小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事
悪い人が殺人など、悪事をはたらく物語は多い。映画もたくさんある。だが、普通の市民が、子どもや女性を含む多数の人を殺害する日本の映画は思い当たらない。この映画「福田村事件」は、千葉県で100年前に実際に起きた民衆による大量殺害事件を題材にしてドラマ化したものである。
背景には植民地政策
関東大震災が起きた1923年9月、地震と火事で東京の新聞社は新聞を発行できず、流言が飛び交った。伊豆七島が海没したとか、国会議事堂が崩壊したとの情報もあった。
なかでも朝鮮人が暴動を起こし、井戸に毒を投げ込み、放火をしたという噂はかなり人々に信じ込まれたようだ。1910年、日本は朝鮮を武力で併合し、1919年の3・1運動など、朝鮮人が日本の統治に抵抗する運動を続けたことが背景にある。加えて、内務省が「朝鮮人が暴動」などのデマを文書にして各警察署に連絡し、各地で自警団が朝鮮人を捕らえ、殺害する事件が続出した。
このとき殺害された朝鮮人や中国人は5千名から6千名に及ぶと言われる。
社会主義者や労働運動活動家も殺された
殺された人の中には、朝鮮人と間違えられた日本人もいた。新劇界の大御所の千田是也(せんだ・これや)が、東京の千駄ヶ谷でコレア(朝鮮人)と間違えられた経験から自分の芸名を作ったというのは有名な話である。また混乱に乗じて、労働運動の活動家も多く警察によって殺害された。このことが映像化されたのは初めてのことだろう。また大杉栄、伊藤野枝ら反体制の活動家も甘粕大尉によって殺された。
この時、香川県から千葉県の福田村に薬の行商に来ていた被差別部落民の一行が朝鮮人と間違えられ、15人のうち、子どもや妊婦を含む9人が竹槍などで自警団に殺された。加害行為に参加した村人は100人を越えるという。この事件は闇に葬られ、事件が公にされたのは、今世紀に入ってからのことだ。
どうして行商人グループが殺されることになったのか。映画では、止めようとする人もいるのだが、在郷軍人会などの圧力で、「やっちまえ」という雰囲気が作り出されていくのが不気味だ。
過ちをしっかり見つめること
理不尽な言動であっても、力がある人には逆らいにくい。大勢に流されやすい日本人の姿が映し出される。どうして虐殺を止められなかったのか、自分がその場にいたら、果たして止められただろうかと考えてしまう。
過ちをしっかり見つめ、どうしたら避けられただろうか、と考えることこそが次の過ちを避けることができる。
©「福田村事件」プロジェクト2023
<福田村事件>
監督:森達也
脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦
2023年/ 日本映画 / 2時間17分/
配給:太秦
9月1日より テアトル新宿、ユーロスペースほか全国公開
(https://www.fukudamura1923.jp/)
(2023年08月04日 掲載)