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第52会期人権理事会において出生登録とすべての人が法の下において人として認められる権利の状況について議論(2/27~4/4)

 2月27日から44日かけて開かれた第52会期人権理事会において出生登録とすべての人が法の下において人として認められる権利の状況について議論されました。

世界における出生登録の状況

 国連児童基金(ユニセフ)が201912月に発表した出生登録に関する新たな報告書「2030年までにすべての子どもに出生登録を:その進捗は?」( https://www.unicef.or.jp/jcu-cms/media-contents/2019/12/Birth-registration-for-every-child-by-2030-brochure.pdf )によると、過去10年間で子どもの出生登録数は大きく増加したものの、いまだ世界の5歳未満児の内、1億6600万人(4人に1人)が出生登録されていない、つまり公的に存在が認められていないという状況に置かれています。また、出生登録はされていても出生証明書を持たない5歳未満児の人数を加えると、その数は23700万人にのぼり、これは3人に1人の割合です。地域別の出生登録率は西ヨーロッパ100%、東ヨーロッパおよび中央アジア 99%、中東および北アメリカ 92%、東アジアおよび太平洋 91%、南アジア 70%、西および中央アフリカ 51%、東および南アフリカ 40%であり、未登録数の半数をインド、ナイジェリア、エチオピア、パキスタン、コンゴが占めています。

 「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の目標16「平和と公正をすべての人に」のターゲットのひとつに「2030 年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する」(16.9)ことを掲げていますが、目標達成のためには世界の3カ国に1カ国は早急な改善が必要であることをユニセフの報告書は示しています。

すべての人権の尊重及び保護に向けた欠かせないステップ

 人権理事会は、出生証明書を持っていないことによって、国籍や名前、家族関係を含むアイデンティティを保持する権利や、健康、教育、財産および相続、社会福祉、労働ならびに政治参加に関する権利を含む、人が享受できるべき権利の一切について制限されるか、まったく享受できなくなる可能性に言及し深い懸念を示しています。さらに、出生届がなされていないことで、特に子どもは、貧困、周縁化、排除、差別、暴力、無国籍状態、不法な養子縁組、誘拐、子どもの売買、搾取や虐待に対してより脆弱であることが考慮されるべきであり、子どもの出生登録がすべての人権の尊重および保護に向けた欠かせないステップであるとしました。なお、子どもへの搾取や虐待について、児童労働、子ども兵士の採用と利用、性的・ジェンダーに基づく暴力、人身取引、児童婚・強制結婚、その他の有害な形をとる場合を含むことを人権理事会は指摘しています。

出生登録、出生証明の取得に対する障壁

 人権理事会では脆弱な状況にある子どもが直面する障壁についても議論されました。紛争や貧困を生きる子どものほか、障害を有する子ども(特に少女)、先住民族に属する子ども、特に家族等から引き離されて移住した子ども、移民の子ども、庇護希望者の子ども、難民や無国籍者の子どものようにマイノリティに属する子どもは、出生登録やその関連文書を取得する上で追加的な障壁にぶつかり得ます。それゆえに脆弱な状況にある子どもたちは無国籍状態のリスクや、自身の出自を知ることができない状態も含めて名前や国籍、法的身分などのアイデンティティに関わる権利を剥奪されやすく人権の完全な実現を妨げられる可能性が高くなるのです。

 出生登録および出生証明書の取得における障壁として、人権理事会は、ジェンダーに基づく差別も取り上げています。結婚またはその解消時に国籍を変更することを女性に要求する、女性が国籍を継承する権利を否定する注)、出生登録において父親の関与を要件とするためにシングルマザーが子どもの出生登録をすることを妨げる、このような国籍法および市民登録の要件におけるジェンダーに基づく差別は、特に緊急事態や武力紛争の状況において、出生登録の主要な障壁となり子どもの無国籍状態につながることに人権理事会は懸念を示しています。

人権理事会からの各国への要請等

 2030年までの出生登録を含むすべての人の法的な身分証明の提供を達成するために人権理事会は各国に対して13の要請を行いました。その中には、女性がその子どもに国籍を継承することを妨げるような法律および政策がある場合にそれを特定し改革すること、出生登録および出生証明書の取得について、無料ないし低額であること、その他の物理的、行政的、手続的、財政的、実務的およびその他のあらゆる障壁を特定し除去することなどが挙げられています。これには例えば脆弱な状況にある人が満たすことができない文書の要件の除去も含まれています。他にも出生登録が現になされていない、あるいは出生証明書を持たない状況であっても、国内および国際人権法に従って、関連する国のサービスおよびプログラムへのアクセスおよびその享受が妨げられないようにすることも要請に含まれています。

 また、各国への奨励として、出生登録にかかる文書が、可能な限り、障害者および少数言語や先住民族の言語の使用者にとってアクセスしやすく、理解できるようになることや、各国が出生登録の義務を果たすために必要に応じて関連する国連機関、基金、プログラム、およびほかの関連するステークホルダーに技術支援を要請することなどを求めました。

 人権理事会は人権高等弁務官に対し、関連する利害関係者と協議の上、普遍的出生登録を達成するためのデジタル技術の使用に関する包括的研究に着手し、その報告書を第58会期(202524月)において人権理事会に提出することを要請したうえで、第61会期(202624月)において課題について検討することを決定しています。

注) 日本では1984年までは父系のみが国籍を継承できたが、女性差別撤廃条約の批准にむけた国内法整備の一環として1984年に国籍法が改正(1985年施行)されたことに伴って、父母両系が国籍継承できるようになった。
https://www.hurights.or.jp/archives/newsletter/section4/2020/07/post-201877.html

<出典>
A_HRC_52_L.23.pdf

<参考>
「出生登録 法的に存在しない子ども、16,600万人 5歳未満の4人に1人に相当 サハラ以南アフリカ、最低水準」
https://www.unicef.or.jp/news/2019/0179.html

我々の世界を変革する: 持続可能な開発のための 2030 アジェンダ(外務省仮訳)
"16.9 2030 年までに、すべての人々に出生登録を含む法的な身分証明を提供する。"
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/files/000101402.pdf

世界人権宣言
第6条 すべて人は、いかなる場所においても、法の下において、人として認められる権利を有する。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/1b_001.html

子どもの権利条約
7
1 児童は、出生の後直ちに登録される。児童は、出生の時から氏名を有する権利及び国籍を取得する権利を有するものとし、また、できる限りその父母を知りかつその父母によって養育される権利を有する。
2 締約国は、特に児童が無国籍となる場合を含めて、国内法及びこの分野における関連する国際文書に基づく自国の義務に従い、1の権利の実現を確保する。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jido/zenbun.html


(2023年05月09日 掲載)