韓国国家人権委員会はヘイトスピーチ(国家人権委員会は「嫌悪表現」と表記)の韓国内の実態と規制の在り方について研究者グループに委託して調査を行い、2017年2月20日にその結果を報告書にまとめてサイトに公表しました。韓国社会でマイノリティに対するヘイトスピーチが2010年あたりから、大きな問題になっており、とりわけネット上でのヘイトスピーチが深刻であるといわれています。以下、報告書の概要を紹介します。
国家人権委員会は、この調査で、ヘイトスピーチを「ある個人・集団に対して、社会的マイノリティとしての属性を持つというだけで、差別・嫌悪したり、差別・敵意・暴力を扇動する表現」と定義しています。また、主な攻撃の標的になっている、女性、性的マイノリティ、障害者、移住民の4つのグループに分類しました。調査方法として、アンケート、インタビュー、そしてネット上のヘイトスピーチについて調査分析を行いました。アンケートとインタビューでは当事者と当事者ではない両方の意見を聞き、1,014件のヘイトスピーチの事例を収集・分析しました。
調査の結果から、被害を受けたマイノリティの人たちが、スティグマや偏見によって日常生活で排除されたり、不安や悲しみのために緊張や無気力が続いたり、自尊感情が傷つけられることによる様々な精神的な症状に苦しめられていることがわかりました。
この調査は韓国内の実態の分析だけではなく、規制の在り方を提案するために、ヘイトスピーチの規制に関する国連やEUなどの国際的な基準、また日本、米国、ドイツなど各国の判決、法制定、実際の規制の状況について検討しています。さらに、報告書は、実態調査の結果をもとに、ヘイトスピーチを規制しなければならないという結論を出していますが、ただ禁止し処罰するだけではない、教育的な措置も含めた多様な「規制」の在り方を探っています。そして韓国の現行法では、ヘイトスピーチの一部分しか規制ができないとし、新たな法律の必要性を指摘しています。同時に、法的規制がもつ限界にも言及して、市民社会がこれに対応する能力を持つことが根本的な解決につながると強調しています。
出典:「人権委、ヘイトスピーチ(嫌悪表現)の実態と規制の在り方の実態調査-女性、性的マイノリティ、障害者、移住民が主なターゲット、深刻な社会問題として規制が必要」
韓国国家人権委員会
報告書「ヘイトスピーチ(嫌悪表現)の実態と規制の在り方の研究」(国家人権委員会、2016年12月発行)※上記、サイトからPDFでダウンロード可
(2017年02月28日 掲載)