大手不動産会社「フジ住宅」に勤める50代の在日コリアン女性が、社内で、コリアンを野生動物にたとえたり、民族全体を嘘つき呼ばわりするような侮蔑的な発言や「在日は死ねよ」などの表現を含んだヘイトスピーチ文書の配布、そして政治的活動への強制的な動員等が行われたとして、会社と会長を提訴し、その2審判決が2021年11月18日に大阪高裁で出された。
すでにマスメディアでも報道されたとおり、1審に続き、2審もフジ住宅の経営陣の行為が雇用者の人格権を侵害したと判断した。そして会社と会長に1審の賠償額110万円から増額された132万円の損害賠償を言い渡し、また1審後も文書配布が続いていると原告が訴えた差し止めの仮処分も認めた。
高裁の判決文と判決について原告弁護団の声明は、この裁判を支援してきた「ヘイトハラスメント裁判を支える会」のウェブサイトに掲載されている。
判決内容の一部を紹介すると、憲法14条や日本が締結した人種差別撤廃条約、ヘイトスピーチ解消法などの趣旨に照らして、従業員である原告は、職場で自らの民族的出自等に基づいて差別されたり侮辱されたりしないという「人格的利益」を有するとし、一方、経営側は、民族差別的な考えが培われたり、放置されないような職場環境に努める義務があると述べた。今回の事件は、経営陣自らがヘイトスピーチの文書配布などを行い、差別的な思想を醸成する違法行為であると認定した。ただ、現状の日本の法律の枠組みでは、上述のヘイトスピーチ文書が、原告個人を特定したものではないということで、原告に向けた差別的言動があったとは認められなかった。フジ住宅は最高裁に上告することを表明している。
<ビジネスで問われている人権>
国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)をはじめとするこの分野の国際社会の合意は、企業活動において人権を尊重することはすべての企業の責任であり、これは、企業が他者の人権を侵害することを回避し、関与する人権について負の影響が生じれば対処すべきであるということだ。ここでいう人権とは、国際社会で蓄積されてきた世界人権宣言や人権条約をはじめとする国際人権基準のことを指している。今回の裁判でも言及された人種差別撤廃条約はその基準を示した主要な文書の一つである。
「指導原則」は企業の規模や業種を問わず、また、自社のみならずサプライチェーンを含んだ広い範囲の企業活動を念頭においた国際的なガイドラインである。そこでは、もし企業が、経営トップの一存で差別煽動の言動が行われたら、企業としてなぜ止めることができなかったかを検証し、今後同じ人権侵害が起こらないよう対処策を徹底することが必要であるとされている。企業内のガバナンス体制の整備が必要ということにもなる。
日本政府は「指導原則」発表以降の国際社会の状況を受け、「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020~2025年)を策定したが、企業に対し、「企業活動における人権への影響の特定、予防・軽減、対処、情報共有を行うことなどを期待している」と述べている。
ビジネスと人権をめぐる日本の国内外の流れの中で、2021年6月に改訂された金融庁・東京証券取引所(東証)の企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)には、「人権の尊重」が明示された。フジ住宅はその東証一部上場企業である。
判決日の直前に、権力と闘い人権擁護に尽くした人・団体を表彰する「多田謡子反権力人権賞」の第33回受賞者に「ヘイトハラスメント裁判を支える会」と原告が選ばれたというニュースがはいってきた。
(出典)
「ヘイトハラスメント裁判を支える会」https://moonkh.wixsite.com/hateharassment
「多田謡子反人権基金」https://tadayoko.net/index.html
毎日新聞社説「職場で「ヘイト文書」配布 企業の人権侵害許されぬ」
https://mainichi.jp/articles/20211127/ddm/005/070/080000c
「ビジネスと人権に関する指導原則」(日本語)
https://www.hurights.or.jp/japan/aside/ruggie-framework/
「企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)」
https://www.jpx.co.jp/news/1020/nlsgeu000005ln9r-att/nlsgeu000005lne9.pdf
(2021年12月06日 掲載)