4月15日、最高裁判所は、刑務所長が弁護士に受刑者との接見を認めなかったことが違法にならないと判断しました。
広島刑務所にいる受刑者2名が、刑務所職員に暴行、名誉毀損を受けたと広島弁護士会が設置した人権擁護委員会に対して人権救済の申立てを行いました。委 員会は弁護士を調査員に選任し、調査を行いましたが、暴行や名誉毀損の被害状況を目撃したとされる受刑者に話を聞く必要があるとの判断で、調査の一環とし て接見を申し入れましたが、認められませんでした。
弁護士会は、刑務所長の接見拒否が弁護士法にあげられる、基本的人権の擁護活動の保護利益の侵害にあたり、違法であるなどと主張し、広島高裁は、接見を 認めることにより特に刑務所の規律・秩序に重大な障害が起こるおそれなどがあると言えず、受刑者の意向を確かめず、接見を認めなかったことは違法であると 判断していました。
最高裁は、接見に関して規定した旧監獄法45条2項は、接見が受刑者の重大な利益に関わる場合などに、刑務所内の規律・秩序確保に向けた措置をとる必要 との調整が求められると解釈されるとして、本件のように、接見申し入れの対象の受刑者の利益に直接関わらない場合、接見の申し入れ者の利益と刑務所内の規 律・秩序確保の必要との調整は要請されていないとして、刑務所長が弁護士の利益に配慮する義務はなかったとしました。また、人権擁護委員会には強制的な調 査の権限が付与されていないことも、刑務所長に申し入れを認める義務がない理由としてあげられました。
旧監獄法は06年に改正され、刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律となり、苦情申立て制度が整備され、刑事施設視察委員会の設置も決まっています。 今回の最高裁判決に付された補足意見ではしかし、この視察委員会が、個別の人権侵害事件について調査を行う機関ではなく、刑事施設の運営に関し意見を述べ る権限を有するにとどまることや、法務省の人権擁護局は刑務所と同じ所轄であり、刑務所内の人権侵害に対応することが必ずしも適切でないことを指摘し、弁 護士会の人権擁護委員会が刑務所内の人権侵害に対する唯一の外部の機関であることを認め、刑務所長の申し入れ拒否に違法性がある余地はないとしながら、人 権擁護委員会の調査活動に対して誠実で柔軟な対応が望まれるとしています。
07年5月に行われた、拷問禁止委員会の日本報告の審議を経て採択された委員会の最終見解にも、「刑事施設視察委員会が、拷問又は不 当な取扱いにあたる行為の事件又はその申立てを調査する権限を持っていないこと」や不服申立て制度についても十分な救済措置になっていないことが懸念事項 としてあげられています。(2008年4月24日)
出所:
・4月15日最高裁判決
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20080415142414.pdf
・広島刑務所長による面会拒否に対する広島弁護士会国家賠償請求訴訟最高裁判決に関する会長声明(2008-04-15)(日弁連)
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/statement/080415.html
・拷問禁止委員会の最終見解(外務省)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/gomon/index.html
参考:
「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律の改正」ヒューライツ大阪・ニュースインブリーフ(06年6月)
https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section2/2006/06/post-128.html
(2008年04月11日 掲載)