障害者権利委員会による、障害のある女性と少女に関する総括議論 (2013年4月17日,ジュネーブ) で行われたシュルツ女性差別撤廃委員のスピーチです。
ジェンダーと障害の交差性
パトリシア・シュルツ(女性差別撤廃委員) 2013年4月17日
A. イントロダクション
女性差別撤廃条約は性、男性そして女性について言及しているが、交差性、ジェンダーまたは障害については言及していない。しかし、女性差別撤廃委員会の業務は絶えず後者の3つに関わっている。当条約は黙示的にジェンダーについて扱っており、男性と女性に対するステレオタイプや男性と女性の伝統的役割に関する第5条も含む。条約で明確に述べられていようがいまいが、当条約は全ての形態の差別から全ての女性を保護することを目的としているので、障害は黙示的に全ての条文に含まれている。当条約は女性のおかれた状況を男性のものと比較することに限定されてはおらず、特定の女性(または特定の女性の集団)が他の女性(または他の女性の集団)と比較して差別されている場合、その差別に立ち向かわなくてはならない。当条約は、農村の女性や妊娠している女性といった、差別を受けるリスクに直面する可能性のある特定の女性の集団について言及している。当委員会は、民族、人種、宗教、または性的マイノリティ、移住女性、高齢者の女性、少女、障害のある女性、貧しい女性等といった他の女性の集団の状況にも取り組んでいる。当委員会は様々な理由に基づく差別の交差と、その交差に特有の否定的な力を鋭く察知している。それゆえ、当委員会は分析の際に交差性の概念を用いている。
B. 一般勧告
女性差別撤廃委員会は、1991年に女性障害者に関する一般勧告18[訳注1]を採択した。当委員会は締約国が報告書によって提供した情報に欠落部分があることを残念に思い、「女性の特別な生活状況に結び付いた二重の差別」についての懸念を表明している。それゆえ、当委員会は「締約国が定期報告書において障害のある女性についての情報を提供すること、彼女らが教育や雇用、保健サービスや社会保障に対する平等なアクセスを有し、社会的・文化的生活の全てに参加することができるように確保する特別措置を含む、彼女らに特有の状況に対処する措置に関する情報を提供することを勧告する。」
女性差別撤廃条約は女性に対するDVを特に扱っていないが、委員会は女性に対する暴力に関する先駆的な一般勧告19(1992年)[訳注2]において、国家が何をすべきかについて詳細なガイダンスを作り上げた。この一般勧告は、障害のある女性や少女にも適用され、家族生活や結婚、性と生殖に関する健康と権利の文脈も含んでいる。
女性と保健に関する一般勧告24(1999年)[訳注3]において、委員会は3つのパラグラフで障害のある女性について取り上げた。パラグラフ25では、以下のように述べている。「障害のある女性は、あらゆる年齢層において、多くの場合、保健サービスを享受する物理的困難を抱えている。精神障害のある女性はとりわけ脆弱であるが、男女差別、暴力、貧困、武力紛争、混乱、及びその他の形態の社会的喪失の結果、女性が不均衡に影響を受けやすくなっている精神的健康に対するさまざまなリスクについての理解は、一般に限られたものである。締約国は、保健サービスが障害のある女性のニーズに敏感なものとなり、彼女らの人権と尊厳を尊重することを確保するための適当な措置を講ずるべきである」。
委員会は、性や他の根拠と結びついた差別に直面した多くの女性の集団の存在を認識している。そして、2010年の一般勧告28[訳注4]において、委員会は「締約国はそのような交差的形態の差別と、当該女性に対する複合的な否定的影響を法的に認識し、禁止しなければならない」と勧告した。
C. 総括所見・勧告と障害のある女性
委員会は、総括所見と勧告において、条約とその解釈に基づき、障害のある女性がおかれた状況を含む様々な状況における交差的差別の問題に対処するよう、締約国に対して要請している。障害のある女性は非常に頻繁に、高齢者の女性、先住民族の女性、民族、宗教、性的マイノリティに属する女性のような脆弱な集団の状況を取り扱う勧告に含まれている。つまり、障害のある女性は脆弱なカテゴリーのリストの中に含まれているのである。委員会は特に、そのようなリストに含まれるか含まれないかということに関して生じる問題を認識している。
D. 締約国に送付される総括所見と勧告の例
締約国の代表との対話の後に、締約国に対して送付される勧告は、時に詳細で、教育、保健、雇用といった特定の問題を取り扱っている。時に、勧告は短い文章で、絡み合った問題全体を一気に取り扱っている(例として、フィンランドに対する勧告)。
例えば、委員会は2008年に「障害のある女性に対する差別を根絶し、彼女らに対する暴力と闘い、彼女らは特別なニーズをもつ特別な集団であると認める試みを強化するようフィンランドに対して要請した。委員会は、彼女らをフィンランドの労働市場に組み込むための効果的な措置をとり、彼女らに対する差別に関する包括的な調査を定期的に実施し、雇用、教育、保健における彼女らの状況と、彼女らが経験する可能性のある全形態の暴力に関する統計をまとめ、次回の定期報告書でそういった情報を提出するよう求める」と勧告した。ここでは、少なくとも6つの条文が関係している。
委員会は、差別に立ち向かう仕組みといった構造的問題や、データに対するニーズを取り上げている。委員会は2011年に南アフリカ共和国に対して(第3条に基づき)、「締約国はジェンダー平等の促進のための強力な制度上の仕組みを確保するために、特に女性・子供・障害者省のような、ジェンダーに関する国内機関を迅速に強化すること」と勧告した。委員会はまた、ジブチに対し、「高齢者の女性、孤児であり脆弱な少女、障害のある女性や難民、移民の女性といった、複合的形態の差別に直面している典型的な女性の状況に関する詳細なデータの欠如」に対処するよう求めた。
