国連「ビジネスと人権に関する指導原則」(以下、指導原則)の普及・促進・実施を担う国連ビジネスと人権作業部会(以下、作業部会)が2023年7月に報告書「採掘セクターと公正な移行と人権」を発表しました。脱炭素社会に向けたエネルギー転換に重要な役割を果たす採掘セクターについて、人権を基盤とした責任ある行動を関連する国と企業に求めています。以下はその概要です。
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企業の中でもエネルギー転換との関わりが特に大きいのが、脱炭素技術を支える鉱物等の資源を供給する採掘セクターです。2015年のパリ協定採択以降、採掘セクターに関わる多くのステークホルダーが、エネルギー転換のためのコミットメントを表明し、その実現に向けた計画と施策を発表しています。しかし、そうした計画の設計と施策の実施を可能にする、脱炭素社会への移行に不可欠である「移行鉱物(transition minerals)」 の調達が、土地の収奪や強制退去、強制労働等の人権侵害や環境破壊を拡大させるという懸念の声が大きくなっています。一方で、銅、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルト、亜鉛、レアアース等の移行鉱物の世界的な需要は5倍に増加すると予測されています。
企業、特に採掘セクターは、すべての取引関係において人権を尊重し、エネルギーの移行計画と施策を設計し実施する際には、人権への負の影響の予防を中心に考える必要があります。先住民族や人権擁護者を含む市民社会や人権に負の影響を受ける地域社会は負の影響を指摘する重要な役割を担っており、企業や投資家が人権リスクを特定し予防し対処する中で、こうした人々と有意義な対話・協議を行うことが重要です。
公正な移行を実現するには、国際人権法と指導原則を十分に考慮した上で、持続可能な消費を促進し、クリーンエネルギーへの公平なアクセスを可能とし、人と地球のどちらのウェルビーイング(健康で社会的、経済的に良好な状態)も重視されるようなシステム変革が必要となります。清潔で健康的かつ持続可能な環境に対する権利を含むすべての人権が保護、尊重、促進されるよう、エネルギー、環境、投資に関する政策が一貫性を持って実施されなければなりません。
本報告書は、作業部会が2023年6月に発表した「気候変動と指導原則についての情報ノート」で示した、気候変動に関わる政策やその決定、実施において、国と企業は指導原則に沿った行動を取るべきだとする考え方に基づいた内容となっています。プロジェクト、イニシアティブ、政策、投資等を含むすべてのエネルギー転換プログラムが指導原則を含む国際人権基準と適合し、公正で包摂的であり人権を基盤とするものになるよう、採掘セクターと関わる国、企業、関連ステークホルダーに対する次のような提言を含んでいます。
●国に対する提言(多国間機関を含む):
●企業に対する提言(投資家・業界団体を含む):
<出典>
<参考>
(2023年12月01日 掲載)