「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」の実施をモニターする同規約委員会(社会権規約委員会)は2017年2月20日から24日、第60会期を開催し、規約の実施に関する報告をまだ提出していない締約国との協議などを行ったほか、ビジネス活動の文脈における国家の義務に関する一般的討議を行いました。
社会権規約委員会などの人権条約の監視機関は、条約の権利の課題について、締約国や市民社会、専門家、国際機関が話し合う一般的討議の日を設け、その協議を反映して規約・条約の解釈などを示す一般的意見をつくります。今回も、委員会が出していた一般的意見の草案をもとに協議が進められました。この問題について、社会権規約委員会はすでに2011年に、ビジネス分野と経済的、社会的及び文化的権利に関する国家の義務に関してステートメントを採択しています。
一般的意見の草案では、規約上の権利を尊重、保護、充足する第一義的義務は締約国にあり、その義務は、締約国が影響を及ぼし得る企業の活動について、国内だけでなく域外にも及ぶ、と述べています。また企業の行動であっても、企業が締約国の指示に従って行動している場合、その管理下にある場合、または政府の権限の行使に関わる場合、企業の行動は締約国の直接責任になり得るとしています。
また、企業による規約上の権利の侵害を防止する措置をとらないことも規約の違反となり得ます。さらに、権利を保護する締約国の義務に基づいて、企業のための明確な人権基準を確立し、企業が権利の享有を妨げないようデュー・ディリジェンスを実行することを求める法制度をつくるべきだとも述べています。特に投資および知的財産の分野において、投資や貿易協定が健康の権利に必要な医薬品へのアクセスを制限しない、食料の権利に必要な種などの資源へのアクセスを確保する、など、権利が侵害されないようにこれら協定や国内制度がつくられなければならないとしています。
一方、民営化によって支払い能力が欠如することで、規約上の権利の享有が妨げられないよう確保しなければならないことも指摘されています。
さらに、人権侵害の被害者が救済を得られるようにすること、企業の説明責任を確保する適切な手段を提供すること、という締約国の義務については、特に国境を越えた権利侵害の被害者の救済手段が困難であることから、国内の手続法上や実務上の障害を取り除くべきことなどを挙げています。
一般的討議では、スイス、米国などから草案が「国連ビジネスと人権に関する指導原則」から離れているなどの批判が出された一方、他の政府、NGOなどからは草案を支持する意見やさらに取り入れるべき課題などが出されました。また、草案に対して政府、国内人権機関やNGOなどから書面でも意見が出されています。社会権規約委員会はこれらを踏まえ、一般的意見を確定する予定です。
(構成:岡田仁子)
(参考)
(2017年03月23日 掲載)