2014年3月3日から28日まで開催されている第25回国連人権理事会に、「対外債務その他関連の国際的金融債務があらゆる人権、特に経済的、社会的及び文化的な権利の十全な享受に及ぼす影響に関する国連の独立専門家」のセファス・ルミナさんの2013年7月に行われた日本の公式訪問の報告が提出されています。ルミナ専門家は、7月16日から19日まで日本を訪れ、日本の開発協力に関わる省庁、国際協力機構(JICA)をはじめとする機関や市民団体に会い、調査を行いました。
報告は、日本の国際開発協力について、対象国が自立するための能力を拡大し、人びとが恐怖と欠乏から解放されることを確保することに重点をおいており、称賛に値すると述べ、さらに人権に基盤をおくアプローチをとることによって強化することを勧告しています。報告によると、2003年の改定ODA大綱の目的は「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資すること」であり、特に「人間の安全保障」の視点が念頭におかれ、それが国連の三本の柱である平和と安全、開発、人権の尊重に通じているとしています。
2012年の日本のODAの大部分は二国間援助であり、そのうち53.3%が円借款と借款比率が比較的高いことが指摘されています。また、71.0%が「ヒモ付き」ではないアンタイドで、OECD開発援助委員会の勧告を満たしていますが、援助の大きな部分が日本のビジネスの利害がある国のインフラ事業に向けられ、OECDから、開発の第一の目的に優先するおそれがあると警告されていることも指摘されています。
一方、日本貿易保険(NEXI)と国際協力銀行(JBIC)が関係する、フィリピン・コーラルベイ・ニッケル製錬事業、タガニート製錬事業、サンロケ多目的ダムプロジェクト、バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)石油パイプラインやパプア・ニューギニア液化天然ガス事業において環境や人権に危害を及ぼすおそれがあるといわれていること、両機関とも環境社会配慮ガイドラインがあるものの、実施のための実効的な制度はないとしています。
さらに、日本のODAが全体としてどれだけ対象国の人権の実現に影響を与えているかについて、貧困削減、災害防止など社会的、経済的および文化的権利に貢献していると言える一方、公務員の人権研修など具体的に人権を強化する目的を持つ政策や事業があまりないと述べています。またジェンダーと開発の分野の協力の割合は拡大しているが、OECD開発委員会の平均よりも低く、国連人権高等弁務官事務所、ユニセフやUNウィメンなど人権に関わる国連の機関に対する拠出も削減されていると報告されています。
報告の最後に、人権を開発協力政策の中心に据え、人権を基盤としたアプローチをとること、そのために企画、実施、監視や評価に人権の原則を取入れ、実施のガイドラインをつくり、開発協力の担当官に人権研修を行うこと、日本からの投資促進の取組が対外債務と人権に関する指導原則、人権とビジネスに関する指導原則、国際労働基準などの国際人権基準にそうよう確保すること、JICA、NEXIやJBICなどについて、環境と並んで人権影響アセスメントや影響を受ける人や共同体の自由で積極的な参加によってアカウンタビリティー(説明責任)の制度や環境社会配慮政策を強化すること、環境社会配慮政策がビジネスと人権の指導原則にそうようにすることなどの勧告があげられています。
3月11日、人権理事会において、各国代表とルミナ専門家との対話が行われました。そのなかで日本政府代表は、日本の開発協力における人権に関する政策が今回の報告に十分反映されていないとコメントしながらも、今後も改善に取りくみ、専門家の勧告を参照し、途上国の対外債務の問題についても引き続き対応していくと述べました。(3月12日)
出所:
「Report of the Independent Expert on the effects of foreign debt and other related international financial obligations of States on the full enjoyment of human rights, particularly economic, social and cultural rights Addendum - Mission to Japan (A/HRC/25/50/Add.2)」25th session of the Human Rights Council: Reports http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/HRC/RegularSessions/Session25/Pages/ListReports.aspx
「Council Holds Interactive Dialogue with Independent Experts on Human Rights and the Environment and on Foreign Debt」UNOG Press Release 11 March 2014 http://www.unog.ch/unog/website/news_media.nsf/%28httpNewsByYear_en%29/2ECE746ADDCC73E5C1257C9800539EA2?OpenDocument
参考:
「対外債務に関する国連独立専門家が日本を公式訪問(7月16日~19日)」ヒューライツ大阪ニュースインブリーフ(2013年7月)https://www.hurights.or.jp/archives/newsinbrief-ja/section3/2013/07/71619.html
(2014年03月13日 掲載)