、締約国はビジネス活動の中で経済的・社会的権利が侵害されることを防止しなければなりません。一般的意見は、人権デュー・ディリジェンスを企業などに要求する法制度をつくることのほか、企業による規約の権利の侵害、または侵害の危険を緩和することを怠ったことに対する制裁措置や、被害者が民事訴訟などで賠償を請求することを可能にする措置を検討するべきだと述べています。
公共分野の民営化をめぐって
また、伝統的に公共の領域であった健康や教育などの分野に民間企業の関与が拡大していることについて、規約では民営化が禁止されていない一方、水や電気などについては、平等で継続的なサービスの提供や品質要件などの「公共サービスとしての義務」を課すべきだと述べています。委員会は民営化によって特に基本的な経済的、社会的および文化的権利の享受のために必要なものやサービスが高価になったり、品質が利益のために犠牲にされることを懸念し、規約上の権利の享受が、支払い能力を条件とするようになってはならないと述べています。
領域外における締約国の義務
さらに一般的意見は、多国籍企業の活動の拡大やグローバル・サプライチェーンの台頭、外国の民間投資の増加によって、領域外での締約国の義務の問題が重要であることを指摘し、締約国が自国管轄内に住所を有する企業の活動を規律することによって、領域外の状況に影響を及ぼし得る場合に、締約国の義務が生じ得ると述べています。締約国は通常、民間企業の域外の活動による権利の侵害について国際的に直接の責任を負うことはありませんが、そのような侵害を防止できる合理的な措置を取ることを怠った場合には規約の違反となり得ます。また、責任を実効的に果たすだけでなく、被害者による救済へのアクセスという観点からも、司法共助のような、各国の司法当局間、法執行機関間の相互協力を奨励しています。
ビジネスと人権に関する行動計画
また、「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づいて各国、および地域機関が行動計画を策定していることについて、一般的意見はそれを歓迎し、実効的な参加、非差別およびジェンダーの平等、説明責任と透明性を含む人権原則を取り入れるべきだとしています。
(構成:岡田仁子)
<参照>
(2017年07月13日 掲載)