クメール・ルージュ(ポル・ポト派)が主導権をとっていた民主カンプチア政権(三派連合政権)のもとで行われた大量虐殺を裁く特別法廷の判事や検事などの 就任宣誓式が、7月3日午後にプノンペンの王宮で行われ、カンボジア人17名、外国人10名が正式に司法官(予審判事、検事、判事)に就任し、7月10日 には、予審判事らによる被告訴追に向けた捜査が開始され、実質的に裁判が始まりました。
この特別法廷は、1970年代後半に自国民大虐殺を行ったクメール・ルージュ政権の幹部を裁くため、国連の技術的・資金的協力を得てカンボジア国内裁判所に設置された特別法廷で、3年間を目処に裁判が進行する予定です。
特別法廷は二審制で、2007年中盤には一審の公判が開始される予定ですが、一審裁判官(判事)はカンボジア人3人と外国人2人で審理が進められ、二審はカンボジア人4人、外国人3人で構成され、元東京地検検事の野口元郎さんは二審判事を務めます。カンボジア政府と国連が共同で運営するもののカンボジア政府側が過半数を握っており、どこまで積極的に裁判を行うか、国連側との今後の綱引きが注目されます。」
訴追対象者は、ポル・ポト元首相は98年に死亡しているため、政権ナンバー2だったヌオン・チア元人民代表議会議長(80(やナンバー3のイエン・サリ元 副首相(81)、タ・モック元軍参謀長・最高司令官(78)ら5-10人の元最高幹部らが大量虐殺の罪や人道に対する罪などで訴追されるとみられています が、現政府がこの裁判に消極的姿勢を示しているため裁判の進行は流動的です。現在、主要幹部で身柄が拘束されているのは、元軍最高司令官のタ・モック(7月12日に死去したとの情報もあります)、 多くの犠牲者を出したとされるトゥールスレーン刑務所の元所長ドゥックの2人のみであることからもわかりますが、フンセン首相をはじめ政権内部に多くの旧 クメール・ルージュ関係者がおり彼らへの訴追を避けたい意向があること、また旧幹部のヌオン・チャ、キュー・サムファン、イエン・サリらは既に現政権と司 法取引をおこない、恩赦を受けていることがあげられます。また特別法廷の判事にカンボジア軍事裁判所長官を選んでいることも消極姿勢のあらわれとして批判 されています。
なお、カンボジア政府はこの特別法廷のウェブサイトを開設しています。
出所:
・麻生外務大臣談話:カンボジア・クメール・ルージュ裁判の開始について (2006年7月3日)
・「クメールルージュ裁判の就任宣誓式」 カンボジアウォッチ(2006年7月3日)
・"Ta Mok in Coma and dying" Phnom Penh Post Volume 15 Issue 14, July 14 - 27, 2006 (英語)
・The Khmer Rouge Trial Task Force (英語)
参考:
・「KR裁判への関心」 カンボジアデイリー記事:カンボジアウォッチ編集部訳(2006年7月5日)
・イェール大学 Cambodian Genocide Program (英語)
・カンボジア特別法廷裁判官に野口氏が内定 ヒューライツ大阪・ニュースインブリーフ(06年4月)
・ポル・ポト派特別法廷設置に関する国連との合意文書をカンボジア下院が承認 ヒューライツ大阪・ニュースインブリーフ(03年10月)
・カンボジアの再生とポルポト裁判 (『国際人権ひろば』51号)
(2006年07月06日 掲載)