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オーストラリアでの人権教育国際会議に参加して(11月26日-11月29日)

 2018年11月26日~29日まで、オーストラリアの西シドニー大学(Western Sydney University)を会場に、第9回人権教育国際会議(International Conference on Human Rights)が開催されました。この会議は、同じ会場で9年前にスタートし、南アフリカ、ポーランド、台湾、アメリカ合衆国、オランダ、チリ、カナダを巡り、今回は再び第1回目と同じ会場で開催されました。世界から約400人が参加しました。筆者は通算3回目の参加となりました。
 開催地オーストラリアでも、2013年の政権交代以降、政府補助金の減少、インターネットの影響が大きくなるなど、人権教育はぜい弱な状態にあるといいます。世界各地で人権と民主主義に対する敵対的な政治環境が広がる中で、人権教育を後退させまいと取り組む人びとが集い、エンパワーされた4日間となりました。

多様なテーマ

 会議のテーマは、世界人権宣言70周年を迎え、改めて人権と人権教育の発展とその意義を振り返るものから、各国の実践、リジョナル(国際地域)な取り組み、難民、ヘイトスピーチ、死刑制度、教育方法まで実に多岐にわたりました。注目すべきものとしては、この間、ヨーロッパ評議会がつくった、学校における人権教育を評価するための枠組み(Reference Framework of Competences for Democratic Culture:民主主義のためのコンピテンシー枠組み)があります。コンピテンシーには「能力」という意味がありますから、「学習者が身に着けることが望ましい、“民主主義の実現に資する力”」という意味合いです。ヨーロッパ評議会を構成する47か国における学校教育が、人権教育の基本的な考え方にのっとったものとなるように、また、人権教育を共通基準によって評価できるように、価値・態度・知識・スキルがそれぞれ数項目にわたって整理されています。ネット版(英語)も見られますから、ぜひ、日本にどこまで応用できるか見てみてください! (文末にサイト)
 また、人権を推進するために、ビジネスモデルを取り入れよう、という提案も全体会で行われました。たとえば、「経済と平和研究所」(Institute for Economics and Peace)というシンクタンクが作っているグローバル・ピース・インデックス(世界平和インデックス)は、「紛争の状況」「社会の安全度と安全保障」「軍事化」など23の指標について、1~5段階で評価しています。こうした評価を行い、世界で起こる暴力に向き合うためのコストを計算し、平和の推進が、経済的なプラスにもなることをアピールすることで、人権を推進しようというのです。

インターネットと差別

 筆者はDigging into Digitalという分科会に参加し、発表を行いました。この分科会では、ネット社会の影の部分をふまえつつも、ともかく若者に向け、むしろ積極的な取り組みを、NGOや学校が次々と創造しようとしている姿が印象に残りました。影の部分ばかりに注目するのではなく、まずは子どもたちに使えるものを作る!ということです。
 たとえば、地元の学校では、ムスリム、ユダヤ教徒、先住民などマイノリティの多い学校と、一般の学校をネットワークでつなぎ、お互いに「聞きたいことを自由にきく」スペースを作ったり、オンラインでの交流を進めた上で、その後、実際に面と向かう数日の合宿を行うという取り組みを行っていました。しかし、「またやりたい」という声は、マイノリティの子どもたちの側から上がる割合のほうがはるかに高いとのことでした。
 筆者は、部落問題とネットによる差別助長誘発についての報告を行いました。起きている現象そのものや、それが起こっている国は違っても、差別を助長誘発する行為には共通点があると感じます。オーストラリアでも、It’ s OK to be white(白人でいて何が悪い、というような意)という決議を国会にかけようとする議員の声があったり、イスラム系住民を揶揄する意図で国会にわざとブルカをまとって出席した議員がいたという声がありました。オーストラリアには、ヘイトスピーチを規制する法律がありますが、「法律があるだけでは十分ではない。人々がそれを大事なルールだと思うようになるためには、政治家などのリーダーシップが重要だ」という声もありました。

若者によるプログラム

 国連「人権教育のための世界プログラム」第4段階(2020-2024)が「若者」youthを焦点化したことを受けて、全体を通して、若い世代の参加者にリーダーシップとらせ、企画を進める場面も印象に残りました。
 「人権教育を通じて若者をエンパワーし、インクルーシブな社会を築こう」というセッションでは、難民としてオーストラリアに定住したイランやソマリア出身の20歳代の若者たちや、先住民のルーツを持つ若者が自らの経験を語り、グループ討議のファシリテータを務めました。
 また、最終日には、地元のハイスクールの生徒が多数参加し、高校生代表、研究者、裁判官、人権活動家が壇上に並んでパネルディスカッションが行われました。高校生からは、「人権って、法に書かれているっていうけれど、どうしたら手に入るの?」という質問があり、印象的でした。
 また、台湾の東呉大学の人権修士課程の学生たちがリードして、台湾のLGBT の権利について分科会も開かれました。おりしも、台湾では会議がスタートする2日前に、地方選挙とともに、同性婚やジェンダー平等教育の是非をめぐる住民投票が行われたところでした。とくに同性婚については法が成立したものの、反対も多く、まだ施行されておらず、同性婚への賛否が住民投票にかけられました。また同性婚への反対派は、「ジェンダー平等教育が、同性愛者をつくりだしてしまう」というような反対キャンペーンを展開したとのこと。住民投票の結果は反対が多数派という結果でした。
 オーストラリアでも、同性婚が合法化された際には、同性婚反対キャンペーンがその論拠にしたのは「 ①信教(宗教)の自由」、「②子どもを守る」という2つの主張であったといいます。《〇〇の自由…》を理由に、マイノリティの排除を正当化する論理はどこも同じと感じます。そして、民主化を推進してきたこの数十年を経て、なぜいま、人権に逆行する世論や政治が活発化しているのか、台湾の若者の声をききながら、世界共通の課題として考えさせました。

阿久澤 麻理子(大阪市立大学教授、ヒューライツ大阪理事)

<参考>
https://www.coe.int/en/web/education/-/official-launch-of-the-reference-framework-of-competences-for-democratic-culture-rfcdc-and-of-the-implementation-network
Council of Europe:Official launch of the Reference Framework of Competences for Democratic Culture (RFCDC)  

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筆者(左から4人目)が報告した分科会のメンバー

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(2018年12月06日 掲載)