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国連人種差別撤廃委員会、日本報告審査を開催(第1日目・8月16日)
国連人種差別撤廃委員会(CERD)は8月16日、ジュネーブで人種差別撤廃条約の実施状況に関する日本報告審査を2日間の日程で開始しました。1995年に締約国になって以来2001年、2010年、2014年に次ぎ、今回が4回目の日本審査です。
内閣府、法務省、厚労省、文科省、外務省などからの10数人で構成する日本政府代表団が出席してきています。
審査1日目は、ジュネーブ時間の午後3時(日本時間午後10時)から6時(同17日午前1時)まで行われました。
日本政府代表の全体説明
はじめに日本政府代表団の団長である外務省総合政策局の大鷹正人審議官〔大使〕が、約30分にわたり全体説明を行いました。まず、①2016年制定のヘイトスピーチ解消法、②先住民族であるアイヌの象徴空間として2020年4月にアイヌ文化センターをオープンすることについて紹介しました。
そして、委員会が5月に日本政府に送っていた事前の質問リスト(リスト・オブ・テーマ)のうち、①ヘイトスピーチ、②アイヌ民族、③技能実習制度、④人身取引、⑤「慰安婦」の5点の課題に関する日本政府の取り組みを説明しました。
日本報告担当のボスート委員から総括的な問題提起
大鷹団長の説明を受けて、18名の委員のなかで、日本報告担当のベルギー出身のボスート委員が、2014年の日本政府に対する総括所見に盛り込まれた課題およびその後の状況の変化や進展に言及しながら、以下のような多岐にわたる課題について総括的な問題提起をしました。
・人種差別の禁止・処罰を求める条約第4条の関連で、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムの問題が起きているが、差別や暴力が起きないようにどのようにしているのか。ヘイトスピーチについてどんな実態調査があるのか。公人によるヘイトスピーチに対する制裁はあるのか。2016年のヘイトスピーチ解消法には、保護の対象が適法に居住する外国人という要件になっているがなぜなのか。包括的な法律を制定する必要があるのではないか。
・アイヌ民族の生活実態調査が北海道で行われた。アイヌ語は危機に瀕しているが、アイヌ文化が教科書に載っておらず、学校で教えられていないと聞く。また、学校でも職場でも差別が存在する。歴史的に差別が継続している。アイヌ民族について、どのような法律が施行されているのか不明確である。教育、労働、文化・言語の権利が保障されていないのではないか。アイヌの歴史を教科書に掲載すべきである。
・琉球・沖縄の人たちを先住民族として認め、権利を守ることが必要である。しかし、日本は先住民と認めることを拒否している。日本の本土から移住した人は別として、琉球の人たちの先住民性を認め、権利を守る必要がある。
・ 部落民について、政府が定義を定めることが必要だ。2016年に部落差別解消推進法が制定された。差別に対してどのような具体的対策を講じているのか。就職や結婚における差別、土地をめぐる差別、他人による戸籍の違法な閲覧の問題など差別を撤廃しなければならない。
・警察は否定しているが、ムスリムに対する民族的・宗教的プロファイリングが行われているという情報がある。
・先住民女性をはじめマイノリティ女性に対する暴力の問題があるが、データがない。外国人女性と日本人男性の婚姻・離婚に関して、DVの問題をはじめ女性の権利保障が図られているのか。
・「慰安婦」問題について、第二次世界大戦後、被害者のままの状況が続いている。日本軍による「慰安婦」に関する十分な調査・報告が必要であり、適切な補償や謝罪が必要だ。歴史の事実を否定する発言は名誉毀損である。2015年の日韓合意で10億円の基金や、1995年のアジア女性基金も存在したが、「被害者を中心に据えたアプローチでない」という情報がある。「慰安婦」問題は軍隊による性奴隷制であり、人権侵害である。生存者と家族に適切な措置がなされるべきである。
・移住者および難民に関して、基本計画をはじめ住居支援、教育支援などが不十分だ。移住者や難民申請者は、健康、住居、就労などにおいてさまざまな困難を抱えている。
・技能実習制度では人権侵害が起きている。技能実習法が制定され、制度を監視する技能実習機構が創設された一方、実習期間が3年から5年に延長された。この制度は、労働力不足のため導入されているが、ベトナムなどからの技能実習生の人権を十分に保護する措置がないという情報がある。
・4,000人対象の外国人の生活実態調査によると回答者の40%が住宅への入居を断られた経験があり、30%が差別発言を受けたという。また、「ジャパニーズ・オンリー」という告知・看板が公然と出されているケースがある。NGOは、規制する法律がないからだと説明している。
・外国人のなかには国民年金制度から除外された人たちがいる。在住外国人の年金、健康保険、障害保険の保障が必要である。国籍を差別の根拠にしてはならない。
・公務員の国籍要件の緩和が必要だ。とりわけ、長期に在住する外国人の権利が保護されるべきである。外国籍者は、家裁調停員に任用されないという問題もある。40万人の在日コリアンは植民地時代から何世代もわたり日本に住んでも外国籍のままである。公務就労や地方議会の選挙権、義務教育を受ける権利の保障がなされるべきである。
