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国連人権高等弁務官事務所が「ビジネスと人権に関する指導原則」の解釈について回答~銀行の人権デュー・ディリジェンスをめぐって

 世界の主要銀行が集まるグループであるトゥン・グループ(注)が、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に関するディスカッションペーパーを2017年1月に公表しましたが、その内容については多くの批判が出されていました。
 同ペーパーは、「指導原則」の原則13b(「たとえその影響を助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める」)と、原則17(「人権への負の影響を特定し、防止し、軽減し、そしてどのように対処するかということに責任をもつために、企業は人権デュー・ディリジェンスを実行すべきである」)に関して、グループの考え方を提示しました。
 トゥン・グループは、そのなかで、人権に負の影響を及ぼす、または助長することに関して銀行に責任が発生するのは自らの雇用関係に限定され、また、製品、サービスなどを通して取引先が引き起こした人権への負の影響については、その直接の責任は取引先にあり、「指導原則」が求める人権侵害からの救済へのアクセスの確保は銀行には当てはまらない、としていました。
 2017年2月には、「国連ビジネスと人権に関する作業部会」が、トゥン・グループに対し、そのペーパーの問題点を指摘する書簡を出しました。書簡は、銀行が自らの活動による人権侵害が雇用関係に限定されるということと、救済へのアクセスの確保を求める要請が銀行には当てはまらないとしていることに関して、懸念を表明しました。
 さらに6月には、同ペーパーについて、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、オランダの非営利団体であるバンクトラック(BankTrack)からの説明要請に応じるかたちで、「指導原則」の銀行部門への適用に関する解説を公表しました。
 OHCHRは、バンクトラックの質問に対する回答で以下のように解説しています。

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(OHCHRの回答)
自らの活動が人権への負の影響を「引き起こす」「助長する」場合
 自らの活動が人権に負の影響を「引き起こす」とは、自らの作為または不作為自体が、直接的に個人または集団の人権の享受を損なうことを意味します。人権侵害が銀行の行為または決定だけで引き起こされ、顧客や他の企業などが関わっていない場合が該当します。銀行の場合は雇用関係において生じることが最も多くなります。
 一方、人権への負の影響を「助長する」とは、顧客や他の団体など第三者の活動を通して行われるものであり、銀行の行為や決定が、顧客の行為・活動を通じ、人権への負の影響を引き起こす可能性をより高めることを意味します。例えば、明らかに強制立ち退きにつながるようなプロジェクトに対して、銀行がその人権侵害のリスクを知りながら、負の影響を防止、軽減する手段を取らずに融資することが該当します。

取引関係を通じて企業の事業、製品またはサービスと人権への負の影響が「結びつく」場合
 銀行が自ら人権侵害を引き起こし、または助長していない場合でも、自らの事業、製品やサービスを通じて人権侵害に「結びつく」ことがあります。銀行が融資した企業が、その融資を利用する中で人権に負の影響を及ぼす、あるいは及ぼす可能性があるような場合です。人権に負の影響を引き起こしている顧客に対して融資することは、その顧客と「取引関係」があることになりますが、「結びつき」はそれだけではなく、提供した融資、つまり製品・サービスが負の影響に直接的につながっていることを意味します。
 人権への負の影響を自ら「引き起こす」、「助長する」、または事業、製品、サービスが人権への負の影響と「結びつく」ことは、それぞれが別個にあるのではなく、ある種連続しています。例えば、銀行の事業に「結びつく」人権侵害について把握しているのに、その影響を防止、緩和する措置を取らずにいると、人権侵害の状況が継続してしまうことを「助長」しているとみなされ得ます。

是正措置の提供
 人権への負の影響が、製品、サービスなどと結びついている場合には、「指導原則」は負の影響を防止、軽減するための措置は求めていますが、是正措置(人権侵害の被害からの救済など)の提供までは求めていません。しかし、負の影響を自ら「引き起こした」、または「助長した」場合には、負の影響を防止、軽減するための措置に加え、「指導原則」の原則22(「企業は、負の影響を引き起こしたこと、または負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正の途を備えるか、それに協力すべきである」)に沿って、是正措置の提供または協力が求められます。このことは、それぞれの国内法で規定される人権侵害に関する法的責任とは区別されるものです。
 原則22は、銀行が必ず自ら直接に是正の仕組みを備えることまでは求めておらず、司法的メカニズムなど外部の制度を利用することもできるとしていますが、同時に、是正に「積極的に取り組む」ことも求めており、実際に救済が行われることを確保するために適切な措置をとるべきことが示唆されています。

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 2017年1月のディスカッションペーパーに対して出された上記OHCHRの回答を含む批判を受けて、6月19日に開催されたトゥン・グループの2017年次会合では、原則13の解釈についてさらに明らかにすることなどが合意されました。

(構成:岡田仁子)

<注> トゥン・グループ
「指導原則」の実施に関わる議論を行うために、イギリス、スペイン、スイス、オランダのメガバンク7行が集まったグループ。2011年にスイスのトゥンで会合を持ったためトゥン・グループと呼ばれる。2013年にもディスカッションペーパーを出している(ニュース・イン・ブリーフ「世界のメガバンクらが国連指導原則の解釈に関するディスカッションペーパーを発表」(2013年11月)参照)。

<参照>


 

(2017年08月31日 掲載)