小山 帥人(こやま おさひと)
ジャーナリスト
朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から韓国に逃げてきた人たち、いわゆる脱北者によって作られた映画で、南北の人々の意識の違いや未来への希望が描かれている。
映画の舞台は2030年の北朝鮮の中学校。かなり南北の融和が進んでいて、学校では南から教育実習生(教生)を受け入れる段階になっている。
校長は韓国からの教生を受け入れるよう上部から指示される。何事によらず、上部の指示は絶対的で、不満を漏らす教員に対しては「校長が上部の指示に反対できると思うか!」と怒る。しかし、この学校で一番権力を持っているのは校長ではない。党から派遣された「秘書」という肩書きの人がいて、職員会議を指導する。
オバマ元大統領の演説を聞かせたことが問題に
韓国から教生としてやって来たのは、アメリカに留学経験を持つ女性。英語の上級クラスを担当することになり、流暢な発音で生徒を魅了する。生徒が英米人の発音を聞いたことがないと言うので、オバマ元米大統領のスピーチを聞かせるが、敵国の親玉の演説を聞かせたことが問題になる。
この教生と仲良くしたいと思う北朝鮮の女性英語教師がいる。しかし自分の発音がコリアン・イングリッシュと言われたことや、ほのかな三角関係のもつれから、教生がせっかくくれた韓国の化粧品を投げ捨ててしまう。
日本の御真影に似た肖像写真
この学校で、肖像画の問題が起こる。北では教室や会議室に政治指導者の肖像画を掲げることになっている。肖像画は汚れないように、毎日磨かなければならない。
かつて日本でも「御真影」というものがあった。天皇や皇后の写真である。火事があったら、運び出すことが義務づけられた。長野県では、火事で御真影が焼けてしまい、責任を感じて割腹自殺した校長がいたほどだ。ぼくが小学校に通ったのは戦後なので、御真影はなかったが、講堂の正面に御真影を入れる箱が飾られていた。
映画では、肖像画を生徒が汚してしまい、泣きそうになっている。なんとかしようと、教生の女性も協力するのだが、かえって事態を悪化させてしまう。南のスパイでないかとの疑惑や、盗聴マイクの設置、密告、立入検査など厳しい状況が描かれる。
民衆同士の友情が結実する未来は
この映画を作ったのは、高校生の時に脱北したソク・ボムジン。延世大学の芸術院で映画を専攻した。この映画は卒業作品で、カラーにしたかったが、予算の都合で白黒にした。2030年の状況に設定したのは、過去のことばかり描くことに反感があり、南と北の未来を描くことにしたかったとのことだ。
監督の映像表現は抑制的で、小綺麗な学校の描写や、生徒の素直な言動など、監督が生まれ育った北に住む人たちへの愛情が感じられる。教員同士の友情が実を結ぶ未来は可能なのだろうか。
日本での上映の予定はまだないが、いずれ各地で自主上映されるはずなので、観る機会を見つけてほしい。
監督・脚本:ソク・ボムジン
2024年/ 韓国/ 1時間9分
(2025年04月03日 掲載)