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第19回国連人権理事会、スリランカ、シリアの人権状況、人権と環境に関する独立専門家について決議

 国連人権理事会は2月27日から3月23日、第19会期を開催しました。今会期には、シリアや内戦終結およびその後におけるスリランカの状況など各地の人権状況に関する決議などが採択1されたほか、性的指向、性別自認に関するパネルが開催されました。

シリアの人権状況

 反政府勢力と政府軍との抗争が続くシリアについて、人権理事会は2011年に4月、8月、12月と3回続けて特別会期を開催し、8月の第17回特別会期では、国際人権法の違反に関して事実や責任を特定するための調査委員会を設置していました。委員会は11月に、シリア政府に恣意的な殺害など生命の権利の侵害や拷問、非人道的な処遇などの重大な国際人道法、人権法の違反があったことや責任者の捜査、訴追などの勧告をあげる報告書を公表し、12月の第18回特別会期では、同国の人権状況に関する特別報告者を設置する決議を採択していました。今会期の決議(19/1)は、シリア当局による恣意的処刑や殺害、恣意的拘禁や拷問などの広範で組織的な人権侵害を強く非難し、政府に対して直ちに民間人に対する攻撃を停止し、国連その他の人道機関が支援物資を必要な地域に送ることができるようアクセスを認めることなどを求めています。

 スリランカにおける和解と説明責任の促進

 2009年、スリランカ政府は30年近く続いた内戦の終結を宣言しましたが、内戦の終局段階において、戦争犯罪など人道法および人権法の違反があったということが2011年3月、国連事務総長の専門家パネルによって報告されていました2。報告は政府軍側による民間人への砲撃、人道支援の拒否などがあったこと、反政府側が民間人を「盾」として利用したことなどをあげ、スリランカ政府に捜査を行い、説明責任を果たすよう勧告していました。この報告はスリランカ政府に提示された後、9月に人権理事会に提出されました。同国政府は提示された報告に対して何の回答もしませんでしたが、人権理事会への提出を非難していました3
 一方、同国政府は2010年国内で教訓および和解に関する委員会を設置し、内戦中の状況、再発防止の措置、被害を受けた人びとの回復の方法などについて紛争地での公聴会や聞き取りを行い、2011年12月に報告を提出しました4。報告は、戦闘中の民間人の死亡や強制失踪、医療や支援物資へのアクセスの制限などについて報告していますが、政府当局および軍が十分な配慮を行っていたとして、責任を特定することはしませんでしたが、やむを得ないとしても死亡した人、被害を受けた人がいることについて、調査を行い、被害者に対する救済措置をとるよう勧告していました。また、強制失踪について、特別調査官を任命し、捜査を行えるよう制度を整備すること、当局により拘束されている人について、国際基準に則った手続の処遇、女性、子ども、高齢者、障害のある人などに対する支援や非難していた人の帰還の支援、土地の回復などのほか、和解に向けて、タミル、ムスリムの人びとの苦情に対処する機関の設立、開発事業への現地の人びとの参加、言語や文化、教育政策や地方分権などの勧告も含まれていました。この報告に対しては、アムネスティ・インターナショナル5やヒューマンライツウォッチ6が、戦争犯罪や人権侵害について責任を明確にしていないなど批判しています。
 人権理事会の決議(19/2)は、この委員会の報告の勧告を歓迎し、スリランカ政府にこれらの勧告を実施するよう求め、それらを実施するために取った措置をできるだけ早く理事会に伝えるよう促しています。

環境と人権に関する独立専門家

 国連持続可能な発展に関する国際会議(リオ+20)が6月に開催されることも踏まえ、人権理事会は環境と人権に関する独立専門家を3年間の任期で任命することを決めました((19/10)。専門家は、国連機関、他の政府間機関、国家、市民社会団体と協議の上、安全、清潔、健康で持続可能な環境を享受することに関連する非差別も含む、人権に関わる義務について調査し、ベスト・プラクティスをまとめるために、環境政策に関して人権に関わるベスト・プラクティスを特定、促進し、リオ+20会議の成果を考慮し、そのフォローアップの人権の側面に貢献するという任務を負います。