委員会は締約国に対し、暫定的特別措置をとるように非常に頻繁に勧告している。例えば2011年に委員会はコスタリカに対し、「特に、障害のある女性や先住民族の女性、アフリカ系の女性といった不利な状況にある集団の女性に関し、女性の公的・政治的生活への完全かつ平等な参加を促進するために、女性差別撤廃条約第4条1項と一般勧告25(2004年)[訳注5]に合致するような暫定的特別措置を、必要な場合はいつでも採用するよう」勧告した。
男性と女性のステレオタイプと伝統的役割は第5条で言及されているが、形式的で実質的な平等への道における主な障害の一つである。委員会は、ステレオタイプと伝統的役割の考えは、障害のある女性に関しては複合差別を引き起こすと認識している。委員会は2010年にウガンダに対し、「高齢者の女性と障害のある女性がおかれている不安定な状況に特別な注意を払い、私人や政府のプログラム両方によるスティグマや差別と闘うために必要な全ての措置をとるよう」求めた。
委員会は常に女性に対する暴力に関心を寄せており、行動計画や法律制定、起訴や処罰といった複数のレベルで対処している。例えば、委員会は2007年にニュージーランドに対して「家庭内暴力に関する行動計画を一貫して実施し、マオリ女性、太平洋島嶼国系やアジア系の女性、移住女性や難民の女性、そして障害のある女性を含む、暴力の被害者女性を全て保護するために、国内の1995年DV法を改正するよう」勧告した。委員会は締約国に対し、女性に対する暴力の全てが、一般勧告19に即して効果的に告発され、十分に罰せられるよう確保することを要請した。委員会は、司法や公務員、法執行担当者や保健サービス提供者が女性に対する暴力に十分に対処できるように、彼らに対するトレーニングを充実させることを勧告している。
委員会はドイツに対して、「締約国の領域全体を通して、障害のある女性のような特別なニーズを有する女性が生活するために準備された十分な数のシェルターの利用可能性を確保すること、また、そのようなシェルターが十分に資金供給され、被害者の資力に関わらず全ての人に開かれていることを目指して、社会サービスの提供を監視する連邦政府、州、地方自治体間の協力を確保するために必要な措置をとること」を要請した。
教育の分野(第10条)では、委員会は2010年に、学生の学習分野の選択がジェンダー分離を反映し、障害のある女性や少女のための訓練プログラムと教育機会が不十分であることへの遺憾の意を示すことによって、フィジーの状況を批判した。
委員会が締約国に対し「障害のある女性が労働市場に参画することが出来るよう支援する特別措置をとるよう」要請した2008年のフランスに対する総括所見で示されたように、雇用(第11条)は委員会にとって大きな懸念事項である。
保健に関する事項はより重要であり、委員会は当該事項が体系的に性と生殖に関する健康と権利を含んでいると考えている。例えば、2011年に委員会はベラルーシに対し、「障害のある女性、HIV/AIDSとともに生きる女性、移住女性や難民の女性、並びに少女を含む全ての女性が、避妊手段や性と生殖に関する保健サービスに対して、農村地域であっても自由に、かつ十分にアクセスすることが出来るよう、そして入手しやすい形式で情報にアクセスすることが出来ることを確保すること」と勧告した。それゆえ、委員会は、特に精神障害のある女性のために、その状況に適合する情報を要請した。
2010年のオーストラリアの事例のように、特に不妊措置に関して完全なインフォームドコンセントの必要性が認識されている。委員会は、締約国が「生命や健康に対する深刻な恐れがある場合を除き、少女の不妊措置(障害があるか否かに関わらず)と、完全で自由なインフォームドコンセントが欠如している、障害のある成人女性の不妊措置を禁止する国内法を制定すること」と要請した。
E. 要約
委員会は障害者権利条約の批准または実施の必要性を述べるために、定期的に当条約について言及している。
要するに、委員会は総括所見と勧告において、障害のある女性は、様々な形態の差別に特にさらされている女性の集団に属しており、締約国は特別な責任を負っているという懸念を明らかにしている。交差的差別のリスクが大きくなればなるほど、差別に立ち向かうためにこれらの問題に取り組む締約国等の責任は大きくなると結論付けられるだろう。
(翻訳:稻田亜梨沙・ヒューライツ大阪インターン)
〈出典〉
http://www.ohchr.org/EN/HRBodies/CRPD/Pages/DGD17April2013.aspx
Half-day of General Discussion on Women and Girls with Disabilities
- 17 April 2013 (12:00-6:00 pm)
Intersectionality of gender and disability
Patricia Schulz, member of the CEDAW committee
[訳注]
1:一般勧告第18号「女性障害者」(第 10 回会期、1991 年)、
『女性差別撤廃委員会による一般勧告第1号~第25号(内閣府仮訳)』、
9~10頁
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku1-25.pdf
2:一般勧告第19号「女性に対する暴力」(第 11 回会期、1992 年)、
同上、10~14頁
3:一般勧告第24号(第 20 回会期、1999 年)、同上、33~39頁
4:女性差別撤廃委員会 一般勧告第28 号
「女子差別撤廃条約第2 条に基づく締約国の主要義務」(第47 回会期、2010 年)
(内閣府仮訳)
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku28.pdf
5:一般勧告第25号 「第4条1項 暫定的特別措置」(第30 回会期、2004 年)、『女性差別撤廃委員会による一般勧告第1号~第25号(内閣府仮訳)』、
39~45頁
http://www.gender.go.jp/international/int_kaigi/int_teppai/pdf/kankoku1-25.pdf
(2017年12月27日 掲載)