06年12月11日からフィリピンのセブで開催が予定されていた「ASEAN(東南アジア諸国連合)サミット」および「ASEAN+3サミット(中国、日 本、韓国)」、「東アジアサミット」など一連の会合は、台風が開催地を直撃するかもしれないというフィリピン政府の判断に基づき直前で07年1月に延期と 決まりましたが、日本からは麻生外務大臣および安倍首相がフィリピンを訪問し、12月8日から9日にかけて日比関係や地域協力、北朝鮮問題などに関して同 国の首脳と会談しました。
外務省のプレスリリースに よると、12月8日にロムロ外務省長官と会談した麻生外相は、フィリピンに対する経済協力についての課題のなかで、「第26次円借款積み残し案件の署名の 段取りが整ったこと、第27次円借款の検討につき説明するとともに、左派活動家やジャーナリストに対するいわゆる『政治的殺害』への日本国内での非常に高 い関心を伝えた」としており、「ロムロ長官からは、フィリピン政府の実態解明への努力を説明」と報告しています。
また、別のプレスリリースに よると、12月9日にはアロヨ大統領と安倍首相による首脳会談が行われました。日比の経済協力の議題のなかでは、「アロヨ大統領より、日本はフィリピンへ の最大のODA供与国であり、非常に感謝している。第27次円借款の話もスタートしたことを喜んでいる。フィリピンは平和、民主主義の国であり、人権問題 も重視している。ODAとの関連で、『政治的殺害』を問題視する向きもあることは承知している。こうした問題については、法の支配の下、適切に対処してい く旨述べた。
これに対し、総理より、第27次円借款供与については、先般我が国政府ミッションを派遣しており、鋭意検討を進めたい旨述べるとともに、フィリピンの人権状況についての日本国内の強い関心を伝達した」という話が交わされました。
そのような会談を経て、12月9日に発表された日本フィリピン共同声明「親密な隣国間の包括的協力パートナーシップ」の経済協力の項目で「両首脳は、統治全般及び政府開発援助の実施に関し、調和の維持、民主的価値及び人権の擁護、並びに環境保全及び社会福祉の維持の重要性を強調した」という文言が盛り込まれました。
日本の首脳が他国の首脳に対して、その国の人権問題に関して直接明確に「関心」を伝えることは、内政干渉につながるなどの理由からあまりありません。
今回の発言の背景として、これまでヨーロッパの各国政府およびアムネスティ・インターナショナルや法律家など国際NGOによって、フィリピンでの政治的殺 害に対する懸念や真相解明、再発防止の要請行動が国際的に行われてきたこと、さらに日本のNGOも共同で署名活動を行ったり、国会議員に働きかけることに よって、11月に行われた参議院・外交防衛委員会や同・政府開発援助等に関する特別委員会でとりあげられたなどのいきさつがあったことが牽引力となったと 考えられます。
フィリピンの人権NGOのカラパタンは、2001年にアロヨ政権が誕生して以来、左派系組織に属する農民、学生、コミュニティ活動家、そしてジャーナリス トなどが700人以上も殺害されていると記録しています。一方、フィリピン政府は続発する殺害事件を調査する特別委員会(メロ委員会)を設けるなどして真 相解明を急いでいると説明しています。
参照:
・外務省のプレスリリース 日・フィリピン外相会談概要 (平成18年12月9日)
・別のプレスリリース 日フィリピン首脳会談(概要) (平成18年12月9日)
・日本フィリピン共同声明「親密な隣国間の包括的協力パートナーシップ」
参考:
・フィリピン人権弾圧
・"Japan pledges Manila loans, but raises human rights", ロイター12月9日付の記事(英語)
・真相解明の調査が進まないフィリピンの政治的殺害 ヒューライツ大阪ニュースインブリーフ(06年10月)
(2006年12月09日 掲載)