06年10月9日、国連総会の第3委員会で、「女性に対するあらゆる形態の暴力」に関する事務総長報告(A/61/122/Add.1)が提出され、審議されました。 報告は、女性に対する暴力のあらゆる形態の統計、女性に対する暴力の原因、女性に対する暴力の中・長期的影響、経済的損失、女性に対する暴力根絶のための ベストプラクティスを含む調査を行うよう事務総長に求めた2003年の総会決議(58/185)に基づいて作成されました。
報告は、 女性に対する暴力が女性に対する差別の一形態として、さらには女性への人権の侵害として国連をはじめとする国際社会の注目が高まり、条約などがつくられて いるにもかかわらず、減少しておらず、その背景にはあらゆるレベルで必要な関心や資源を配分されていないことを示しています。
また、女性に対する暴力はあらゆる国、文化、人種、階級、宗教の境界を越えて存在し、その根源は父権主義、制度的な男性優位にあると指摘しています。世界 各地で女性が経験する暴力の形態は、女性の従属化が、民族、国家、宗教などの要因によって形づくられ現れたものです。また、暴力の発生を招きやすくするリ スク要因として、紛争解決において暴力が使用されることを社会的、政治的に認容していること、家庭内などの私的領域に対する国家の不介入を正当化する「私 的領域原則」をとっていること、国家の不作為、そのほか、社会的、経済的事情や過去の暴力の経験など個人や家族のレベルの要因などを挙げています。
暴力の形態としては、(1)家庭内暴力、パートナーからの暴力、女児の殺害、年少での結婚、家族などの「名誉」を守るために行われる殺人など女性に危害を 与える伝統や慣習のような家族の中で受ける暴力、(2)セクシュアル・ハラスメントや性犯罪、人身売買、強制売春など社会の中で受ける暴力、(3)刑務所 や拘置所など拘束中に受ける暴力、強制避妊、武力紛争における暴力など国家による暴力などがあげられています。
また、民族や人種、難民であることや年齢、婚姻の有無、障害、性的指向などによって受ける暴力の形態があることも指摘しています。
さらに、暴力を受けることにより、女性の健康や生計をたて社会に参画する能力に悪影響を及ぼし、子どもの健康や学習にも影響を与えます。また社会、国家に ついても生産性を低下させ、公共サービスの人的、財政的資源に負担を与え、重大な経済的影響を与えることを指摘しています。
報告は、国家に女性の暴力に関して、捜査し、加害者を訴追、処罰する責任があるほか、女性の事実的平等を実現し、人権を保障するための法的、政策的枠組み をつくる責任があるとして、各国で実施されている、グッドプラクティスや有望な事例を挙げています。さらに、最後にこの問題の根絶のために、国家に対し て、実効的、制度的で包括的なアプローチのために平等を実現し、女性の人権を保障する措置をとること、国際基準と国内法や政策の乖離を改善すること、女性 に対する暴力に関してデータ収集を行うこと、十分な財源、資源を配分することなど、国際社会に対してはより強い、一貫した、目に見えるリーダーシップをと るよう、総会や安全保障理事会を含む国連の機関に、この問題に関する規範、基準やコミットメントの実現に向けて行動することなどの勧告をあげています。
参照:
・"Annan calls for more political will to combat scourge of violence against women" 国連10月9日付プレスリリース (英語)
・"Violence Against Women not Confined to Specific Culture or Region, Third Committee Told as Debate Begins on Advancement of Women" 国連総会10月9日付プレスリリースGA/SHC/3850 (英語)
・国連事務総長報告 「女性に対するあらゆる形態の暴力に関する調査」 (英語)
・国連女性の地位向上部「女性に対するあらゆる形態の暴力に関する調査」関連資料 (英語)
(2006年10月06日 掲載)