国連「ビジネスと人権」に関する作業部会(以下、作業部会)が5月28日に国連のウェブサイトに公表した訪日調査報告書の内容紹介の5回目は、「テーマ別懸念事項」でとりあげられた「バリューチェーンと金融の規制」および「勧告」についてです。
企業と開発金融機関は、より入念な人権デュー・ディリジェンスの実施を
作業部会は、日本企業がミャンマーやロシアなど紛争をかかえる国・地域でどんなビジネス活動をしているのかを把握するのは困難であるとの認識を示しつつ、人権侵害に加担していないかどうかを調査するために、より入念に人権デュー・ディリジェンスを実施すべきだとしています。そして、「ビジネスと人権に関する指導原則」で述べられているように、人権への悪影響を特定・予防・軽減し、それらに対処するために日本企業への影響力を行使するよう日本政府に求めています。作業部会は、バリューチェーン全体を通したステークホルダー・エンゲージメント(関係構築)が人権尊重の基盤の役割を果たすと強調しています。
作業部会はまた、中国の少数民族のウイグル人に対する強制労働や、マラウイのタバコ農園での強制労働を目的とした子どもを含む人身取引の問題など、日本のサプライチェーンにおける強制労働に関連するリスクへの懸念に言及しています。
作業部会は、開発金融に関して、独立行政法人国際協力機構(JICA)および国際協力銀行(JBIC)は人権デュー・ディリジェンスの分野でいくつか好事例を示していると述べる一方、ミャンマーやベトナムなどにおいて、JBICなど開発金融機関からの資金援助によるプロジェクトが人権への悪影響をもたらしているという報告に留意しています。作業部会は、とりわけリスクに直面しているグループへのエンゲージメントの重要性を強調しています。
国、企業、市民社会への勧告
作業部会は、報告書の最後に政府(国)、企業、市民社会に対してそれぞれ箇条書きで勧告を提示しています。とりわけ、政府に対してはアルファベットのa~yまで25項目もの多岐にわたる課題をあげています。
そのうちヒューライツ大阪として強調したいのは、以下の3つの基盤整備に関することです。
① 実効的な救済を実現するための政府から独立した国内人権機関の設立。
② 人権条約機関への個人通報制度を受け入れること。
③ 明確で包括的な差別の定義を盛り込んだ差別禁止法の制定。
企業および業界団体に対する勧告は10項目にまとめられています。その冒頭には、指導原則に則った事業レベルでの苦情処理メカニズムの構築をあげています。その非司法的なメカニズムにおけるすべての基準はジェンダーに配慮することと述べています。
市民社会に対する勧告は3項目で、指導原則のもとで、国の義務と企業の責任に関する認識の向上と能力強化に不断に取り組むことを市民社会の関係者に求めています。
(※ヒューライツ大阪は、国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書の概要を5月31日に掲載したのち、具体的な課題に関して5回シリーズで紹介しました。今回で一区切りとします。このシリーズは、藤本伸樹と朴利明が担当しました。)
<参照>
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2024/05/528.html
国連ビジネスと人権作業部会、日本への訪問調査の報告書を公表(5/28)-多岐にわたる勧告
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2024/06/lgbtqi.html
国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その1)-女性、LGBTQI+の人びと、障害者について
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2024/06/2-2.html
国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その2)-先住民族とマイノリティ・グループ
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2024/06/3-1.html
国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その3)-労働の権利
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section4/2024/06/-.html
国連ビジネスと人権作業部会による訪日調査報告書が示した課題(その4)-メディアとエンターテイメント産業
<報告書の日本語訳>
https://hrn.or.jp/news/25958/ (ヒューマンライツ・ナウ)
【日本語訳の公表】国連ビジネスと人権の作業部会による訪日調査最終報告書(7/1)
ヒューマンライツ・ナウとビジネスと人権リソースセンターによる日本語訳(仮訳)
(2024年07月05日 掲載)