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シネマと人権6:ヒトラーの弾圧とユダヤ人差別に抗して生き抜く一家 ~ドイツ映画「ヒトラーに盗られたうさぎ」

 今の日本のきな臭さは1930年代に似ていると言われる。この映画は、ドイツでヒトラーが政権を握る30年代のユダヤ人一家の物語である。主人公は9歳の少女、アンナ。運動や絵が得意で、言いたいことをずけずけ言う活発な女の子である。演劇批評家の父、音楽が好きな母、3歳年上の兄の4人家族である。
父はヒトラーに辛辣な批判を加えていたことから、ヒトラーが政権を握れば身に危険が起きることが予想された。選挙でヒトラーが大勝しそうなある日、一家はベルリンを逃れてスイスに向かう。荷物は手に持てるだけ、おもちゃは一つと制限され、やむなく大好きなうさぎのぬいぐるみを置いていく。アンヌはあとから送るという言葉を信じていたが、残した荷物はナチスに没収されてしまう。
亡命旅行は大変だ。国境を越える時の旅券のチェックには、ヒヤヒヤさせられる。それでも山並みや湖が美しいスイスの山荘に泊まることができ、アンヌと兄は学校に行く。どこの国でも新入りは苦労するものだ。男は真ん中を歩いて、女は端を歩くという村の習慣を知らないアンヌはみんなに笑われる。でも方言(スイスドイツ語)にも慣れ、友達もできて、アンヌはスイスの田舎の生活を楽しむようになっていく。

フランスでのユダヤ人差別
 しかし、父の収入が少ない。スイスのユダヤ系の新聞での仕事は週一回のコラムだけで、家族の生活を維持できず、一家はパリに引っ越す。両親はフランス語を話せるようだが、子どもにとっては、言葉の違う国に暮らすのは大変だ。きょうだいで、鉛筆を買いに行き、慣れないフランス語で安いものを買う様子が微笑ましい。
フランスでもユダヤ人差別は強いようだ。家賃を払えない一家に管理人は「ユダヤ人」と悪態をつく。学校でもアンヌは苦労する。まず先生の言うことがわからない。それでも1年後には、フランス語で作文を書き、賞金を取るまでに成長する。その一方で、生活苦は続き、父と母はお金のことで喧嘩を始める。いつも空腹な兄も母に反抗する。小さなアンヌはそんな境遇に胸を痛めながらも、絵を描いて慰める。

自信を持ち成長していく少女
父の戯曲がイギリスで売れたことから、一家はイギリスに引っ越すことになる。故郷のドイツに戻りたいが、ユダヤ人を撲滅しようとするナチスの政権では帰ることはできない。引っ越すことに抵抗していたアンヌも10歳になり、「どこへ行ったって言葉はすぐ覚える」と自信がつくまでに成長していく。
実はアンヌのモデルは世界的な絵本作家ジュディス・カーなのである。彼女の自伝作品「「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を映画化したものだ。彼女の児童書は世界25の言語に翻訳され、発行部数は1,000万部以上になる。
1933年に44%の票をとったナチスは、やがて全権を掌握していく。ナチス党の人々が優遇され、政権に批判的な批評家が追い出される事態は、過去のことだが、近未来にならないことを願わずにはいられない。

小山帥人(ジャーナリスト、ヒューライツ大阪理事)

<ヒトラーに盗られたうさぎ>
2020年/93分/ドイツ/英語・フランス語・ドイツ語
監督:ゲロ・フォン・べーム
配給:彩プロ
公開:12月4日(金)より シネ・リーブル梅田
   1211日(金)より 京都シネマ、シネ・リーブル神戸

ヒトラーに盗られたうさぎ.jpg© 2019, Sommerhaus Filmproduktion GmbH, La Siala Entertainment GmbH, NextFilm Filmproduktion GmbH & Co. KG,
Warner Bros. Entertainment GmbH

(2020年11月25日 掲載)