国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の一部スタッフが、2023年10月7日のハマス等パレスチナ武装勢力によるイスラエルへの攻撃に関与したという疑いがイスラエルより出されたことで資金拠出の停止を表明する国が相次いでいます。日本政府も1月28日に資金拠出の停止を決めたと外務省が発表しました。AFP通信によると1月31日現在で少なくとも12か国がUNRWAへの資金拠出を停止しているとのことです。[1]
UNRWAは、イスラエル建国をめぐって勃発した第一次中東戦争の結果、故郷を追われた70万人にのぼるパレスチナ難民の救済を目的に1949年の国連総会で設立されました。難民となった1948年からすでに75年以上が経った現在も故郷への帰還が実現しない中、UNRWAはパレスチナ難民教育、保健医療、救援・社会サービス、保護、キャンプのインフラ整備・改善、マイクロファイナンス、緊急支援などの分野で、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区、ガザ地区、ヨルダン、レバノン、シリアで活動しています。人口の7割が難民とされるガザ地区では最大の人道支援機関であり、13,000人のスタッフが雇用されていますが(UNRWA全体では30,000人)、10月7日以降1月29日までにイスラエルによるガザ地区への攻撃によって152人の職員が亡くなり、146のUNRWAが運営する避難所が攻撃されています。[2]
UNRWAの一部スタッフによるイスラエル攻撃への関与の疑いに対しては、国連の調査機関である内部監査部(OIOS)がすでに調査に着手していますが、各国からの相次ぐ資金拠出の停止を受け、国連内外の諸機関やNGO諸団体が各国に再考するよう訴えています。
フィリップ・ラザリーニUNRWA事務局長は、1月27日に発表した声明の中で、イスラエルから出された疑いに対してUNRWAが、疑惑の対象となった「スタッフの契約解除」および「透明性のある独立した調査の依頼」という対応を即時に取ったにも関わらず、少数のスタッフによる関与の疑いを理由に各国が資金拠出を停止となったことは「衝撃である(shocking)」と述べています。また、ガザ地区で200万人以上の人々が生存のためにUNRWAに依存している状況に触れ、「特に戦時であって、避難を強いられ、政治危機がこの地域で起きているときに、一部の個人に対する犯罪行為の疑惑を理由に、UNRWAおよびコミュニティ全体を制裁することは、非常に無責任である」と述べ、資金拠出停止への再考を求めました。[3]
アントニオ・グテーレス国連事務総長は1月28日に声明を発表し、国連職員によるテロ行為への関与は刑事訴追も含めて責任を問われることを明確にしています。その上で、疑いの対象となっている12人のスタッフに対しては、そのうち9名は即時に特定された上でUNRWAから解雇されていること、1名は死亡が確認され、残る2名は身元を特定している段階であることを示しながら、現在のUNRWAへの資金状況では、ガザ地区の200万人の市民が日々の生存のために依存している支援を2月には行えなくなることに懸念をあらわし、拠出を停止している各国に対して「少なくともUNRWAの活動の継続を保証するよう強く訴える」と述べています。[4]
また国連内外の人道支援機関が参加する「機関間常設委員会(IASC)」も、1月30日に声明を発表し、「さまざまな加盟国がUNRWAへの資金拠出を一時停止する決定を下すことは、ガザの人々にとって破滅的な結果をもたらすでしょう。ガザ地区の220万人が緊急に必要としている規模と幅広い援助を提供できる能力を持つ組織は他にありません」と述べ、各国に再考を求めています。「UNRWAからの資金撤退は危険であり、ガザの人道支援システムの崩壊を招き、パレスチナ占領地や地域全体において人道的および人権上の影響を広範囲にわたって及ぼすことになるでしょう。世界はガザの人々を見捨てることはできません」と訴える声明は、世界保健機関(WHO)や国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)など15の諸機関の代表によって署名されています。[5]
人道支援に関わるNGO諸団体からも拠出停止の撤回を求める声明が出ています。日本でも、(特活)国境なき子どもたち、(公社)セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンなど7団体が連名で、資金拠出の一時停止は「人道的な支援提供を確保するために迅速で効果的な措置をとるよう求める国際司法裁判所(ICJ)の命令にも明らかに違反して」いるとして撤回を求める要請文を1月31日に上川陽子外務大臣宛に外務省へ提出しました。[6]
[1] ガザ人道危機置き去りに WHO、UNRWA支援継続呼び掛け 写真10枚 国際ニュース:AFPBB News
[2] UNRWA Situation Report #71 on the situation in the Gaza Strip and the West Bank, including East Jerusalem | UNRWA
[3] Serious allegations against UNRWA staff in the Gaza Strip | UNRWA
UNRWA's lifesaving aid may end due to funding suspension | UNRWA
[4] Statement by the Secretary-General - on UNRWA | United Nations Secretary-General
[5] Statement by Principals of the Inter-Agency Standing Committee: We cannot abandon the people of Gaza | IASC (interagencystandingcommittee.org)
[6] UNRWA funding cuts threaten Palestinian lives in Gaza and region, say NGOs | NRC
【2/1 NGO緊急記者会見】日本政府によるUNRWAへの資金拠出一時停止の撤回を | 特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンターのプレスリリース (prtimes.jp)
(2024年02月02日 掲載)