韓国社会で性暴力・性差別の根絶をめざし、被害者が社会に対し自分の経験を声に出す「#Me Too」運動が、大きな盛り上がりを見せ、2018年3月15日には、340を超える女性団体・労働団体、市民団体と160を超える個人の参加によって「#Me Tooと共にする市民行動」が結成されるなど、活発な活動が進められている。こうした流れを受けて、移住女性の人権をまもる活動に20年近く取り組んできた「移住女性人権センター」も、移住女性の「#Me Too」運動を展開し、3月9日には、国会で支援者や移住女性たちとともに深刻な現状を社会に訴え、政府に対し根本的な政策を求めた。韓国の滞在外国人はすでに200万人を超えており、その半分の約100万人が女性である。
2018年3月末に、ソウル市鍾路区にある「移住女性人権センター」の本部事務所を訪問する機会を得て、移住女性の「#Me Too」運動を牽引している中心的なリーダーの一人であるホ・オ・ヨンスク常任代表にインタビューした(注1)。法務部(省)がちょうど3月21日に移住女性に対する性暴力の総合対策を発表したが、インタビューのタイミングは、移住女性人権センターがその総合対策に対するコメントを発表した直後のことであった。インタビューの中からまさに現在進行中である移住女性の「#Me Too」運動にかかわる部分について、移住女性人権センターによる報道資料なども参考にして報告する。
移住女性人権センターの支援対象は、国際結婚で韓国に来た女性のみならず、女性移住労働者、中国の朝鮮族のような同胞の滞在者、性売買の関係で入国した人など外国出身のすべての女性である。しかし移住女性は、「#Me Too」運動において、直接、自分たちの性暴力被害を言える環境にはない。例えば、韓国の場合、いわゆる非正規滞在の移住女性は、性暴力を含めて暴力事件などに巻き込まれればその暴力に関しては公的な支援を受けられるが、その支援が終われば韓国から追放される。そのため自分が受けた性暴力を言えない状況がある。2017年には、10年ほどオーバーステイ状態であったタイ人女性が、職場の同僚男性に「取締りがあるから一緒に安全な場所に行こう」と連れ出され、性的暴行を受けそうになったので抵抗したところ同僚に殺されるという事件が起きた。
3月9日に移住女性人権センターが、国会で記者会見を開き、2001年のセンター設立以来、相談を受けてきた移住女性たちの様々な経験を彼女たちに替わって公表することにした。国別、在留資格別に、カンボジア、中国、フィリピン、ベトナム、タイ出身の性暴力の相談事例を挙げ、実態をふまえた政府の対策の必要性を訴えた。具体的には中国からの留学生の女性が性暴力を受けた事例、ベトナムから結婚で来た女性の母親が韓国に来て性暴力を受けた事例などを紹介した。また、主にカンボジアやベトナムから農業労働を目的として雇用許可制で韓国にきた女性たちの置かれている環境が劣悪であることを明らかにした。例えば彼女たちはビニールハウスやコンテナを寮として提供されている場合が多く、安全とは言えず、性暴力の危険にさらされていた。この公開の報告会には多くのメディアが取材にきて関心が集まっていることを感じた。
こうした動きが契機となり3月21日に法務部から「移住女性の性暴力被害者たちのための総合対策」が緊急に発表された。移住女性人権センターはそれに対するコメントを発表したところであるが、法務部の発表内容をみるとこちらの要求の10分の1ぐらいの対応でしかない。しかし、意味ある進展もあった。これまで、移住女性の政策と言えば、韓国男性との結婚のために移住した女性にかかわる「多文化家族」政策が中心であった。しかし、この性暴力の対策では結婚移住者のみならず、他のビザで滞在している移住女性も含まれている。
次に残念な点をいくつか挙げる。まず移住女性は、滞在資格がさまざまであり立場によっては被害にあってもどこに相談すればいいかアクセスが簡単ではない。法務部が指定する既存の機関一カ所だけではとても不十分である。アクセスしやすく体系的に支援できる移住女性専門の相談機関を作るべきである。
非正規滞在の人たちの在留資格が認められなければ、ずっとそうした事件が起こる可能性がある。私たちはそうした性暴力を受けた女性には合法的な在留資格を一定期間認めてほしいと求めている。未登録状態の移住女性の性暴力被害を予防し、また被害が発生した時、積極的な措置ができるようにするためには、在留が保障されるという具体的な手続きが取られなければならない。
報道資料ではさらに、2点のコメントが述べられている。1点目は、今回の報告は法務省のみの「総合対策」となっているが、性暴力の対策は基本的に関連部署が共に参画した政府全体のものを作るべきであるということだ。
移住女性の性暴力の問題は、法務部だけの担当業務ではない。ジェンダーに基づく暴力の主たる担当部署は女性家族部であり、移住女性労働者の政策は、雇用労働部が主な担当部署である。さらに地域社会の住民という点では行政安全部とも関わる内容である。
2点目は、性暴力の経歴のある雇用主にはビザ発給認定書の発給制限をするという法務部の対策についてである。必要な政策であるが、そうした雇用主には外国人雇用ビザ発給以前に外国人雇用自体の禁止がされなければならないし、働く現場で生じている問題解決や性暴力の予防教育などの対策が雇用労働部とともに作られる必要がある。
参考:ホ・オ常任代表が共同研究員として参加した『移住女性農業労働者性暴力実態調査』によると202人中、性暴力被害にあった人は25人(12.4%)であったという結果が出ている。その加害者の64%は韓国人の雇用主や管理者である。ここでは「性暴力」を9つに類型(「望まないのにわいせつな話や不快な性的冗談をいう」、「相手が自身の性的部位を露出したりさわるのを見せられて、自分が性的な羞恥心を感じる」「望まないのに、卑猥な写真や絵を見せてくる」「望まないのに自分の胸や臀部、性器など性的な身体部位をさわる」、「望まない身体接触(手を握る、顔をさわる、肩を抱く、あんま、愛撫、キス、抱擁など)をしたり、自分にするよう強要する」「デートを強要する」、「会社の宴会で飲酒を無理強いしたり、お酌をさせる」「拒否しているのに性関係をもつよう懐柔する」「暴力や脅迫によって強制的に性関係を求める(失敗した場合も含む)」)して設問している。
出所:『移住女性農業労働者性暴力実態調査』(公益人権法財団コンガム[共感]、2016年刊)(韓国語)
「移住女性人権センター」サイト http://www.wmigrant.org/ (韓国語)
「韓国女性民友会」サイト
http://womenlink.or.kr/minwoo_actions/19943(韓国語)
注:科学研究費助成金事業「ひとり親家族を生活主体とする支援のあり方に関する日韓共同研究」(研究責任者 神原文子・神戸学院大学教授)の一環で実施した訪問調査
(構成:朴君愛)
(2018年04月17日 掲載)