企業のグローバル活動が増大する中で、CSR(企業の社会的責任)が一層強く求められ、国連グローバル・コンパクト、ISO26000をはじめ、CSRにかかわる様々な国際規範が作られています。海外進出企業が多い韓国、日本の企業においてもCSRに対する認識が深まり、こうした規範に合った企業活動を推進しようとする努力がなされています。その一方、海外進出にあたって人権の分野で問題が発生している事例は少なくありません。韓国のKBS放送が、そうした現状を進出側の国内メディアが積極的に報道しないことについて、韓国を代表する製鉄大手であるポスコ(POSCO)のインド・プロジェクトなどを取りあげ、問題提起しました。
2013年3月29日のKBSの報道によると、ポスコの3月のソウルでの株主総会に合わせ、インドからの人権活動家が韓国の市民団体とともに、本社ビル前でポスコに対し人権侵害をやめるようアピールしました。市民団体は、事前に関連団体や記者など300人余りに記者会見の案内をしましたが、参加は数えるほどで、2社のみ翌日の新聞に記事掲載したといいます。
ポスコは、インドのオディシャ州で2005年から120兆ウォン(日本円で約1兆500億円)という製鉄所、発電所、港湾建設などの巨大プロジェクトを進めてきました。その過程で、州政府が敷地確保のために住民に強制立退きを迫り、それに対する抗議運動が続いています。コミュニティ内の対立も激化し、2013年3月初めに起きた爆弾事件でプロジェクト反対派の活動家が亡くなっています。またポスコは、東部オディシャ州パラディープでも、最終的に1200万トン規模となる製鉄所建設事業を進めていましたが、400を超える家族が立ち退きを強いられたことから、2012年4月インド国家人権委員会による現地訪問を受けました。すでに多くの家族が一時滞在キャンプへ移り住んでいますが、土地の買い取られたことによる廃業への補償や土地喪失者の雇用など住民の要求は未だ果たされていません。
インド国内では2005年のプロジェクト開始以降、メディアがずっとこの問題をとりあげ、相当な数の記事が掲載されています。国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルも複数回にわたり、ポスコのプロジェクトをめぐる人権侵害について緊急行動を呼びかけてきました。しかし韓国のメディアは、これまでほとんどこの問題を扱ってこず、財政的な余裕のない市民団体が現地の実状を調査し、情報を発信してきたのです。
ニュースの結論では、「韓国の企業が国際規範にふさわしい社会的責任を果たせるよう、メディアが健全な監視と批判の機能を遂行するとき、企業もメディアももう一段階、飛躍できるのだ」と述べられています。
なお、オディシャ州の事件では、インド、韓国、オランダ、ノルウェーの市民団体らにより、韓国、オランダ、ノルウェーのOECD国内連絡窓口(国際規範のひとつであるOECD多国籍企業行動指針の普及や問題解決支援のために政府に設置される組織)に申立が行われています。というのも、ポスコに融資していたのはオランダの年金基金ABPとノルウェー政府年金基金であったからです。市民団体らは、第一にポスコを名宛人として人権規定を含むOECD多国籍企業行動指針違反についての申立を行い、その申立書のなかでポスコに加え、二つの基金の名前を挙げて要請を行っています。
<出所> KBS 2013月3月29日付ニュース(韓国語)
<参考>
ハンギョレ・サランバン(日本語)「ポスコ インド製鉄所、社会的責任基準違反(2012年10月9日)
http://blog.livedoor.jp/hangyoreh/archives/1670132.html#more
ハンギョレ(韓国語)「世界的な金融企業もポスコのインド・プロジェクトを監視するだろう」(2013年4月11日)
http://www.hani.co.kr/arti/economy/economy_general/582382.html
OECD Watch(英語)「市民団体らが、インドにおける環境および人権の懸念のため韓国鉄鋼大手ポスコおよび年金基金に対するOECD指針の申立を行う」(2012年10月9日)
(2013年04月16日 掲載)