国連ビジネスと人権に関するワーキング・グループの専門家4人は、2018年3月26日から4月4日の間、タイを公式訪問し、バンコクだけでなく南部や東北部などの地方でも、政府、経済界、国家人権委員会やNGOなどと会い、ビジネスと人権に関する指導原則の実施に向けた取り組みや人権状況について情報交換をしました。ワーキング・グループのメンバーは訪問最後の4月4日に記者会見を行い、声明を公表しました。声明は、企業、特にグローバルな市場で活動する大企業に、ビジネスと人権の課題についての意識が高まり、行動規範作成などの取り組みが始まっていることや、政府が国営企業に対し、指導原則にそって活動するよう指示を発していることなどについて歓迎する一方、以下のようないくつかの懸念をあげています。
まず、大規模開発プロジェクトの際に行われる環境及び社会的影響評価について、影響評価を行う民間コンサルタントがプロジェクトを推進する企業の委託を受けていることが多く、中立性に問題があること、地元での協議や公聴会への住民の参加が十分ではない、あるいは批判的な住民が参加を妨げられることが報告されていることなどの課題をあげています。また、経済特区を設定する際、場所の決定や土地収用が、住民との十分な協議のないまま政令で行われていることをあげ、指導原則に基づき、特区に指定された地域に住む住民との協議のうえ、移住を余儀なくされる際には公正な補償を受けるべきであると述べています。また、タイ企業による他国の巨大プロジェクトへの投資についても、政府や企業に、苦情申し立ての制度を含む、人権侵害を防止し対処する取り組みを行うよう呼びかけています。
声明はまた、公の場所での集会の制限や平和的な抗議行動の犯罪化、市民活動を萎縮させるための訴訟の利用など、市民社会組織や人権擁護者の自由を狭め、人びとが正当な懸念を表明し、平和的に抗議する権利を不当に制限する懸念があることを指摘し、企業が名誉棄損訴訟を権利保持者や市民社会組織、人権擁護者の正当な権利と自由を損なうツールとして使わないよう政府は確保すべきであるとしています。タイのNGOは、鉱山によって引き起こされる環境や健康への被害に対して抗議した住民が襲撃されたり、鉱山による環境への影響を報道したジャーナリストなどに対して訴訟が起こされるなど、政府や企業によって、人権の保護を求めて活動する人びとに対する攻撃やハラスメントが起こっていることを報告しています。
そのほか、人身売買と強制労働について、移住労働者、障がい者、セックスワーカー、民族的マイノリティについても課題を指摘しています。
声明の最後では、政府が指導原則にそって国別行動計画(NAP)を準備し、2018年中の完成が予定されていることを歓迎し、行動計画のプロセスに関する情報が経済界や市民社会に広く共有されるための措置をとるよう助言しています。具体的には、政府が行っているセミナーや公聴会に加えて、行動計画策定の中心となっている法務省のウェブサイトに情報を掲載し、広くコメントを求め、より広い市民社会やビジネス部門を関与させることを提案しています。
(構成:岡田仁子)
<出展・参考>
(2018年04月14日 掲載)