ヒューライツ大阪は
国際人権情報の
交流ハブをめざします
第44会期人権理事会開催される(6/30-7/17)-フィリピンの人権課題など報告
第44会期国連人権理事会が2020年6月30日から7月17日まで開催されました。当初6月中に開催される予定でしたが、新型コロナウィルス感染拡大で3月に中断し、再開された第43会期理事会が6月23日に終わったところでした。
今会期は、バチェレ国連人権高等弁務官による、新型コロナウィルス感染症に関連した人権課題に関する報告で始まり、フィリピンの人権状況やミャンマーのロヒンギャや他のマイノリティに関する状況、ベネズエラ、ニカラグア、シリアなどに関する報告が行われたほか、子どもの権利の関心事としての健康的な環境、新しいデジタル技術の課題や気候変動における障害者の権利に関するパネル・ディスカッションなどが行われました。
フィリピンの人権状況
2019年6~7月に開催された第41会期人権理事会において、人権高等弁務官に対して、フィリピンの人権状況について報告するよう要請がされていましたが、今会期、その報告書が提出されました。フィリピンのドゥテルテ政権下で人権活動家やジャーナリストなどに対する殺害や違法薬物に対する「戦争」として多くの人が殺害されているという事態を受けたものです。
報告は、同国において、テロリズムおよび薬物の取り締まりなど治安と安全保障に重点を置いた法律および政策が実施される際、人権、法による支配や説明責任などが犠牲になっているとしています。反違法薬物キャンペーンの下で、広範で系統的な殺害が行われていることが示唆されたり、多くの人が逮捕・拘束され、刑務所が過密状態であることがあげられています。また、対テロ活動をはじめとする治安や安全保障を理由として人権団体、弁護士、ジャーナリストなどに対する嫌がらせや脅迫、殺害が行われ、市民社会に大きな影響が及んでいることを指摘しています。
フィリピンでは、従来から人権活動を含む市民活動が活発でしたが、個人や団体を共産党やテロリストと名指しする「レッド・タッギング」が行われ、政府がテロリストとして指定するために裁判所に提出したリストには、先住民族の権利のための活動家や国連の特別報告者も含まれています。報告は、違法薬物の取引・使用や紛争に対する取り組みは、証拠に基づき、法の支配に合致し、人権を尊重して行われなければならないと勧告しています。
人権理事会では、フィリピンのゲバラ司法大臣がビデオ・メッセージで、大統領の反薬物キャンペーンがフィリピン国民の支持を得ており、また、省庁間委員会を設置して、フィリピン人権委員会と協力して超法規的殺害や他の侵害に関する調査を行っていると報告しました。一方、フィリピン人権委員会の代表は、同じくビデオ・メッセージで人権高等弁務官報告を歓迎すると述べています。
新型コロナウィルス感染症への対応
ニカラグアやシリアなどの人権状況について、感染症の拡大による状況の悪化が報告され、健康の権利に関する特別報告者は、感染症の精神的健康に対する影響について述べるなど、さまざまな課題の討議において新型コロナウィルス感染症について言及されました。また、新型コロナウィルス感染症と女性の権利に関するパネル・ディスカッションも行われました。
人権理事会は、パンデミックおよび他の保健上の緊急事態、並びにそれによる社会経済的影響に対応する国の中心的役割について決議を採択しました。決議は、パンデミックなどへの対応における国際協力の重要性、および対応のために取られた緊急措置が国際人権法に従っていなければならないことを再確認し、新型コロナウィルス感染症の対応に必要な、質の高い、安全で安価な技術および製品への普遍的で時宜にかなった、衡平なアクセスを呼びかけています。
また、女性と少女に対する差別の撤廃に関する決議において、新型コロナウィルス感染症により、家父長制、人種主義、外国人排除や社会経済的不平等などの既存の不平等や制度的差別が深刻化し、女性に対する性的およびジェンダーに基づく暴力、女性および少女の無償のケアと家事労働が増え、雇用や生計手段の喪失につながっていることが懸念されるとしています。そして、感染症への対応に関する地方、国および国際的な政策決定への女性の参加およびリーダーシップの確保を呼びかけ、感染症対応に人権に基づいた、ジェンダーに配慮したアプローチをとることを要請しています。とりわけ、外国人排除、社会的スティグマ(汚名)、性的およびジェンダーに基づく暴力、DVからの保護、社会経済的機会や医療へのアクセスなどを含め、特に被害に遭いやすい状況にある女性および少女と、彼女たちの具体的ニーズに特に注意を払うよう求めています。
平和的な集会および結社の自由の権利
設置されて10年を迎える「平和的な集会および結社の自由の権利に関する特別報告者」は、これまでを振り返り、今後の課題を示す報告を提出しました。そのなかで新型コロナウィルス感染症の対応策が集会や抗議行動に及ぼす影響について言及し、国家のとる感染拡大防止策が、人権を尊重する、市民社会を感染症対策の不可欠のパートナーとして見なす、オンラインの集会および結社の自由を尊重するなど、確保すべき10の原則をあげています。
人権理事会は、平和的な抗議行動に対して、恣意的な逮捕や拘束、拷問などが行われ、抗議行動の参加者、その場に居合わせた人やジャーナリストに対する攻撃が起こっていることを懸念し、感染症拡大などの緊急事態においても人権が尊重され、保護されることを確保するよう呼びかけるなどの決議を採択しました。
(構成・岡田仁子)
<出典>
Human Rights Council concludes forty-fourth regular session after adopting 23 resolutions (2020年7月17日 OHCHR)
<参照>
国連・表現の自由特別報告者、フィリピンの著名ジャーナリストへのサイバー犯罪防止法による有罪判決を非難(6/16)ヒューライツ大阪ニュース・イン・ブリーフ