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国連「移住グローバル・コンパクト」の文案合意(7月13日)-2018年12月採択へ
政府間協議で文案の議論
国連加盟国は7月13日、移民・移住者をめぐる国内における対処や国際協力のあり方の枠組みとなる文書「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト」(以下、「移住グローバル・コンパクト」)の文案に合意しました。
国連は、世界中で難民と移民が大規模に移動している事態を受け、2016年9月に総会で採択した「難民と移民のためのニューヨーク宣言」に基づき、難民および移民をめぐる課題に関する枠組みとなる二つの「グローバル・コンパクト」を2018年内に採択するための準備を進めてきました。
「移住グローバル・コンパクト」については、国際移住のあらゆる局面に関して政府間を中心に包括的に議論し、合意文書にまとめていこうとする取り組みとして協議が行われました。2017年4月以来、テーマ別の非公式セッションが6回、そして2018年2月~7月にかけて毎月、国連ニューヨーク本部で政府間協議が開催され、6回目の今回、合意に達したものです。文書は12月10日・11日にモロッコで行われる国連総会の一環として開かれる会議で正式に採択されることになりました。
一方、「難民グローバル・コンパクト」の文案の協議は、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の主導のもとに進められており、9月のニューヨークでの国連総会で採択される見通しです。
「移住グローバル・コンパクト」は、法の支配と適正な手続、国際人権法および国際人権基準に基づく人権保障、ジェンダーに配慮、子どもの最善の利益の確保などを基本的な考えとして据えています。2016年から実施が始まった国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(SDGs)に沿ったもので、国際協力を強調しています。一方、各国の主権尊重を確認する論旨ともなっています。
以下の23項目にわたる具体的な目標、および政策指針やベストプラクティスとなる行動を示しています。実施体制や、フォローアップと評価についても定めています。
英文でA4サイズ34ページに及びます。この文書は条約や協定ではなく、法的拘束力はないとしています。
①政策立案のためのデータ収集
②移住せざるを得なくなるような構造要因の削減
③移住の全段階に関するタイムリーな情報提供
④すべての移住者に法的に証明する身分証交付
⑤正規移住を増やし、柔軟に対応
⑥公正・倫理的なリクルート促進と、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい働き方)確保
⑦移住プロセスにおける脆弱性の軽減
⑧行方不明の移住者に関する国際協力
⑨移住者の密輸に対する国際的な対応強化
⑩人身取引の防止と対策
⑪国境管理を一貫性のある安全な方法で行う
⑫入国時手続きの確実性とリスク予測の強化
⑬収容は最後の手段として、代替措置の追求を
⑭領事館による保護、援助の拡大
⑮基本的なサービスへのアクセスを可能に
⑯インクルージョン促進のため、移住者や社会をエンパワー
⑰あらゆる差別撤廃と、事実に基づく議論促進
⑱スキル開発への投資と資格承認
⑲あらゆる国において移住者が持続可能な開発に貢献できる条件を創出
⑳迅速・安全・安価な送金の促進
㉑尊厳のある帰還、再入国、再統合の促進
㉒社会保障の受給資格や年金の国を超えた移管
㉓国際協力、および安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・パートナーシップの強化
人権理事会の特別報告者、国連の既存の人権メカニズムを活用し、「移住グローバル・コンパクト」の実施を推進するよう提案
-生命の危機につながる送還の禁止や子どもの収容禁止などを強調
国連人権理事会の「移住者の人権に関する特別報告者」、「拷問、残虐、非人道的または品位をおとしめる処遇または処罰に関する特別報告者」および「人種主義の現代的形態に関する特別報告者」の3人は7月11日、「移住グローバル・コンパクト」の案文を議論する最終の政府間協議を前に、ノン・ルフールマン原則(生命または自由が危機にさらされるおそれのある国に送還してはならない)、子どもの最善の利益、非差別に関して国際法上の義務に則ったものとするよう求めました。
それに先立ち6月7日には、移住者の人権に関する特別報告者を含むさまざまな課題に関する19人の人権専門家が、各国に、在留の地位に関わらず、すべての人の人権を尊重し、保護し、充足する義務にそって移住政策を策定することなどを求める共同書簡を公表していました。
今回、3人の特別報告者は、ノン・ルフールマン原則を明示的にグローバル・コンパクトの文章に入れるよう呼びかけるとともに、2016年のニューヨーク宣言において、「各国が国境を越えた移動を犯罪化する政策を見直すことを検討する」と掲げていることを指摘し、子どもの最善の利益の原則に基づき、子どもの移住者の収容は行ってはならないと述べました。また、特別報告者などによる特別手続き(特別報告者などがNGOや人権侵害の被害者からの情報をもとに問題に対処するシステム)、人権条約機関など国連の既存の人権メカニズムを、グローバル・コンパクトの実施、見直し、フォローアップにおける重要な構成要素として取り入れるよう促しました。
ノン・ルフールマン原則は、グローバル・コンパクトの原案およびその後の修正案には含まれなかったものの、5月に出された第二次修正案の目標21「尊厳のある帰還、再入国、再統合の促進」の項目に明示的に入れられました。しかし、6月に出された第3次修正案では、「死亡、拷問または他の取り返しのつかない被害の真の予想可能な危険がある場合、送還を控える国際法上の義務」には言及はあるものの、原則は削除されました(最終文案には復活していない)。
また、3月の第1次修正案までは、目標13「収容は最後の手段として、代替措置の追求を」に「在留資格にかかわらず、子どもの収容をやめることにより子どもの権利と子どもの最善の利益を保護する」とされていた文章が、「やめるよう努める」(working to end)となりました。
(構成・藤本伸樹、岡田仁子)
<出典> いずれも国連サイト(英文)
Refugees and Migrants - Compact for Migration
Global Compact for Migration: UN experts call on States to ensure protection of migrants’ rights(July 11, 2018)
Open letter of special procedures on the Global Compact on Migration(June 7, 2018)
<参照> いずれもヒューライツ大阪のニュース・イン・ブリーフ
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