第6回国連ビジネスと人権フォーラムが、2017年11月27日から29日まで、スイス、ジュネーブの国連ジュネーブ事務所があるパレ・デ・ナシオンで開かれました。ビジネスと人権フォーラムは人権理事会のビジネスと人権作業部会が毎年開く催しで、2011年に人権理事会で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」(指導原則)の実施を進め、広めるために企業、政府、市民社会団体、民間団体、労働組合団体、学会などの関係者が議論する場です。フォーラムは、「指導原則」の実施が、世界でどのように進んでいるか、企業や政府がそれとどう取り組んでいるか、人権侵害の発生と被害者の救済は有効にされているかなど、現状をつぶさに知ることができる格好の機会となっています。
今回のテーマは「有効な救済を実現する」ということで、開会と閉会の全体会議の他、45以上の会議が3日間、同時並行的に開かれました。「指導原則」では、「国は人権を守る義務がある」、「企業は人権を尊重する責任がある」、「人権を侵害されたものには救済の途が開かれている」という三本の柱がありますが、今回のフォーラムは、三番目の「救済」の課題が中心になりました。殆どの会議が何らかの形で、企業活動によって人権に負の影響を受けた人たちを救済するということと関連づけて企画されていたようです。参加者は前回の2500人を超えていたことは確かなようでした。
フォーラムの全体を追うことは、その規模から容易ではありませんでしたが、特に以下の議論が目立ちました。
有効な救済について議論されたひとつの具体的例として、日本が関わってきたミャンマーのティラワ経済特区の住民移転に絡む問題がありました。ミャンマー政府、JICA、ミャンマー・ジャパン・ティラワ・デベロップメント社(MJTD)の開発実施側とともに、苦情を申し立てている住民側代表、そして開発実施に賛成する住民代表がそれぞれ発言し、複雑な現状が浮かび上がりました。
一方、参加した企業関係者からは、前回のテーマのもとで議論された、バリューチェーン全体を通して人権を尊重するために取るべき企業方針や人権デューディリジェンスの課題と比べて、「有効な救済」に企業としてどのように取り組むべきかが解りにくかったという声も聞かれました。
なお、上記6の国別行動計画(NAP)に関しては、日本政府代表(志野大使)から、昨年のフォーラムに引き続いて発言がありました。その中では、昨年のフォーラムでの言明のとおり、日本政府はNAPの策定にコミットしていることが改めて述べられた上で、NAPの有効性を高めるために企業活動と現行法体制における人権保護の現状を精査する「ベースライン・スタディ」に着手したこと、その際、国連のビジネスと人権作業部会が推奨するやり方を重視していること、マルチステークホルダーによる会合を持つことも考えていること、NAPの策定がSDGsを実現するために重要であり、政府のSDGs実施指針ではNAP策定を具体的な指標としていること、NAPの策定に際してはさまざまなステークホルダーの声を聞くことが不可欠と考えており、それには数年の時間を要するものの、2020年の東京オリンピック・パラリンピックも視野に入れ、今後数年のうちにNAPを完成、周知させるために努力を続けること、などが述べられました。
2018年の第7回フォーラムは11月26日から28日に開かれます。
(白石 理)
<参照>
(2017年12月01日 掲載)