最 高裁判所は7月13日、投票所に行かずに投票用紙を郵送して投票する郵便投票制度が、身体障害者や戦傷病者などのうちの一部に限られており、精神的原因に よるなどの他の障害により投票所に行けない人が投票できないのは、立法不作為であるという訴えに対して、原告の訴えを棄却しました[PDF139KB]。
原告は精神発達遅滞、不安神経症などで、重度の療育手帳の交付を受けており、対人恐怖症の症状により投票所に行くことができず、選挙で投票することができなかったことを訴えていました。
最高裁判所は、身体的障害による投票困難者の在宅投票制度が廃止され、一定程度の身体障害、特定の戦傷病者を対象に郵便投票制度が導入されて以来、身体的 障害精神的原因による投票困難者に関する投票制度の拡充については2003年に公職選挙法改正で、一定の要介護状態である場合にも適用されることになった ことを述べ、一方、この訴訟が提起されるまで、精神的な原因による投票困難者については、国会でほとんど取り上げられていないことを指摘しました。
そのことも含め、最高裁判所は、精神的原因による投票困難者への制度の拡大が国会で取り上げられる契機があったと認められないとして、今後十分検討される べきであるとしながらも、立法措置の必要性が明白であるにもかかわらず、正当な理由なく長期にわたり立法措置を怠っていたとはいえないと判断しました。
一方、補足意見では、郵便投票制度を規定する公職選挙法49条2項が、対象を身体障害者など一部に限定しており、歩行、外出が困難な人一般を対象としていないことから、憲法の普通・平等選挙権の趣旨にかなうといえない面があると述べています。
1952年に在宅投票制度が廃止されるまで、疾病、負傷、身体障害、妊娠などにより歩行が著しく困難である場合は在宅投票が認められていましたが、制度の 悪用があったことから廃止された後、1974年、一定の身体的障害などについて、郵送による投票が認められるようになりました。同年、札幌地方裁判所は、 在宅投票制度の廃止が、障害などの理由で投票に行くことのできない人の選挙権を侵害し、平等の原則に反すると判断していました。
出所:最高裁判所第一小法廷7月13日判決 [PDF 139KB]
参考:日本弁護士連合会 投票の機会の保障を求める意見書-「ALS選挙権国家賠償請求訴訟」判決及び「引きこもり症状を持つ人の選挙権国家賠償請求訴訟」判決を受けて-(2003年3月21日)
(2006年07月09日 掲載)