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国連人権理事会諮問委員会で、地域的人権機関などに関して経過報告(2017年8月)
国連人権理事会諮問委員会(以下、諮問委員会)の第19会期の会合が、2017年8月7日から11日まで開催され、ハンセン病患者およびその家族に対する差別の撤廃、保護者が同伴しない子どもの移住者、人権の保護促進のための地域的取り決めなどについての議論が行われました。諮問委員会は、人権理事会の要請を受け、人権の保護促進に関わる問題について研究や調査を行い助言する18名の個人資格の専門家による機関です。
保護者が同伴しない子どもの移住者の人権
2015年、人権理事会は第29 会期において、諮問委員会に保護者が同伴しない子どもの移住者の人権状況、およびどのような人権侵害が起きているのかなどについて調査し、人権保護のための勧告を行うよう要請していました。人権理事会・第35会期には、この問題に関するパネル・ディスカッションが開かれ、諮問委員会からもパネリストが参加していました。今回出されたのは、2017年9月に開催される、人権理事会第36会期に提出される予定の最終報告案です。
その報告案によると、2015年の世界の移住者の15%は20歳以下で、難民だけをみると50%以上におよびます。子どもの権利委員会や米州人権裁判所によると、「保護者が同伴しない子ども」とは、親や親族と離れてしまい、法律または慣習によってケアする責任のある成人がいないことを意味し、調査の対象には、移動の際に親や他の保護者から離れてしまった子どもや、子どもだけで移動をはじめ、他の人と一緒に移動している子どもなどが含まれます。
諮問委員会が各国に出した質問票の回答によると、子どもが国を離れる理由は複数ありますが、出身国での暴力、貧困、教育や保健医療などのサービスのアクセスの欠如など、複数の人権侵害からの保護がないことが共通しています。保護者が同伴しない移住者の子どもは、差別されない権利、子どもの最善の利益を考慮される権利、名前と国籍をもつ権利、家族との再統合の権利、意見を聴かれる権利などの権利が侵害され、人身売買、労働・性的搾取などに遭遇する子どもがいることも報告されています。しかし、人権侵害の状況について情報が不足していること、特にジェンダーに基づく侵害についてはほとんどないことが指摘されています。
一方、移住先の国で庇護申請手続きを始める前から、保護者が同伴しない子どもにソーシャル・ワーカーや法的代理人などをつける制度を有しているケース、難民のための施設を運営する機関が子どもたちに教育を提供しているという実践例が挙げられています。
報告は、保護者が同伴しない子どもの移住者・青少年に対する責任は出身国、通過国、受入国が同じように有しているとし、各国に、子どもが国を離れる主な原因となる、食糧、教育、職業訓練、暴力や差別からの保護などの基本的なニーズの充足の欠如に対して最優先で取り組むこと、移住政策において、子どもの最善の利益が指導的な原則となること、子ども・青少年の受け入れにあたって、子どもの権利などについて専門的な研修を受けた人員を配置すること、受け入れ施設に保護者が同伴しない子ども専用の特別な安全な施設があること、子どもに年齢や文化的背景に応じて情報を提供すること、保護者が同伴しない子ども・青少年が成人年齢に達した後も、成人への移行を支援するために援助を継続することなどを勧告しています。
人権の促進と保護のための地域的取り決め
人権のための地域的取り決めに関しては、人権理事会が2016年の第32会期において、人権の保護促進のための世界各地の地域的およびサブ地域的取り決めに向けた取り組みの進捗状況、その成果、国連人権高等弁務官事務所の役割などについて、2018年の第39会期までに報告するよう諮問委員会に対して求める決議を採択していました。今会期には、前会期の予備報告に続いて、経過報告案が出されました。
予備報告案と同様に経過報告案は、欧州、米州、アフリカ、アラブ地域の人権機関の人権の保護促進における成果や課題を分析し、また地域的人権機関のないアジア地域についても、東南アジア諸国連合(アセアン)が政府間人権委員会を設置しアセアン人権宣言を採択したことをサブ地域における進展として報告しています。
それぞれの地域的取り決めの成果として、判決や決議による基準の策定、加盟国からの定期報告や調査による情報収集、モニタリングなどがあげられます。一方、財政を含む資源の不足、政治的意思の欠如などの課題があることを指摘されています。
また、地域的取り決めの促進において国連人権高等弁務官事務所が情報共有や協力のための協議などを行うワークショップの開催、人材育成、国際基準などの普及を行ない、地域事務所を世界各地に設置していることが報告され、各地域と国際社会をつなぐ重要な役割を担っていることが述べられています。
報告案は、地域的取り決めのもっとも重要な要素として、国際基準を守るという国家の意思や、地域内の主要国を含むすべて、またはほとんどの国の参加などの「コミットメント」、各国の利益からの制度的独立、地域的人権機関の決定の実施制度やモニタリングなどを含む「手続き」、国内人権機関の関与や市民社会の参加などによる「協力」をあげています。
さらに、アジアにおいて人権の地域的取り決めをつくるアプローチとして、(1)高いコミットメントと協力関係をもつサブ地域の取り決めを、同じような考えをもつ政府、自治体などとつくり次第に拡大していく、(2) アジア全体を網羅する取り決めをつくり、最低限の保障しか合意できないかもしれないが、最大限の人数を対象とし、いずれ加盟国がより大きなコミットメントをもてるよう支援する、(3) 同じような考えをもつ国々によるサブ地域取り決めや子どもの貧困、高齢者の権利など共通の課題のための取り組みが多元的に重複するネットワークをつくる、といった可能性をあげています。このネットワーク・アプローチは、地域取り決めをつくるためだけではなく、既存の制度を強化するためにも有用であることが述べられています。
最後に、報告案は、地域取り決めに対する十分な資金提供、国内レベルで地域人権協力の基礎をつくる、そして議会、法執行機関、裁判所、地方自治体への支援、情報発信の改善などのほか、国連人権高等弁務官事務所の人的、財政的資源の拡大を勧告しています。また、アジアについては、人権理事会の普遍的・定期的審査(UPR)の経験を活用して、新たに地域的人権裁判所または人権機関の設置することを提案しています。
諮問委員会はそのほか、開発の人権の享受への貢献、テロリズムの人権の享受への影響、持続可能な開発目標(SDGs)の枠組みにおける国内政策および人権などのテーマについて、報告起草のための作業部会を設置することを決めています。
(構成・岡田仁子)
<出典>
Human Rights Council Advisory Committee concludes nineteenth sessionOHCHR (2017年8月11日付プレスリリース)
Nineteenth session of the Human Rights Council Advisory Committee(人権諮問委員会・第19会期)