・大阪地裁は2017年7月、コリアンの子どもの教育を受ける権利を認める判決を出した。2010年以後、北朝鮮との結びつきなどを理由に朝鮮学校は、高校授業料無償化から除外されているとともに、各地の自治体で朝鮮学校への補助金が廃止される事態となっている。
・人身取引について、日本政府は詳しい説明を行っているが、2005年の刑法改正、2014年の人身取引対策行動計画の効果に関連し、人身取引の加担者の起訴数など詳細な報告が行われるべきである。
・難民申請者について、難民申請者が2万人超もいるにもかわわらず、認定者数は非常に少ない。一方、認定されずに入管施設に長期収容されている人たちも多くいる。難民認定されず、社会保障の対象にならない人たちがおり、就労許可を受けることができないまま働かざるを得ない状況に置かれた人たちがいる。
NGOとの対話
ボスート委員は、審査に先立つ8月14日午前、人種差別撤廃委員会が、同じ週の審査対象となるモーリシャス、キューバ、日本に関連するNGOとの非公式協議を行い、情報収集したことにふれました。そして、日本のNGOからは、事前に日弁連や人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット、事務局IMADR)などによる非政府の立場からの包括的なレポートが提出されていると述べました。一方、それらを否定する内容のもうひとつのカテゴリーの「NGOレポート」を受け取っていることにも言及しました。
日本政府の回答は2日目に
その後、各委員による質問やコメントに移りました。下記の9人の委員が多岐にわたる質問やコメントを述べたところで閉会時間の午後6時となりました。日本政府からの回答は、審査の2日目である17日に行われます。
マルガン委員
・ヘイトスピーチを規制する人種差別撤廃条約4条abの留保について。
・ヘイトスピーチ解消法には差別扇動に対する罰則がないが犯罪化しない理由は?
・外国人に対する入居差別をはじめとする差別行為と被害者救済は?
・コリアンが通名にせざるをえないのはなぜか?
マクドゥーガル委員
・「慰安婦」問題について。2015年の日韓合意は不十分。
・ヘイトスピーチに関連し、差別発言をした政府高官が罰せられていない。
・韓国人へのヘイトスピーチの中心は「慰安婦」に対するもの。傷口が広がっている。
・在沖縄米軍による女性に対する暴力に憂慮している。
ムリリョ・マルティネス委員
・アイヌの人口について、
・差別に対処する法律はあるのか。
・日本企業が外国で活動する場合の人権基準について
イザック・ンジャイエ委員
・ヘイトスピーチに憂慮。マイノリティのメディアを支援することがヘイト対策として必要。
・部落差別について。戸籍の不正取得、インターネットへの掲載への刑罰は?
カリ・ツアイ委員
・外国籍住民も日本人と同様に生活保護にアクセスできるか?
・在留資格の取消しへの恐怖から日本人の夫からDV被害を受けた外国人女性は通報を躊躇っているのではないか。
・在日コリアンは、日本で生まれ育ち日本の法律上の義務は果たしているのに、公務就任が制限されている。教員について、公立学校の教頭や校長になることができない。
アフトノモフ委員
・再入国許可制度において、北朝鮮のパスポートを持っていると別扱いになっている。
・技能実習生について、来日前に手数料や保証金として借金をおわされている。来日後は最低賃金法違反や賃金不払いがある。
リー委員
・条約4条aとbを留保してヘイトスピーチに対処できるのか。
・技能実習生に対する強制帰国への刑罰がない。長時間労働、低賃金など劣悪な労働条件のもとに置かれている。
・慰安婦について、日本は国際社会の声を受け止め、解決して欲しい。
鄭委員
・慰安婦問題は1990年代から、人種差別撤廃委員会だけでなく、多くの国連機関で議論されてきた。これは日韓の問題ではなく、人間の尊厳の問題である。
・朝鮮学校への支援に関して、政府は自治体に対して北朝鮮との関連を見るように指示したことから、補助金がとめられた例がある。
・オンラインのヘイトスピーチにより、不正確な事実や情報が拡散している。政府はどう対処しているのか。
・部落民について、人種差別撤廃委員会は、2010年に包括的定義を勧告し、2014年にも統一的な定義がないとした。かつて、国連人権小委員会が「職業と世系に関する調査」を行ったときにも議論したが、なぜ日本政府は部落民を条約でいう「世系」に入れないのか、
ディアビ委員
・表現の自由との関連であるが、ヘイトスピーチを規制することはできないのか。
・琉球・沖縄について、日本は先住民族ではないというが、米軍基地があり、事故が起き、人々が苦しんでいる。
・1952年に旧植民地出身者が国籍喪失した。無国籍者の地位に関する条約について批准するのか。
・警察の捜査のためにムスリムのプロファイリングが行われている。
(藤本伸樹@ジュネーブ)
※参考
IMADR Geneva(日本語)
前田朗BLOG(日本語)
Committee on the Elimination of Racial Discrimination examines the report of Japan (17 August 2018) 英語
※審査の動画 (UN WEB TV)
Consideration of Japan - 2662nd Meeting 96th Session Committee on Elimination of Racial Discrimination (16 Aug 2018)約3時間 日本語通訳あり