ILO(国際労働機関)の第101回総会が5月30日から6月14日まで開催され、若者の雇用、ミャンマーに対する制裁の解除などを決議し、最低限の社会的保護に関する勧告を採択しました。
若者の雇用について、総会に向けて世界的に深刻な若者の雇用危機に関する報告が公表され、審議後総会の加盟国に行動を呼びかける決議が採択されました。報告には現在の不況がこれまでの不況と比べても深刻であり、若者にとって、職を見つけるのが難しいだけでなく、雇用市場から遠ざかることで、将来の雇用可能性が悪化するかもしれないこと、また就くことのできる良質の職が少なくなることなどから、この問題が一過性ではなく、対応されなければ、構造的な問題になり得ると指摘しています。報告によると、若者(15歳から24歳)の労働参加率は2000年から2011年に52.9%から48.7%に低下し、2011年の失業者の10人のうち4人は若者でした。経済不況のもっとも深刻だった2008年から2009年の間、EUを含む先進諸国では若者の失業率は4.1%増加し、スペインとギリシャでは、2012年にはそれぞれ46%と42%にまで悪化しています。また、職に就いていても、低賃金、待遇の悪さなど貧困につながりやすいこと、短期や有期雇用で働く若者が多く、それが必ずしも継続的な雇用につながらないこともあげられています。さらに、多くの国で若者の雇用に対する政策が重要視されたとして、いくつかのとられてきた政策をあげています。そのなかには、一般的な経済政策の中で、若者の雇用を特に対象とした介入を行う、若者に特に焦点を当てた財政政策、教育や研修、若者の社会保障などが含まれます。
総会に先立って5月には、NGO、労働組合や起業家の若者が集まる、「若者の雇用フォーラム」が開催されました。その参加者の代表が、総会での議論にも加わり、フォーラムで、職の創設、教育・研修、求職や良質の職への転職、権利、起業や社会的企業、参加などについて議論し、特に、よい職への移行を促進する教育や研修制度の役割について注目が集まっていたこと、若者の政策策定への参加の必要などがあげられたことなどが報告されました。
決議は、2007年よりも400万人多い、7,500万人の若者に職がなく、2億人以上の若者が一日に2米ドル以下の賃金しか得ていないなどの事態に対して直ちに積極的な行動がとられなければならいないとして、各国政府、国際機関、労使団体などに対して早急に行動をとるよう呼びかけています。また、その際の指針として、各国の状況に応じた、多岐に渡りながら、一貫した政策をとること、政策の開発における労使の関与を促進すること、政府、労使、教育機関、コミュニティや若者を含むマルチ・ステークホルダー・パートナーシップをつくることなどをあげ、雇用政策、教育や教育機関から労働への移行、若者の起業などに関して、政府が配慮すべきことなどをあげています。
ILOは2000年、ミャンマーにおける強制労働に対応するための勧告が実施されていないとして、強制労働を対象とするものを除く技術協力を停止し、その後も強制労働を訴える人に対する迫害があるとして、加盟国に対して同国との投資を含めた関係を見直すよう呼びかけも行われていました。総会において、同国の民主化の進展に対し「慎重な楽観的」な評価ができるとされ、総会は、技術協力の再開と、加盟国への関係見直しの呼びかけを1年停止することに合意しました。これによって、各国のミャンマーとの関係回復への道が開かれました。
ILOの採択する勧告には、条約に伴い、条約の適用の指針となるものと、特定の条約と結びつかない、単独の勧告がありますが、今回の総会では、単独の勧告としては68年ぶりとなる最低限の社会的保護(Social Protection Floor)に関する勧告が採択されました。ILOは、世界の人口の70から80%の人が包括的な社会保障にアクセスしていないことをあげ、社会保障が貧困、不平等や排除を縮小し、防止する重要な手段であり、人びとに経済や労働市場における変化に対応できる力をもたらすとしています。
勧告は、最低限の社会的保護を貧困、脆弱性や社会的排除の緩和に向けた国内で規定される一連の基本的な社会保障として、加盟国に、人びとがその生涯を通して必要な医療、基本的な所得保障を最低限確保する最低限の社会的保護を早急に設置するよう求めています。基本的な所得保障には、子どもの栄養や教育などへのアクセス、特に病気、失業、出産や障害などにより十分な所得を得ることのできない人や高齢者などの少なくとも最低限の所得保障を含むものとしています。(6月20日)
出所:
ILO lifts restrictions on Myanmar, News, 13 June 2012 (ILO) http://www.ilo.org/global/about-the-ilo/press-and-media-centre/news/WCMS_183287/lang--en/index.htm
Report V: The Youth Employment Crisis: Time for Action (ILO) http://www.ilo.org/ilc/ILCSessions/101stSession/reports/reports-submitted/WCMS_175421/lang--en/index.htm
Report of the Committee on Youth Employment (ILO) http://www.ilo.org/ilc/ILCSessions/101stSession/reports/committee-reports/WCMS_182840/lang--en/index.htm
Text of the Recommendation concerning national floors of social protection (ILO) http://www.ilo.org/ilc/ILCSessions/101stSession/reports/provisional-records/WCMS_183326/lang--en/index.htm
参考:
「第294回ILO理事会がミャンマーに強制労働状況の改善を求める」ヒューライツ大阪ニュースインブリーフ(2005年11月)https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section2/2005/11/294ilo-113-18294ilo6iloiloiloilo.html
(2012年06月22日 掲載)