人権に負の影響を与える多国籍企業等の事業活動を規制するための条約策定をめざす「多国籍企業およびその他の事業体における人権尊重に関する公開の政府間作業部会」の第10会期が2024年12月に開催されました。この作業部会は、エクアドルと南アフリカが中心となり、2014年より条約案起草に向けた議論を進めています。会期初日となる12月16日にフォルカー・テュルク国連人権高等弁務官がスピーチを行い、人権を最優先するビジネスと人権の考え方をあらためて強調しました。以下はその概要です。
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ビジネスにおける多国籍企業等の影響力はこの数十年で飛躍的に拡大し、あらゆる人々の日常生活に影響を与えています。すべてが国境を越えてつながる現代では、複雑なバリューチェーンの中で商品やサービスが異なる法制度や規制を持つ国々に及ぶことになります。このようなグローバルなつながりにおいて、偶然であれ意図的であれ、人権が侵害される可能性があります。強制労働や児童労働、環境破壊、危険な労働条件やビジネス慣行、ハラスメント、人権擁護者や先住民の弾圧が隠され無視されかねないのです。
わたしたちは、今を生きる人々や将来世代のために、こうした状況を変革することができ、その責任があります。環境と将来に対する人類の影響力が拡大する中で、その力が持続可能な形で適切に使われるように努力しなければならないのです。
これこそがビジネスと人権の中核をなす重要な課題であり、人間や地球を犠牲にして利益がもたらされることのないようにしなければなりません。ビジネスと人権の考え方は、「人権にはビジネスが必要であり、ビジネスには人権が必要である」という前提に基づいています。これは単なる企業倫理の問題ではなく、私たちの核となる価値観と私たちが共有する人間性の問題であり、ビジネスの観点からも経済的観点からも、将来を見据えた長期視点ということでも理にかなうものです。
企業は、社会における他のアクターと同様に、平和や正義、平等、社会の安定から利益を得ています。企業がその潜在能力を発揮するなら、ビジネスを含めた私たちの生活のあらゆるところで人権が実施されることになるでしょう。企業は互いに支え合うことができ、また支え合わなければなりません。
近年、国も企業もビジネスと人権における重要な一歩を踏み出しています。2024年だけでもアルゼンチン、リベリア、ネパールがビジネスと人権に関する国別行動計画を策定し、米国やスイスなどが国別行動計画を更新しました。また、欧州連合(EU)が「企業サステナビリティ・デューディリジェンス指令(CSDDD)」を採択しており、人権デュー・ディリジェンスの義務化に向けて動き出す国が増えています。
企業の人権尊重を促進するために、各国政府は国内・国際的、強制的・自発的な措置を組み合わせて検討する必要があります。この作業部会がめざす、グローバルな行動基準となる法的拘束力のあるビジネスと人権に関する条約の採択は、公平な競争条件をグローバルに作り出すことにつながります。人権を最優先すること、正しい行いをしたために不利益を被る政府や企業をなくすことが可能になるのです。また、企業によって人権に負の影響を受けた被害者に対して、どこにいてもよりよい司法へのアクセスを確保し、企業に対しては明確で強制力のある義務を確立することになります。
<出典>
<参考>
(2025年03月05日 掲載)