日本では、在留資格のない外国人(移民)をさして「不法滞在者」「不法残留者」という表現がちまたでよく使われています。たとえば、6月8日に成立した改定入国管理法案をめぐり、新聞やテレビは、「不法滞在などで外国人を強制送還しやすくする入管難民法改正案」や「不法残留する外国人らの迅速な送還」などと報道していました。
そうした事態を受けて、NPO法人移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)は6月上旬、「在留資格のない移民・難民を不法と呼ばず、非正規や無登録を呼ぼう!」と提唱するパンフレットを作成し、ウェブサイトなどでその普及を始めました。
パンフは、正規の在留資格をもたずに日本に滞在するのは行政法の範疇に属する入管法違反であることから、そのことを理由に「不法」とするのは不正確であり、「非正規滞在」などと表現するのが国際標準になっているという認識を示しています。
国連の文書では、約50年前から「不法滞在」といった言葉は姿を消しています。国連総会は1975年、「国連機関および同専門機関のすべての公的文書において、仕事を得るために他国に不法に、かつ/あるいは、密かに入国した労働者を『書類のない』(non-documented)もしくは『非正規の移住労働者』(irregular migrant workers)という用語に統一するよう要請する」という決議文を採択しています。そして、決議は「国連加盟国に対して、書類のないもしくは非正規状態を含むすべての移住労働者の人権を尊重するという国家の義務を関係機関に認識させるよう訴える」と理由を述べています。
その国連決議を受けて国際労働機関(ILO)をはじめとする国連専門機関、欧州評議会なども同様の決議をあげています。また、AP通信社をはじめいくつかの国際的な報道機関は2013年以来、いわゆる「不法移民」あるいは人物をさして「不法な」と表現することを禁じています。
今回のパンフでは、なぜ「不法滞在者」や「不法移民」と呼ぶのが不適切なのかの理由として、1)在留資格がないことは犯罪ではない、2)不正確かつ有害、3)公正な議論を妨げ、差別を生み出す、4)脆弱な人びとに対する不当な扱いを許すからという項目をあげて説明しています。
そして、非正規滞在となるにはそれぞれ理由があるとし、何らかの事情で在留資格を失なったものの日本に家族が住んでいるため帰国できずに滞在を続ける人、在留資格のない両親から日本で生まれた子ども、認定されない難民申請者などを例示しています。
パンフはまた、在留資格のない移民・難民も「私たちの社会の一員」であるとして、「住民」としての行政サービスを提供するとともに、在留資格がないという理由で強制送還するのではなく、現在も実施されている個別の在留特別許可の拡大、移民受入国の多くで行われているアムネスティ(集団での正規化)を行うことによる人権保障、また国際人権基準に基づいた難民認定をするよう提言しています。
このパンフは、非正規滞在者の権利保障をめざしおもにヨーロッパで活動する「無登録移民の国際協力プラットフォーム」(PICUM)という NGOネットワークによる「Words Matter」(言葉は大切である)というキャンペーン資料をヒントに作成されたものだといいます。
<出典>
https://migrants.jp/news/others/230601.html
在留資格のない移民・難民を不法と呼ばず非正規や無登録と呼ぼう!
(移住連 2023.6.9)
<参照>
https://picum.org/words-matter/
Why Words Matter(PICUM)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2023/06/626.html
国連特別報告者、非正規移民の正規化への道を拡大するよう各国に要請(6/26)ヒューライツ大阪
(2023年07月05日 掲載)