ジュネーブの国連事務所で8月20日から始まった国連人種差別撤廃委員会(CERD)による第7・8・9回日本政府報告書の2日目の審査が21日午前10時から午後1時まで行われました。
審査は、前日に各委員から出されていた質問に対する日本政府の回答から始まり、日本政府代表団をとりまとめる河野大使が、ヘイトスピーチと、沖縄、人身取引対策、技能実習制度、「慰安婦」問題、未批准の条約に関することなどについて日本政府の見解を述べました。いずれの課題に関しても、従来からの政府の見解や姿勢と同内容で、改善が期待できそうな回答はありませんでした。それに続き、各委員から日本政府への質問や懸念が相次ぎましたが、両者の見解はほとんどかみ合いませんでした。
委員と日本政府代表団とのやりとりを通じ、2010年の第3〜6回政府報告の審査を終えて委員会が出した数々の勧告について、今回の政府報告でほとんど言及されていないこと、そして日本政府の考える人権保障と国際人権基準とが大きく乖離していることがあらためて浮き彫りとなりました。
審査の最後に、日本審査の主担当であるケマル委員は、次のような所感を述べました。
第85会期人種差別撤廃委員会は8月29日まで開催されますが、日本に対する総括所見は最終日の29日に出されるもようです。
以下は、河野大使の報告の概要と背景に関する内容です。
20日の審査では大半の委員が、異口同音にヘイトスピーチに対する日本政府の取り組みの欠如についての質問や懸念が述べられていましたが、人種差別撤廃条約の第4条(a )(b) 項の概念は、表現の自由を制約する可能性から憲法が保障する権利に抵触する可能性があるとして、従来からの留保の姿勢を崩しませんでした。
そのうえで、河野大使は、「留保を撤回し,刑罰を付す立法措置をとるまでの状況に至っておらず、慎重に検討する」と述べました。
警察はヘイトデモをまるで護衛している一方で、抗議するカウンター行動に対する弾圧が行われているのではないかという前日の質問を受けて、「警察は違法行為は看過してはおらず、公正中立に対処している。カウンターのスピーチを阻害するのもではない」と明言しました。
「沖縄県にいる人,および出身者は、特別な生物学的特徴を持っているわけではなく,人種差別の対象に該当しない」との見解が改めて述べられました。一方、自己の文化を持ち,言語を使用する権利は否定しておらず、特色豊かな文化や伝統に敬意を払い、法律でで保存,振興を図っている。したがって、日本国民としてのすべての権利は保障されていると述べました。1972年の復帰から,法に基づき振興策を採った結果、本土との格差は縮小し。産業も発展している、と述べました。
賃金未払いや長時間労働という問題があり、6月に閣議決定された文書で、国際貢献という目的を徹底するため、抜本的見直しをすることとしている、制度の適正化として、関係省庁の連携による管理体制の確立、送出国との連携など管理監督のあり方を2014年末までに見直し、2015年に新制度に移行させる,と述べました。
大使は次のように述べました。「慰安婦」は人種差別撤廃条約第1条にいう「人種差別」には当たらない。一部の委員が「性奴隷」と表現したが、日本政府としてはその文言は不適切だと考えている。「慰安婦」問題は法的に解決している。しかし、国民的議論の結果、アジア女性基金を作った。1人200万円の償い金を被害者に支払い、医療援助などもした。強制的な連行があったかについて、調査結果としては軍や官憲が直接強制したという記録はなかった。
<参照>
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinshu/pdfs/saishu3-6.pdf (外務省)第3回~第6回政府報告に関する人種差別撤廃委員会の最終見解 2010年4月6日
「Committee on the Elimination of Racial Discrimination considers report of Japan」8月21日付 OHCHR プレスリリース
http://www.ohchr.org/EN/NewsEvents/Pages/DisplayNews.aspx?NewsID=14957&LangID=E
(ジュネーブ・藤本伸樹)
(2014年08月22日 掲載)