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日本への渡航をめざすフィリピンのJFC母子~JFCネットワーク・スタディツアーに参加して(part1)
JFC母子の人身取引に焦点をあてたツアー
日本人の父親とフィリピン人の母親の間に生まれ、遺棄されるなどして父親との関係が途絶えたままフィリピンで母親と暮らすJFC(ジャパニーズ・フィリピノ・チルドレン)が多く存在します。そうしたなか、東京に事務局を置く(特活)JFCネットワークが1994年以来、日本の父親捜し、子どもの認知・養育費請求、日本国籍取得のための法的支援、生活・教育支援などの活動に取り組んでいますが、2015年7月31日から8月5日の日程でスタディツアーを開催しました。スタディツアーは毎年実施されていますが、今回は、改正国籍法が施行された2009年1月以来、JFC母子の渡日および就労を斡旋する仲介業者などによる搾取のケースが顕在化してきた事態を受けて、「JFCと日本国籍、就労と人権を考える」をテーマに企画されたものでした。すなわち、JFC母子の人身取引の問題が焦点化された内容でした。ツアーに筆者が参加しました。3回に分けて、その概要とツアーを通して見えてきた課題を報告します。
仲介団体に依存せざるを得ないJFC母子
日本からツアーに参加したのは16人で、大半がNGOスタッフや弁護士としてJFC母子をはじめとする日本での人身取引の問題に取り組んでいる人たちでした。
ツアーの最初のプログラムは、8月1日にフィリピン南部のミンダナオ島のダバオ市にあるカトリック教会施設で開かれたワークショップへの参加でした。教会組織が運営するダバオ海外労働者センター(COW)がJFC母子を対象に開催したものです。COW は同地域のJFC母子から相談を受け付けて、JFCネットワークにケースの詳細を送るなどの支援を行っています。
COWのシスターによると、近年JFCを連れて来日就労を望む母親が多くなったといいます。今回の日本からのツアーが訪問する機会をとらえて、母親たちに移住プロセスや来日後に起きる問題を伝え、冷静に考えてもらうためにワークショップを企画したといいいます。COWへの相談者たちに声をかけたところ、すぐさま母親44人、JFC11人が参加を希望してきたそうです。
JFCの母親たちの多くは、日本のパブでかつて「エンターテイナー」として働いていた女性たちです。子どもたちの国籍は、フィリピン国籍の子もいれば、日本との重国籍の子もいます。共通するのは、日本の父親に会うために、あるいは日本で教育を受けるために、日本への渡航に関心を持っていることです。とりわけ、貧困に直面するシングルマザーである母親たちにとって、日本での就労はさらに切実な願いとなっているようです。
ワークショップでは、まず地元の社会福祉開発省(DSWD)の担当官がダバオ周辺の女性と子どもの人身取引の被害状況を解説しました。それから、JFC母子の渡日の問題に焦点をあて、日本におけるJFC母子をめぐる人身取引につながる搾取や子どもの教育上の困難、法的側面について、ツアーの参加者が代わる代わる情報提供し、「不安全な渡航」に警鐘を鳴らしました。筆者も事例報告を行いました。
女性たちは日本でのリスクに耳を傾けました。その一方で、子どもを連れて渡日したいという気持ちには変わりない様子でした。ダバオやマニラの仲介団体を通じて日本での就労先がすでに「内定」している女性もいました。たとえば、介護職として額面給与は月額17万円、手取りが10万円という条件を提示されているという母親がいました。しかし、7万円もの控除(天引き)の内訳は明確に知らされていませんでした。日本の中学3年生にあたる15歳の日本国籍の娘を連れて来日する予定ですが、その子は滞日歴がないため日本語を全く理解していません。
仲介団体による搾取の事例を報道やJFC母子から伝え聞いている日本からの参加者たちにとって、天引きされる7万円の内訳および妥当性がとても気がかりでした。日本に行けば子どもは2016年春に高校受験を控えています。しかし、教育に関する情報はなく、進学の見通しもたっていませんでした。それでも日本に行きたいと女性は話しました。そこには、日本人の父親との接点がなくなったJFCとその母親たちにとって、日本で身元保証人を引受けてくれたり、仕事を紹介してくれる知人がいないことから、仲介団体に依存する以外に方法がないという背景があります。(藤本伸樹)