特活)国際協力NGOセンター シニア・アドボカシー・オフィサー 堀内葵
持続可能な開発目標(以下、SDGs)の進捗報告やフォローアップは、グローバルレベルでは毎年1回、7月に国連本部で開催される「ハイレベル政治フォーラム(以下、HLPF)」で行われている。国連加盟国はこの機会に「自発的国家レビュー(以下、VNR)」と呼ばれる報告書を作成し、各国におけるSDGsの進捗状況やさまざまなステークホルダーの取り組みを報告している。
日本政府は、2017年のHLPFではじめてVNR「国連ハイレベル政治フォーラム報告書~日本の持続可能な開発目標(SDGs)の実施について~」を発表し、SDGs推進本部の設置やSDGs実施指針の決定、優先課題の概況や好事例の紹介を行った。それから4年が経過し、2021年のHLPFにて2回目となるVNR「2030アジェンダの履行に関する自発的国家レビュー2021~ポスト・コロナ時代のSDGs達成へ向けて~」を発表した。報告書の題名からも分かる通り、1回目はSDGsの実施体制に焦点が当たっていたのに対し、2回目は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大状況にある中、どのようにSDGsを達成していくのかが中心的な内容となった。
1回目からの変化として顕著なのは、1)策定にあたってパブリックコメントを実施し、市民社会も含む様々なステークホルダーからの意見を募集したこと、2)政府だけではなく、SDGs推進円卓会議構成員による進捗評価を盛り込んだこと、3)ジャパンSDGsアワード、SDGs未来都市、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム、次世代のSDGs推進プラットフォームなど、2017年後半以降の政府の取り組みについて記載されていること、などが挙げられる。もちろん、2020年初頭以降のCOVID-19感染拡大によって、健康に関する目標3を始め、様々な目標への影響とその対応策についても言及されている。
2回目となるVNRの作成にあたり、SDGsの達成に取り組む市民社会組織のネットワークである一般社団法人SDGs市民社会ネットワークは、SDGs推進円卓会議構成員に対する情報提供、SDGs推進本部事務局を務める外務省地球規模課題総括課を窓口とした関係府省庁との対話、自民党・公明党・立憲民主党・国民民主党や超党派議連「NGO・NPOの戦略的あり方を検討する会」との会合、そして、4月30日から5月13日まで開催されたパブリックコメントの解説などを通じて、VNRに記載すべき項目について市民社会の視点から日本政府に対してインプットを行なってきた。
市民社会と関係府省庁との意見交換会では、政府がデータを公表していないグローバル指標について整備を進めること、後退が指摘されている目標10「人や国の不平等をなくそう」では特に丁寧に状況を報告すること、日本の状況への注目が集まっている目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に関する現状のレビューを行うこと、COVID-19が健康・雇用・教育に与える影響をレビューすること、ギャップ分析とバックキャスティング(達成時点から逆算して政策を考えること)を行うこと、「気候変動とジェンダー」や「資源開発と先住民の権利」など分野横断的な取り組みの重要性を打ち出すことなど、全体に関わることから個別目標まで、幅広く提言を行なった。
SDGs市民社会ネットワークは、パブリックコメントをどのように提出すれば良いのかの手順を示した「パブコメガイド」を作成し、VNRに幅広い声を反映させるよう努めた。市民社会組織は、「SDGsに資するように多様な文化とつながりながら学習できる環境づくりを促進する」(認定特定非営利活動法人開発教育協会)や、「日本のSDGs達成に向けた目標や指標の整備が必要である」(一般財団法人CSOネットワーク)など、個別課題や実施体制について意見を提出した。
パブリックコメントには72件の意見が寄せられ、それぞれに対してSDGs推進本部の考え方が記載された。ジェンダー平等や国際保健など、可能な限りVNRに取り入れられたものもあれば、「今後の取組の参考とする」にとどまったもの、反映されなかったものなど、対応は様々であった。当初案では「国民」という表現が用いられていたことに対し、「『国民』を『市民』に改めるべき。『誰一人取り残さず』にSDGsを達成するには、『国民』にとどまらない『市民』という視点で取り組むことが必要不可欠」という意見が寄せられ、SDGs推進本部は「可能な限り『市民』という表現を反映し」、「今後の実施の段階においても、頂いた御意見を参考にしつつ取組を進めていく考え」であることが示された。
一方、目標16「平和と公正をすべての人に」について寄せられた「情報への公共アクセスが確保されていない状況であることを記載すべき」という意見は、行政機関の保有する情報の公開に関する法律が十分に機能しておらず、不必要に黒塗り部分の多い文書が開示されることや、首相の記者会見で再質問が許されていないこと、公文書の隠蔽・廃棄や改竄など、人々の「知る権利」が脅かされていることへの対処を求めて提出されたものである。しかし、SDGs推進本部の考えは、同法律があることから「日本は情報へのパブリックアクセスを保障した憲法、法令、政策の実施を採択しているといえ、情報への公共アクセスが確保されている状況である」というものであった。市民社会の懸念と大きな隔たりがあることがわかる。
パブリックコメント結果の公表から約1ヶ月が経過した7月15日に、日本政府がHLPFにおいてVNRを発表した。外務大臣からのメッセージ、JICA・民間企業・市民社会のSDGs達成に向けた取り組みに加え、市民社会から選出された3名が登壇し、国内の貧困・ホームレス支援、性と生殖に関する健康と権利(SRHR)とジェンダー平等、障害者の権利とインクルーシブ教育について現状と提言を発表した。
VNRの発表は15分間のビデオ形式で行われ、国連加盟国やメジャーグループと呼ばれる社会の様々なステークホルダー集団との質疑応答もなされた。盛り込まれた内容や背景情報をより詳しく説明するために、7月16日に「VNR Lab」という各国がVNRの経験を報告するセッションが設けられ、日本政府、民間企業、研究機関、若者、そして市民社会の代表が登壇した。SDGs推進への関与や貢献、直面した課題、VNRを踏まえて得られたこと、日本での取組をどのように世界全体のSDGs達成につなげていくか、などの質問に各セクターからの登壇者が答える形で進行した。
このVNR Labにおいて、市民社会からの登壇者3名が発表したのが、「SDGsスポットライトレポート2021」である。これは、SDGs市民社会ネットワークが日本と世界のSDGs達成に向けた現状と課題を分析し、日本政府への提言をまとめたものである。SDGsジャパンに設置された11の分野別ユニット(開発、障害、防災・減災、環境、教育、ジェンダー、国際保健、地域、貧困、社会的責任、ユース)が主に執筆を担当した。
HLPFにおけるVNR発表やVNR Labはすべて英語で実施されたため、7月30日には日本国内向けに、市民社会による政策提言と「SDGsスポットライトレポート2021」を紹介するためのウェビナー「日本におけるSDGsの達成状況を評価~市民社会の視点からの評価レポート公開」が開催された。VNR-Labに市民社会メンバーとして登壇した3名からの報告、VNRプロセスにおける成果と課題、スポットライトレポートの説明と、執筆を担当した各ユニットから主要課題の解説を行なった。ウェビナーの録画と投影資料は上記リンクから公開されているのでぜひご確認いただきたい。
(2021年08月27日 掲載)