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シネマと人権8: この国の政治の澱(おり)を拭い去ることは可能か 『はりぼて』

小山 帥人(ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事)
 
 日本の政治は、金と権力への欲望によって動かされている。そこでは真摯な言葉は滅多に語られず、虚言と無内容な美辞麗句が用いられる。それは国政だけでなく、地方にも巣食っている病根と言える。
 富山市議会の巨大な建物には、何故かカラスが覆うように飛び交っている。食べ物のおこぼれを探すカラスの群は何を象徴しているのか。コメントはないのだが、4カットのカラスのイメージは強烈である。

不正を認めて議員が次々に辞職
 2016年、富山市では市会議員が政務活動費の不正使用などで次々に辞職し、その数は1ヶ月で12人にのぼった。ローカル局「チューリップテレビ」が執拗に追及した結果だ。
 議員報酬引き上げを主導し、女性記者の取材メモを無理やり奪うなどの傲慢な振る舞いをしていた政権党のボス議員が、チューリップテレビから不正を示す資料を突きつけられて辞職した。多くの議員が、領収書に数字を書き加えたり、業者から白紙の領収書をもらったり、パソコンで領収書を作ったりしていた。さらにカラ出張、茶菓子代の水増し請求など、次から次へと不正が明るみに出される。はじめは否定していた議員たちが証拠を突きつけられ、「飲むのが好きなもので」と頭を下げたり、土下座したり、みっともない様子を見せる。
 議員だけではない。公務員も市民の側に立っていない。公民館の使用についてテレビ局が情報公開請求をすると、そのことが教育委員会の生涯学習課から、議会事務局を通して議員に報告され、隠蔽工作が始まっていた。結局は守秘義務違反を謝罪することになる。
 チューリップテレビの記者たちは、情報公開請求をし、業者の話を聞き、事実を積み重ねて、議員に質問する。市議会議長らが次々に不正を認め、陥落している有様は心地よいほどで、チューリップテレビ報道制作局は2017年に菊池寛賞を受賞している。

メディアの複雑な内情も
 こうした経過を見ると、ローカルテレビの活躍が地方の悪弊を変革していく希望だと感じられるのだが、この映画では、メディアの内情も綺麗ごとではないことが明かされる。
 終わり近くになって、ニュース番組のキャスターでもあった記者が退職を告げる。不正追及の先頭に立っていた一人だ。もう一人の市政記者はメディア戦略室に異動になる。二人はこの映画の監督でもある。報道局長は異動になり、デスクは退職したという。何があったのか、組織メディアの限界なのか。すべてがわからないのは残念だが、そうしたメディアの実情の一端を示したことは、貴重なことだ。
 金や権力ではなく、ひとりひとりの権利を守るために、議会もメディアも存在するはずだ。長年日本の組織に根づく澱(おり)のようなものの力はまだ強いが、カメラを構えて議員に質問を続ける若い記者に期待したい。

はりぼて.png
               ©チューリップテレビ
『はりぼて』
2020年/日本/1時間40分
監督:五百旗頭幸男、砂沢智史
配給:彩プロ

<公開日程>
8月22日(土)から第七藝術劇場(大阪市)
9月4日(金)から京都みなみ会館
順次 神戸元町映画館 にて公開。

(2020年08月18日 掲載)