性的指向と性別自認に関するパネル

 3月7日、人権理事会は性的指向と性別自認に関するパネルを開催しました7。このパネルは2011年5月に開催された、第17会期で採択された決議に基づいて行われたものです。また今会期に先立ち、2011年12月に同じ決議に基づいて、人権高等弁館事務所による性的指向および性別自認に基づいて差別する法、慣行や暴力に関する報告が公表され、19会期に提出されました8。これには同性愛やトランスジェンダーの人に対する暴力が世界各地で起こっていること、同性愛など性的指向や性別自認に基づいて人を「犯罪者」とする法律が76カ国にあること、5カ国では死刑が適用され得ること、その他にも雇用、医療、教育などさまざまな分野で差別的な法律や慣行があることなどが報告されています。また、殺害や他の暴力について捜査、加害者の責任追及を行うこと、性的指向や性別自認に基づく迫害を逃れて来た人をその生命や自由が脅かされる地域に送り返さないことを確保すること、性的指向、性別自認によって犯罪者とする法律を廃止すること、性的指向、性別自認に基づいて差別的な法律を廃止することなどの勧告もあげています。
 パネル討議ではイスラム諸国会議機構の国々などが退席し、一部の国からこの問題を取りあげることは特定の文化的価値の押しつけにつながる、国際法上の根拠がないと主張されました。一方、他国からは、この問題は新しい権利をつくることではなく、既存の平等、非差別の原則に基づくことや性的指向や性別自認に基づく暴力や差別に対する懸念が表明されました。また、数カ国の国内人権機関は共同で、これら暴力や差別は各国が批准している人権諸条約の違反に当たるという声明が出されました。

 この他にも、パレスチナ被占領地におけるパレスチナ人の人権に対するイスラエル入植地区の影響について調査する国際的な使節団を派遣すること(19/17)や、ミャンマー(19/21)、北朝鮮(19/13)、イラン(19/12)、コンゴ民主共和国(19/27)などの人権状況について、障害のある人の政治への十分で実効的な参加の確保について(19/11)、平和的な抗議行動における人権の保護について(19/35)などが決議されました。(4月12日)

注:

1. 第19回会期決議(OHCHR)http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/RegularSessions/Session19/Pages/ResDecStat.aspx
2.  Panel of experts finds credible reports of war crimes during Sri Lanka conflict – UN News Centre April 25, 2011 http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=38187&Cr=Sri+Lanka&Cr1=
3.  UN move on war crimes report angers Sri Lanka (2011年9月13日BBC ) http://www.bbc.co.uk/news/world-south-asia-14889580
4.  LLRC report tabled in Parliament, Newsline Friday, December 16, 2011 (The Official Site of the Government of Sri Lanka) http://www.priu.gov.lk/news_update/Current_Affairs/ca201112/20111216llrc_report_tabled_parliament.htm
5. Sri Lanka Report Falls Short, Amnesty International Press Release, December 16, 2011, http://www.amnesty.org/en/for-media/press-releases/sri-lanka-report-falls-short-2011-12-16
6.  Sri Lanka: Report Fails to Advance Accountability, Human Rights Watch News, December 16, 2011 http://www.hrw.org/news/2011/12/16/sri-lanka-report-fails-advance-accountability
7. Human Rights Council holds panel discussion on discrimination and violence based on sexual orientation and gender identity, OHCHR Press Release March 7, 2011 http://www.ohchr.org/en/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=11920&LangID=E
8. UN issues first report on human rights of gay and lesbian people, UN News Centre December 15, 2011 http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=40743#

参考:
「第17回国連人権理事会、子どもの権利条約の通報制度に関する選択議定書など採択」ヒューライツ大阪ニュースインブリーフ(2011年7月)https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section1/2011/07/17.html

(2012年04月13日 掲載)